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 ダンジョン内部のモンスターはいったい何処から湧いてくるのだろう。

 地面からムクムクと出現するというわけではないはずだけど、その姿を実際に見た事はない。

 だから、周囲警戒を常にしていなくちゃいけないんだけども。


「最もこの階層で厄介なモンスターはスライムだな……」


 シコールスキイさんは長剣を構えながら通路を前進しつつそんな言葉を僕たちに言ったのだ。


「スライムと言えばロクな思い出がないな。何処かのパン屋の娘が暴走して、大変な目にあったのを覚えているぞ」

「うっ。そ、その話は言わないお約束ですのよっ。あの時は力の加減がわからなかったのですわ」

「あー本当に大変だった、なあティクン。わたしたちは貴様のおかげで大変なお思いをした。スライムはやだなぁ!」

「きいいいいっ悔しいですわっ」

「ビクンビクン」


 これ見よがしにシャブリナさんが、モンスターパレスの思い出を語った。

 ドイヒーさんは悔しそうにビクンビクンしていたけれど、一番ビクンビクンしていたのはティクンちゃんかもしれない。

 彼女はそればかりか、ミノタウロス教官を相手にも酷い思い出があったからね……


「けど、最深部の階層でもスライムはいるんですね?」

「そうなんだよセイジさん。ヤツらはどこにだって潜んでいる。天井や壁の隙間からズリズリっと這い出してきて、隙を見つければ俺たちに襲いかかって来るんだ」

「そうよね、アイツらはさほど強くはないんだけれど、通路と通路の隙間をすり抜けられるから、なかなか居場所を把握できないのよ賢者(セイジ)の坊や。しかも突然びろーんと触手を伸ばしてくるでしょう?」

「う、うん……」


 びろーんという仕草をしてみせた女戦士さんが、おどけてそう言った。

 しかも物理攻撃の態勢があるとかで、一撃で倒すのが難しい。

 シャブリナさんに以前教えてもらった話によれば、粉末状のモンスター駆除剤というのを散布するとアッサリ溶けて死ぬらしいんだけど、


「駆除剤はどうしても後回しになりがちですからね。坊主のところの魔法使いと俺でなんとかしなくちゃいけないんですよね……」

「まあ物理攻撃でも、どうにか倒せないことはないので手数で今は何とかなっているがな。これが別のモンスターとセットで遭遇した場合が最悪だ」


 勇者パーティーの痩せすぎ魔法使いさんと、ベテランの中年回復職さんが事情を説明してくれた。

 別の強力なモンスターと戦っている時に、突然あちこちの天井の隙間からスライムがびろーんとしてきたかと思うと、ゾっとするね。


 スライムはそのネバネバのプルンプルンの姿で、触手みたいなのを伸ばしてくるんだ。

 これが体にまとわりつくと行動を阻害する。

 単体だったら落ち着いて対処すれば、訓練学校の実技の授業で僕でも倒せたけど、


「これが上位モンスター相手だと、命の危険に晒されるというわけだセイジ。仲間との連携が大切だからな、絶対に貴様はわたしの盾よりも前に出てはだめだぞ?」

「た、頼りにしているよシャブリナさん」

「むしろわたしたちが頼りにしているのは、貴様の知識の方だぞ。魔法文字を(そら)んじられるというのは素晴らしい才能だ。やはりわたしのセイジだ、最高かよ?!」


 途中まですごく頼もしい美人の表情で僕を見ていたのに、最後の最後で鼻の下が伸びて残念だ。

 でも僕はシャブリナさんのそういうところも含めて嬉しいし、ちょっとかわいらしいなと思った。


 この第五階層の全体像をまだ把握しきれていなかったけれども、現在は全体の三分の一はどうなっているのか把握できているはずだ。

 僕が手に持ったボードを覗き込んでいると、ヒゲ面のおじさんが横に来てじっくりと図面の空白場所を観察している。

 残りだいたい三分の二がいずれ埋まらなくちゃいけない。

 予定ではあと二日程度でボス部屋の前に到着しないといけないはずなんだっけ。


「坊主、この先の空間が怪しいな。過去の経験からすると、この辺りに階層の最初の門番みたいなモンスターが配置されているはずだ」

「階層の門番、ですの?」

「ああ、みんなも聞いてくれ。この先に中ボスクラスの敵がいる部屋があってもおかしくない。地下迷宮タイプのダンジョンではよくあるパターンだ」


 ドイヒーさんも一緒になって覗き込んだところで、ヒゲ面のおじさんが説明した。

 みんなの注目が集まったところで、経験豊富な勇者パーティーのみなさんもうなずいてみせる。


「中ボスクラスと言っても、ボスじゃないからな」

「ボスと何が違うんだ、勇者どの?」

「ああ、こいつらはボスじゃないから部屋に縛られるギミックがあるわけじゃなくて、その部屋をいったん解放すると勝手に動き回るんだ」


 勇者さんはシャブリナさんにそう説明し、言葉を続ける。


「つまり解放したら最後、その場で倒しきれない場合は追いかけてくる事になる。失敗して逃走する事になるとどこまでもね」

「場合によってはひとつ前の階層まで引き連れて逃げるハメになるのか。モンスタートレインだな」

「そういう事だ。ところでシャブリナさんも冒険者の経験は長いのか?」

「いや、わたしはまだ冒険者ではなくて訓練生だからな。だから何もかもが初体験、冒険者としておちんぎんがもらえるのもこれがはじめてなんだ」


 だからわたしはただの耳年増、付け焼刃の知識にしか過ぎないぞ。

 そんな返事をしながら前進を再開したところで、ヒゲ面のおじさんが言っていたみたいな部屋を発見できたんだ。


 少しだけ天井の高いフロアで、そこだけが薄気味悪いダンジョンの装飾と違って立派な扉だ。

 中にボスクラスのモンスターが眠っていると言えば信じられる。

 例によって扉の横には石板があり、こう書かれていた。


「警備員室。当施設のオーナーに御用の方は、まずこちらのフロントで受付を済ませてください。アポイントメントのないお客様は、こちらの受付が面接を行います。面接終了後は大変お手間をおかけしますが、オーナーの呼び出しボタンを押してください……?」


 なんだこれ。

 僕の読み上げた言葉にシャブリナさんとティクンさんが顔を突き合わせ、勇者パーティーのみんなも驚いていた。


「……ダンジョンの警備員(ガーディアン)モンスターか」

「そいつを倒すとボスが召喚されるというギミックはどこかで経験したことがあるぞ」

「確か去年の応援で参加したダンジョンで、ほら」

「ああっ思い出しました! あれはやりにくかったなあ……」


 そんな勇者パーティーの会話を耳にして、シャブリナさんがしかめ面で質問する。


「ちなみにこのガーディアンモンスターというのは、かつてダンジョンのボスに挑んだ冒険者たちだと聞いたことがある。そうなのか勇者どの……?」



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