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36 祝杯です!

 ブンボン郊外の地下ダンジョンから帰還した僕たちは、あくる日インギンさんの呼び出しを受けた。

 繰り出した先はブンボンの繁華街、いつも夕方になると買い物にやって来る場所だ。

 けれど今日は市場の方向にではなく、少しだけ奥まった場所にある酒場や食堂の並んでいるエリアに向かう。

 何しろ今日は冒険者ギルド《ビーストエンド》のダンジョン攻略初踏破を祝った打ち上げがあるんだからね!

 そして何より僕たちが楽しみにしていたもの。それは、


「いよいよお待ちかねの、おちんぎんタイムだな!」


 目抜き通りを闊歩するシャブリナさんが、興奮気味に僕の肩に手を回してそんな事を言う。

 そうすると僕の顔のすぐ横で、たわわなお胸がばるんばるんと揺れる。

 時折、その暴力的な巨乳が僕の頬に触れるものだから、おちんぎん以外のところが反応しそうになった。

 祝宴に出席するからと、独りだけおめかしを決め込んだシャブリナさんは、ドレス風の格好だから余計にお胸の感触がヤバかった。


「そ、そうだね。ちゃんとおちんぎん分の働きが出来ているのならいいんだけど……」

「もちろんセイジさんは、自信をお持ちになってもよろしいんですのよ? 何といっても魔法文字の解読で大活躍だったではありませんかっ」

「そのう。セイジくんがいないとダンジョンの踏破はできなかったかもしれないのです……」


 反対側から僕の腕を取るドイヒーさんも、実り多き胸を押し付けてくるからたまらない。

 こちらも普段は気取った風を装っているけれど、今日ばかりは興奮を隠せないという感じだね。

 ティクンちゃんも内股を擦り合わせる様にモジモジしていたけれど、その原因はソワソワしているからで間違いない。


「いやそんな僕なんて、みんながいたからダンジョンに入れたんだしねっ」

「そうだぞ。わたしと貴様は相棒だからな、いやもはや一心同体と言っても過言ではないッ」

「わたくしたちのチームプレーも、なかなかのものですからねっ」

「フンフン、コクコク!」


 やっぱり、おちんぎんはみんな大好きなんだ!

 何と言ってもはじめての迷宮暮らしで手に入れたアルバイト代だから、喜びもひとしおだ。

 それに僕にしてみれば、ホームレスの保護施設でお世話になっていた事を考えれば、報酬をもらえる立場になったのは立派な成長だ。

 なんて事を密かに胸に秘めながら、パイ圧と甘い吐息に翻弄されつつ人込みを抜けると。

 ビーストエンドのギルドメンバーが集まる大きな酒場へと到着した。


「こっちだよこっち、セイジさん!」


 酒場の入り口には案内役をやっているのだろうか、勇者シコールスキイさんが大手を振って出迎えてくれた。

 隣には大口を引きつらせて、本人はニッコリ笑っているつもりのパンチョさんの姿もある。


「いやあ、わざわざ来てくれてありがとうねえ。今日はどれだけ呑んで食べてもギルド持ちだから、支払いの事は気にせずに楽しんでくれるといいよ~」

「「「はい!」」」

「最初の乾杯の前に、インギンオブレイさんと僕がそれぞれのパーティーに報酬を持って回るからね。お楽しみにね♪」

「「「やっぱり冒険者は最高だぜ!」」」


 ついつい僕ら班の仲間たちは、訓練学校のノリで元気良く返事をしてしまった。

 ティクンちゃんまで背中をビクンビクンさせながら「だぜ!」を一緒になって言っている。

 そんな姿がとても微笑ましい。かわいい。


「さ、きみたちシャブリナパーティーの席はあっちのテーブルだよ。食事はコース料理だけれど、飲み物は自由に頼んでいいから」

「「「ありがとうございます!」」」


 パンチョさんに案内されるがままに着席する。

 さっそくご機嫌なドイヒーさんが、ドリンクのメニュー表を片手にふんふんと思案に暮れる。


「やはり冒険者と言えばポーションで祝杯をあげるものだと聞いておりますわっ」

「ポーションで乾杯?!」

「ポーションストレート、ポーションの水割り、ポーションのポーション割り、ハーフアンドハーフ。わたくし冒険者になったら、いつかやってみたいと思っておりましたの!」


 金髪縦ロールを揺らしながら、ドイヒーさんがおかしな事を言い出した。

 乾杯と言えばお酒でするものだと僕の中には先入観があった。

 けれど冒険者はそんな事をしないだって?

 ポーションをストレートで呑むのはともかくとして、ポーションのポーション割りに至っては意味不明だ。最後のハーフアンドハーフは何で割るの?!


「ハーフアンドハーフはお酒とポーションで割るヤツだ。ガツンと来るからいいなっ」

「あのう、教会堂ではみんなポーションのお湯割りを呑んでいます。疲労がポンと飛ぶポーションは、女神様の奇跡なんですぅ」


 知らなかったそんなの……

 記憶喪失の僕はどうやら世間知らず過ぎたらしい。

 みんなにとってそれが常識だったんだね。


「やはりここは魔力がパワーアップした様な気分になるポーションをストレートでお願いしますわ。攻撃魔法特化型のわたくしにピッタリですのよ、おーっほっほっほ!」

「あのう、じゃあわたしはお漏らししなくなるポーションを水割りで……」

「そんなものはない! よしセイジ、今夜はまだまだまはじまったばかりだ。疲労がポンと回復するポーションストレートで頼もうではないかっ」

「ぼ、僕はハーフアンドハーフでお願いします……」


 こうしてテーブルを囲みながらガヤガヤとしつつ、ドリンクの注文を店員さんに済ませる。

 カウンターの方をチラリと見やると、どこかで見たような銀髪ロリようじょがせっせとシェイカーを振っている姿が飛び込んでくるじゃないか。


「へいおまち! おりこうさん錬金術師の特性レシピ、ようじょとハチミツのハーフアンドハーフじゃ。アハハハハハ」


 しまった僕が頼んだやつじゃないのそれ。

 いったい何がブレンドされているポーションなのか疑ってしまうけれど、味見をしている銀髪ロリようじょは「うまい!」と言っていたからきっと大丈夫だ。

 そうに違いない……


 こうしてドリンクが各テーブルに運ばれていく合間に、パンチョさんを伴ったインギンさんが僕らのところにも顔を出す。


「これが約束の報酬だよ。きみたちのパーティーは魔法文字の解読手当も付くから、ひとり頭八枚で銀貨三二枚! 今回は特別に色を付けておいたからねっ」

「今度アルバイトを探す時は訓練学校の受付じゃなく、直接あたしのところに来なさい。そして卒業する時はぜひうちにくるのよ!」

「あ、ありがとうございます」

「おおっ、おちんぎん袋がズッシリと重いぞセイジ。これがおちんぎんの重みだ、やっぱりおちんぎんはいいな」

「本当ですわねっ!」

「コクコク」


 確かにシャブリナさんから皮袋を受け取ってみると、銀貨のギッシリ詰まったそれはとても重量感があった。

 支払明細を受け取ったドイヒーさんも、ティクンちゃんと顔を合わせてその数字に驚いている。

 ホームレスの保護施設で養われていた僕からすれば、銅貨の投げ銭にしか縁がなかったものだから、実際に銀貨を握りしめてみると嬉しさがこみあげてくるのだ。


「それではみなさん、お手元に酒杯は行き届いたかな? これよりわが冒険者ギルド《ビーストエンド》のギルドマスターからご挨拶があります。ではインギンオブレイさん、どうぞ!」


 喧騒の中。

 パンチョさんが手を叩きながらみんなの注目を集めると、続きはインギンさんにバトンタッチだ。

 あたし、こういうのあんまり得意じゃないのよね。

 などと小声で口にしながらも、インギンさんは悪い気がしていないみたいだ。


「まあ手短にいきましょう? ダンジョン攻略、お疲れさまでした! みんな、朝まで呑むわよぉ。それじゃあ恒例の掛け声でいくわよ……乾杯!!」


 インギンさんが酒杯を掲げると、みんなもそれに倣って後に続く。

 そして決め台詞は冒険者訓練学校でお馴染みだった掛け声だ。


「「「冒険者は最高だぜ!!!」」」


 七色に変色する不思議なポーションのお味は、口にしてみるとそれほど悪いものじゃなかった。

 きっとこれがおちんぎんの味わいだな。

 今度は訓練学校を卒業して、その時もまたこのメンバーで一緒に!

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