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32 トドメのおちんぎんソード!

 激しい戦闘が終わってしまうと、そこには疲労困憊の僕たちがいた。

 荒い息、舞い散る埃と魔法の残した黒煙。


「まるでダンジョンボス並みの戦闘力だったな。あれはやばかった」

「でもあたしたちは生きているじゃない勇者」

「けど先が思いやられるぞ。ギルマスはギルド員全部かき集めてボス戦をするつもりでいるが、中ボスとはわけが違うからな、ダンジョンボスは……」

「誰か魔法が無限に使えそうになるポーションください。魔力切れでクラクラですよ」


 勇者パーティーたちの声が視界不明瞭の中で聞こえた。


 僕たちはというと。

 班のメンバーは落ち着きをみせる土煙の中でシャブリナさんの姿を探す。

 確か戦闘中に声がした方向はあっちだ。

 彼女は僕を庇う様にして前に飛び出し、盾ごと弾き飛ばされたんだ。


「まいったな、立ち上がる事ができない」


 壁面に鎧ごとめり込む様に叩きつけられていたシャブリナさんの姿を発見した時は、とても痛ましい気分になった。


「ぶ、無事なの? 喋れるみたいだけど痛いところはない?」

「……痛いところか。そうだな、胸がとても痛い。癒してくれるかセイジ?」

「ぼ、僕がやるよりティクンちゃんに。聖なる癒しの魔法をっ」

「コクコクっ」


 心配した僕とティクンちゃんをよそに、真顔でシャブリナさんが返事をする。


「いや、女に揉まれて悦に入る趣味はないので結構だ!」


 ムクリ、起きました!

 そんな言葉を口にしたシャブリナさんは、直前までの痛々しい演出を無視する様に僕の手を引っ張りながら立ち上がり、パンパンと丸いお尻を叩いて埃を落としてるじゃないか。


「まったく。時と場合をわきまえるって事を知りませんの?! 首筋を損傷して動けないと思ってしまったじゃありませんかっ」

「何だドイヒー、貴様も、わたしの事を気遣ってくれるのか。ん?」

「べべべ別にあなたの事なんか心配しても、いい事なんて何もありませんものねっ。勘違いしないでくださらないかしら?!」

「すまんな。だが死ぬかと思ったのは事実だ」

「ふんっ」


 やっぱり僕たちは仲間だ。

 勇者シコールスキイさんが言っていた様に、ボスなんじゃないかと思うぐらい羊の巨人を目の前にした時は絶望感があった。

 いや、本当のボスに遭遇したのはこれがはじめてなんだけれど。

 それでも。

 ベテランの勇者さんたちでも、ダンジョンを統べるボスだとあれを前にして説明されたら、納得する様な口ぶりだった。

 とても規格外のモンスターだったんだろう。


「それでも勇者パーティーの全員が怪我ひとつなく戦い抜いたからな。彼らがギルドのトップエースとして伊達に勇者パーティーに所属されているわけではない、って事だぞセイジ」

「うん。見ていたけれどすごい動きで斬り込んでいってたもんね。勇者さんも、あの女戦士さんも」

「おーっほっほっほ! その勇者さんのパーティーとともに唯一戦力になっていたのがわたくしですわ? セイジさん、見直してくださったかしら? おほ、おほほ、おーっほっほっほ!」


 僕とシャブリナさんの会話の途中から、黒くて大きくて禍々しい長い杖をドンと突き立てて、ドイヒーさんが自慢話をはじめた。

 確かに彼女が戦いの役に立っていたのは事実だけれど、今はそれどころじゃないと班のメンバーは思っていたらしく。


「ボスの事が気になるなセイジ」

「フンフンっ」

「ちょ、お待ちになってくださらない? わたくしを、わたくしを褒めて?!」


 ドイヒーさんは頑張ったよ。

 僕はあなたが格好良かったと思った。だから僕は認めるよ、素晴らしい魔法使いだって。


「うっううっ、セイジさん。くすん。ありがとう、ございますわ……」


 そうして無事をみんなで確認した僕たちは、大の字になって倒れた羊の巨人の側に恐る恐る勇者パーティーのみなさんとともに集まりはじめる。


「死んでいるわよね?」

「首を飛ばして生きているなんて、そりゃもうデュラハンだ」


 首実験をしていた女戦士さんと勇者シコールスキイさんのところに、シャブリナさんが進み出た。

 羊の巨人は白眼を剥いた状態で残念無念の顔をしていた。

 もちろんピクリとも動かないので死んでいるはずなのだけれど、シャブリナさんもしゃがみこんで羊の巨人をじかに触ったりしている。

 

「うむ。まだ生暖かい肌ざわりだな。さっきまで生きていた証だ。こいつ目やにがたまっているぞ、顔ぐらい洗えないのかモンスターは。しかも口が臭い。なっとらん!」

「突っ込むところはそこじゃないですわ! ちゃんと死んでいるのですわよね?」

「わからん、生暖かいから生きているやもしれんぞ。ほら、モジモジ。貴様は回復職だから生死の判定は専門じゃないのか。触って確かめてみるか。ん?」

「ひん、近づけないでください。シャブリナさんの意地悪さんっ……」

「アッハッハ!」


 生きていたらどうするつもりなんだろう。

 不衛生な口臭をまき散らしている事を考えたら、いきなり牙をむいて噛みつかれると破傷風になっちゃうかもしれないよっ。

 なんて思っていると、僕はヒゲ面のおじさんに声をかけられた。


「坊主、こっちへきてくれ。ここに何か魔法文字が書かれている!」

「わかりました。すぐいきますっ」


 ガーディアンの成れの果ても気になるけれど、僕の務めは魔法文字の解読だ。

 ここで役に立たないと、ガーディアン戦で足手まといだったのを取り返せない。

 僕は僕の役割を、なんて思っていたけれど、


「何て書いてあるんだ」

「ちょっと待ってください」


 ええと、どれどれ……

 ガーディアン部屋の隅にある台座みたいな場所に、何かの装置とプレートがあった。


「……面接終了後、受付手続きが終わるとランプが点灯します。その場合はお手数ですがオーナー呼び出しボタンを押してください」

「ランプは付いてないぞ坊主?」

「ですね。あ、待ってください。その下に受付上の注意というのが書かれてます!」


 台座のプレートを改めてみると、その下に警告文が含まれている。

 他の部屋でも見た使用上の注意みたいなやつだ!


「フロントの受付に訪れた後もこちらのランプが点灯していない場合は、次の可能性が考えられます。正規の面接を受けていない場合。受付手続きに不備がある場合。または当施設のオーナーが不在である場合――」


 戦闘終了後、ガーディアンが死んでいない可能性があります。

 そんな風に締めくくられていたのだ。

 という事は、羊の巨人はまだ死んでいない?!

 まさかそんな……

 恐る恐る僕とヒゲ面のおじさんが顔を見合わせて背後を振り返ると……


「念のために胸をもうひと突きしておこう」

「な、何を勝手な事をしておりますの、シャブリナさん!!」

「死ね! 死ね! おちんぎんソード! どうだ参ったかアッハッハ」


 自分の長剣を拾い上げたシャブリナさんが、何を思ったのかそんな行動に出たのだ。

 ズブ、ブスブス、と長剣が深々と羊の巨人の胸に吸い込まれる。

 同時にビクンビクンと小さく巨人の体が痙攣して、僕たちの前にある台座のランプが点灯した。

 ピコーン!


「「!?」」 


 羊の巨人はこうして本当に息絶えたんだ。

 トドメを刺したからシャブリナさん、おちんぎんいっぱいもらえるかな?

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