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26 セーフ、セーフですじゃ! ※

挿絵(By みてみん)



「何じゃ坊主、辞書なしでも魔法文字が読めるのか」

「うーんわからない文字がいくつかありますね。この辺りの文字は知らないなぁ」

「フン。下位の古代文字ならわしじゃなくてもギルマスだって多少はわかるってもんだ。やっぱり坊主は訓練生の坊主じゃな……」

「そ、そんな……」


 酷い言い訳だ!

 だってこのおじいさん、上位古代文字のよくわからなかった場所を適当に書いて誤魔化しているじゃないか!

 筆写したモノじゃよくわからないから、石板そのものを確認しようと僕は身を乗り出した。


「ぬう、ギルマスどの。もうよろしいじゃろうか。わしは今、頭の中がこんがらがっておるので、これ以上邪魔をせぬ様にしてもらいたいのじゃが……」

「わたしのセイジはオッペケペーの耄碌(もうろく)じいさんとはわけが違う! こんな原始人の文字などおちんぎんパワーの前にはチョチョイのチョイだ!」

「そうですわ! そうですわよねセイジさん?」

「コクコクッ」


 話がややこしくなるから、みんなは黙ってて!

 とは言え、おじいさんには申し訳ないけれどこれ僕わかっちゃうな……。

 石板のプレートには次の通り書かれていた。


「警告! この部屋の内部には毒ガス発生機があります。解除する方法はまず扉の施錠を正しく設定し、扉を解放後は入って左の安全装置を起動させましょう。赤赤黄黄青の順番にボタンを押すと毒ガス発生機の安全装置が起動します」


 毒ガスは用法容量をよく守り、換気された部屋で正しく使いましょう。

 プレートの説明文はとても親切に書かれていた。


「こら坊主、適当な事を言うんじゃないっ。あ、待て勝手に扉の仕掛けを解除しようとするんじゃない!」


 白髪おじいさんの言葉を無視して、僕は施錠を解除した。

 だって魔法文字でご丁寧に「左右のボタンを同時に三回押し込んでください。ちょっと固めです」って書いてあったんだ。

 ガチャンという扉の鍵が開かれる音がして、ふたたびやめないかと騒ぐおじいさんを僕は無視した。


「ぼ、坊主は何てことをしたのだ! 上位古代文字で毒と書かれていたのが見えっ、ふが――」

「おじいさんは少し静かにしていてね。それこそ大事なことを見逃すと不味いでしょ?」


 僕の背後でパンチョさんに静止されたおじいさんの、ふごふご言う声が聞こえた。


「シャブリナさん、ドイヒーさん。ちょっと手伝って」

「よしきたセイジ。どうすればいい?」

「扉を押して開けるから、そしたら中に入って僕が毒ガスの安全装置を起動させるよ。ふたりは中までは入らないでね」

「わかりましたのよ。ではゆっくり押しますわよ、せえの!」


 やっぱり毒があるんじゃないか! 僕が冷静に対処していたからか、そんなおじいさんの声を耳にしながらも、腕組みをして成り行きを見守っていたインギンさんとヒゲ面のおじさんに感謝だ。


 ギイイと、そのまま扉が開いたところで。

 僕は隙間からランタンを差し込んで、安全装置のボタンらしきものを見つけた。

 ぼんやりと赤く周辺が光っているのは警告状態なのだろうか?

 念のために中に顔を入れてきたインギンさんとシャブリナさんも、室内の様子をうかがっている。


「あれが毒ガス発生装置かしら……」

「たぶん、不用意に触ったら発生する様になっているんじゃないですか?」

「じゃあここはお宝が配置されている部屋ね。アイテムを手に取ると罠が起動するパターンで、上の階層じゃ何人か毒ガスにやられたから」


 やっぱり文字を解読できずに、あるいは誤訳をして発動させてしまったのかも。


「処置が早かったから助かったんだけど、ひとりは診療所送りになったぜ」

「それはまた不幸な冒険者もいたものだな。しかしこれからはセイジがいるから安心だ」

「まだもっと難しい仕掛けもあるはずだからわからんぞ」


 ヒゲ面おじさんとシャブリナさんの会話が、無駄に僕のハードルを上げてくる。


「セイジくん。頑張れ、頑張れ……」

「う、うん大丈夫だよ」

「わたしが肩に手を置いているからな。何かあればすぐに部屋の外に引っ張り出してやる」

「ありがとう……」


 安全装置を改めて確認。

 赤青黄のボタンが確かにあるので、これを押す。

 さすがに押すときは凄く緊張したけれど、ティクンちゃんの応援と、シャブリナさんの手の温もりがある。

 よしやるぞ!


「ええと、赤赤黄黄青……」


 プシュウと部屋の中央から音がした時には肝が冷えたけれども。

 どうやら安全装置のぼんやり赤みがかっていた光が、青いそれに変化した。


「おおっ、表の石板の文字が変わったぞ。この文字はわしも読めるぞ、安全だ、安全。セーフ! セーフですじゃ!!」


 白髪のおじいさんが表でどうやらプレートの文字が変化したのを確認したらしい。

 どっと安堵のため息がその場を支配して、僕たちはようやく冷や汗をぬぐった。


 おじいさんも対訳辞書を片手に頑張って解読していたみたいだけど、僕にはそれがスルスルと読めてしまった。

 役に立つというこの感覚、ホームレスの保護施設から出てきて冒険者になろうと決めてからはじめての感触だ。


「やりましたわねセイジさん!」

「さすがセイジくんですっ」

「き、貴様のおちんぎんパワーを、このわたしに、たったっぷり注ぎ込んでくれてもいいんだぞ! セイジ、セイジのおちんぎんパワーでわたしを満たしてくれっッ」


 仲間に迎えられた時、それはとても心地よく達成感に包まれた。

 扉の外に出て、シャブリナさんのたわわな胸に抱きしめられた時は死ぬかと思ったけれど!


「辞書もなしに読めるなんて、大賢者並みの文字知識じゃないのこの坊や。ゴリとミノに言って、この子はウチのギルドに就職させる様にするわよ。よそのギルドに渡してなるものですかっ」

「あんまり後ろ暗い方法はやめてくださいよインギンオブレイさん……」


 班のみんなに揉みくちゃにされて言葉は聞き取れなかったけども、ギルドマスターのインギンさんやサポートチームのリーダーをするパンチョさんも喜んでくれたみたいだ。


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