03 攻撃力を測定します!
ドキドキしていると班分けがはじまっていた。
紙片を片手に、ゴリラみたいな教官が大きな声で説明をはじめていた。
「これから願書を受付した順に、現時点でお前たちがどの程度の実力なのかを確認させてもらう。では練兵場に移動したら順番に並んで、名前を呼ばれた訓練生は測定をする様に!」
ゴリラみたいな教官、ではなくてゴリラ顔の教官が手を挙げて誘導してくれる。
僕たち訓練生はゾロゾロとそれに付いていくんだけど、シャブリナさんが何故か自信満々の顔だ。
「あのゴリラ教官。なかなかの腕を持っていると見た」
「そうなの? 試験をするのはいいけど、荷物持ちの僕は何をするのかな……」
「騎士団に入営する時には、ダミー人形に攻撃を叩きこむ試験だったな。たぶん似たようなものだろう」
「剣も握った事がないのに、大丈夫かな?」
不安な気持ちがますます膨らんでしまう。
すると大きく膨らんだ胸を張ってシャブリナさんが白い歯を見せた。
「安心しろセイジ。貴様の剣はこのわたしであり、貴様の盾はこのわたしだ!」
「それじゃ僕の試験にならないじゃないかシャブリナさん。それに攻撃を叩きこむ試験じゃないかもしれないし……」
練兵場と呼ばれる場所にやって来ると、学校によくある運動場みたいな場所だった。
あちこちで練習試合をやっているひとがいたり、ダミー人形相手に素振りをやっていたり。
広場の隅の方には射爆場みたいなのがあった。
弓使いや魔法使いが遠くから攻撃を打ち込んでいる。
「それでは試験を始める。名前を読んだら前に出て、ダミー人形に力いっぱい攻撃するように」
「「「はい!」」」
「攻撃方法はジョブ毎に異なるが、攻撃判定と命中判定を加算したポイントを基準に班分けの選考をする!」
「「「わかりました!!」」」
訓練生のみんなはノリノリで返事をしていた。
やっぱり一攫千金を狙っている冒険者候補ともなると気概が違う。
「シャブリナさんが言った通りだったね」
「ここでの実力試験の結果で、班の振り分けが決まるからな」
「そうなんだ? だからみんな必死なのかな」
「訓練学校時代の成績が、卒業してからもずっと付いて回るから当然だろう。いい仲間と班分けで一緒になれば、卒業してからも人脈となるのだ」
へえ、そうなんだと僕が感心していたところで、名前を呼ばれた戦士っぽい新米訓練生のひとりが前に出る。
ゴリラ教官から練習用の剣を渡されて、力いっぱいダミー人形に叩きつけた。
「攻撃力30、まあそこそこだな。腰が入っていないので命中判定はゼロだ。次っ!」
ガックリと腰を落とした戦士さんは、見た目は強そうなのに腰が引けてたらしい。
そんな感じで戦士や弓使いのひとが順番にダミー人形相手に攻撃したり、命中率を競った後に、ゴリラ教官から攻撃判定を言い渡される。
みんな50とか60とか、低いひとだと20という女の子もいた。
あれより低いと、大の大人として恥ずかしいかもしれないや……
その次に名前を呼ばれたのは、トンガリ帽子をかぶった魔法使いっぽいひとだ。
「次っ、アーナフランソワーズドイヒー訓練生!」
「おほほっ、真打ち登場というわけですのね? ではこの光と闇の魔法を統べるアーナフランソワーズドイヒーさまの実力をお見せいたしますわ!」
優雅に前へ進み出たのは縦ロールというのか、巻き毛を揺らす魔法少女だった。
お貴族さまの令嬢っぽい高価な衣服に、禍々しい黒くて大きく長い杖。
「おい、ドイヒーだってよ」
「もしかして目抜き通り沿いのパン屋の娘じゃないか?」
「厨二病をこじらせて、美味しくなあれとか言ってた娘だよな?!」
「魔法修行の旅に出たと聞いていたが、旅から帰ってきてたのか……」
ガクッ。
ズッコケそうになった魔法使いの少女は、ゴリラ教官に支えられて事なきを得る。
てっきり貴族の令嬢さまかと思ったらパン屋の元看板娘でした。
「わ、わたくしの修業の成果を見ても、同じ態度でいられるかしら? ふふふっ見ていなさい、もう今のわたくしがただのパン屋の娘ではない事を!」
ダミー人形から少し距離を置いて、口元に微笑を浮かべた魔法使いの少女が大きな杖を構えて……
「いにしえの魔法使いは言いました。フィジカル・マジカル・アッハーン!」
不思議な呪文を口から紡ぎだした魔法使いの少女は、次の瞬間に黒くて大きくて長い杖からビームを発射したのだ。
チュドーンと、ただの一撃でダミー人形の顔面が爆発する。
爆炎が収まると、黒焦げになったダミー人形の首がボロリと地面に落ちたのだ。
「す、すごいビームだったね。変な呪文だったけど」
「ほう、あのパン屋の娘もなかなかやるではないか……」
新米訓練生のみんなも、アーナなんとかさんの魔法攻撃に圧倒されて騒然となっている。
「攻撃力判定は250だ。命中判定も顔面を見事に捉えたから100! 合計350だな」
「わたくしの修業の成果をもってすれば、当然の結果ですわ。おーっほっほ、おーっほっほっほ! けほけほっ……」
すごく自信満々に胸を揺らして笑っているアーナなんとかさん。
途中でむせてゴリラ教官に背中をさすってもらっていた。
「次、シャブリナ訓練生! ほう、ブンボン騎士団で騎士見習いをやっているのか?」
「ああそうだ、武器は自前のものを使ってもよろしいか?」
「いいだろう長剣と盾だな。判定試験はダミー人形だぞ、盾はどうやって使うのだね」
「……こうやって、使うのさ!」
先ほどの魔法使いの少女に対抗する様に、グンと豊かな胸を突き出したジャブリナさんがゴリラ教官に返事した。
言うが早いか盾を前に突き出したシャブリナさんは、まるでダミー人形に対してタックルをかます様に駆けだすじゃないか。
一気に距離が詰まると、そのままダミー人形に体当たりする。
すると盾を翻したところに剣を鋭く横薙ぎに見舞った。
ズバっと一撃でダミー人形のボディが切り裂かれ、そのまま上半身が地面に崩れ落ちる。
「攻撃判定は盾の攻撃と剣のコンボで160だ。命中判定はダミー人形を切断だから文句なしに100だ。誰かダミー人形の予備を持ってきてくれ!」
すごいよシャブリナさん!
ただの変な女騎士見習いだと思ってたけど、今のシャブリナさんは格好よかった。
見るも止まらぬ早業でコンボを決めた姿に僕はちょっと見惚れてしまったのだ。
「物理攻撃で160とか、あのノッポの女凄いなっ」
「さすが騎士見習いは剣の腕が違うぜ……」
「連撃していいなんて聞いてないよ?」
「どうせ素人の俺たちじゃ、コンボをしてもそんなに違いはないだろ!」
「悔しいのう悔しいのう」
みんなも強烈なコンボを決めたシャブリナさんにビックリだ。
自信満々に戻って来たシャブリなさんが誇らしく感じて、僕は手放しに褒め称える。
「シャブリナさん格好よかった!」
「くっくっく。貴様に見られていると思うからわたしは頑張れたのだ」
「シャブリナさんが本当に騎士っぽくてびっくりしたよっ」
「そうだろう、これがおちんぎんパワーだ!!」
ハイタッチしながら僕とシャブリナさんは笑顔で会話。
そうしているとまた別の人が名前を呼ばれていたのだけれど……
「次、ティクン訓練生!」
「……」
「ティクン、ティクン訓練生! この中にティクン訓練生はいないか?」
「…………」
新米訓練生を見回しながら、教官は何度もティクンというひとの名前を呼んでいた。
けれどもどこからも反応が返ってこないので、訓練生たちは互いの顔を見合わす。
「もしかしたら怖くなって逃げたのかな」
「パン屋の娘とノッポの女が大暴れだからな」
「あれを見せられたら自信喪失したのかも知れない」
「俺だって自信なくしたぜ……」
新米訓練生たちがヒソヒソ話をしている中で、何度も名前を呼ばれるたびに、ビクンビクンと背筋を引きつらせているモジモジ少女を僕は発見した。
ティクンビクン!