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34 セールスお断りです!

 冒険者ギルド《ビーストエンド》に残された時間は残りわずかだ。

 標識を目印に怒涛の勢いで攻略のラストスパートをかける各パーティーには、砂時計が支給された。

 リーダーたちが集まって一斉に時計合わせをする。

 この砂が落ちきった時に、各階層を支配している中ボスたちがダンジョンのギミックによって自動復活してしまうわけである。


「セイジ、部屋に細工がないか確認して次の部屋に移動するぞッ」

「わかったよ。ティクンちゃんとドイヒーさんは下がってください。シャブリナさんは何かあった時に……って、うわっ骸骨のモンスターだ!」


 僕らは未確認の部屋をひとつひとつ確認して回る。

 ボス部屋に続く主攻略組の往来の妨げにならない様に、安全を確保するのだ。

 中には一見敵のいない部屋に見えて、踏み込んだ途端にモンスターが発生する場所も存在したからね。


「ひっ! スライム、こっちはスライムです。はじめて見る色ですセイジくんっ」

「憎っきスライムが三体ですわね? ここはわたくしが確実に!」


 咄嗟に飛びのいた僕と入れ違いに、シャブリナさんが骸骨戦士の攻撃を盾で受け流し、一撃で粉砕する。

 そこへドイヒーさんの魔法が黒くて大きくて禍々しい長い杖を突きだした。


「いにしえの魔法使いは言いました、ここで死ぬ定めと。フィジカル・マジカル・アッハ~ン♪」


 おかしな呪文で紅蓮魔法を噴出すると、あっという間に三体のスライムがまとめて焼却されてしまった。

 はじめてスライムと遭遇した時とは違って、今回は危なげなく冷静に落ち着いて。


「ふう、ざっとこんなもんですのよっ!」

「慣れって怖いものだね……」

「わたくしがそれだけ優秀だと、証明されたわけですのね。おーっほっほっほ!」


 小さな戦闘はあちこちで繰り広げられていたけれど、まだボス部屋は発見されていない。

 あれだけ凄まじいガーディアン、羊の巨人との戦いを経験したのだから、みんなそれなりに覚悟していたのにだ。

 だから時折すれ違う主攻略メンバーの勇者さんたちと出くわした時も、彼らの焦燥感が僕らにも伝わって来た。


「あなたたちの調べた限り、ここが標識の示した場所なのよね? 本当にそうなの? 何にもないじゃないのよ!」

「そうなんですよギルマス、標識に従えばこの辺りにボス部屋が存在しているはずなのに。どこにもそれが存在しないんだ。どこかに見落としが無かったのか、もう一度ガーディアンの部屋から順を追って……」

「それでは時間がいくらあっても足りないわ! まさか標識の指示そのものが偽装だったという事は考えられないかしら?」

「それは無いんじゃないかのう。わしが知る限り、懇切丁寧に魔法文字で書かれていたこのダンジョンの警告は、全て間違いがなかったはずじゃし……」


 道中でばったり遭遇した勇者さんと白髪のおじいさん、それからギルマスのインギンさんが顔を突き合わせて、残り少ない砂時計の砂を見比べながらミーティングを繰り返していた。

 そしてパンチョさんは相変わらずだ。


「万策尽きたああああああっ!!」


 ダンジョンには様々なタイプの仕掛けが備わっているものだ。

 この迷宮ではラスボスを倒さない限り、一定時間が経過すると各階層の中ボスが復活する様になっているから、


「今ならまだ間に合いますよインギンオブレイさん。引き返しましょうよ、引き返せば、まだ命だけは助かります!」

「この期に及んで何を馬鹿な事を言っているのパンチョ、ボス部屋は眼の前。逆にここで引き返せば永遠に世間さまからビーストエンドは笑い続けられるわ! ダルマの塔と同じ、いやそれ以上に……」


 そんなのあたしは絶対に嫌よ!

 インギンさんは弱気なパンチョさんに叱咤しつつ、絶叫していた。

 タイムオーバーになる前にボスを倒す。


「それができなければ地上との連絡が遮断されて、僕たちは迷宮の最深部で孤立してしまう事になるよね」

「ですから、その前に少なくともボス部屋に到達して、後はボス戦に挑むだけの状態にしておかなくちゃいけないわけですわ」

「羊の巨人の事を考えれば、ダンジョンのボスがどれだけ強いのか想像もつかない。わたしではまるで歯が立たなかったからな」

「そのう。ボスは攻撃に特化したタイプと、魔法に特化したタイプとか、偽装に特化したタイプがいるそうですね。書物で読んだことがありますぅ……」


 初心者の僕たちは想像をするだけで恐ろしかった。

 もしかして安易にアルバイトなんてやるべきじゃなかったのでは……

 首からぶら下げた砂時計の砂は、とめどなく残酷に落ち続けている。

 焦燥感と緊張感が否応なく高まっていく中で、そうして僕たちはボス部屋を発見したんだ。


「発見したぞ! 石板の警告文が書かれている場所妙に低かったから気づかなかったんだ、賢者のじいさんかセイジさん、誰でもいいから解読をしてくれっ」

「よしきたぞい。坊主、出番じゃぞッ」


 解読役の白髪のおじいさんは、完全に僕に丸投げをする気満々で調子よく返事をした。

 通路を班のみんなと駆けてその場所に近寄ると、さっそくランタンを掲げで魔法文字の確認に取りかかる。


「最終面接の会場はこちらになります。当施設のオーナーは素敵な冒険者の挑戦をお待ちしておりますね♪ ノックは三回でお願いします。寝ているときもあるので、何度かお願いします」

「おおお。確かにお待ちしてます、はわしでも読めるぞいっ」


 おじいさんも同意してくれたので間違いなしだ。

 振り返って緊張感を高めていく主攻略メンバーに確認を取った。

 剣を構えて、突入をする準備。


「しかし、やけに低い扉だよね。これ子供用サイズかな?」

「全員突入時には姿勢を低くして入る必要があるぞ勇者……」

「よし魔法使い、あなたが正面に構えて戦士たちは左右に配置よ。まずはあたしが扉を開くから、勇者たちが突入で」

「了解です! よし支援魔法用意してくれ」


 次々と戦いの準備を整えていきながら、最後の決戦にいざ!


「ではまずノックをするぞ。いいな、いくぞっ?!」

「よしやってちょうだいな!」


 コンコンコン。

 勇者シコールスキーさんが、石板の説明書き通りにノックを三回した。

 この手順に何か意味があるのか誰にもわからなかった。

 けれどこのダンジョンではこれまでもこんな感じだったし、誰も不思議には思っていなかった。


「…………」

「……何も起きないけど、これでいいよな?」

「もう一度やってみなさいよシコールスキイっ」


 コンコンコン。

 何度か試せと書いてあったので、もう一度勇者さんが繰り返す。

 するとくぐもった幼い女の子の声が、扉の向こうから聞こえてくる。


「誰じゃ! セールスなら間に合っておりますのじゃ」


 僕たちはたまらず顔を見合わせた。

 これってボスモンスターの声かな……そういう事だよね?


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