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25 見学してもいいですか?

 第三階層を無事に抜けると、次は冒険者たちが何人も任務をこなしている第四階層だ。

 所々でがなり合う様な会話が響き、どこかでは部屋の扉に仕掛けられた罠を解除する人間たちもいる。

 女性の戦士さんが、荒い息をしながら血で染まった腹部を治療されている姿も見えた。

 そして休憩をとる戦闘職たちの横を通り抜けて、


「さっきの階層よりも逆にここの階層は安心よ。ウチのギルドでも一線級の猛者たちが詰めている場所だから、下手なモンスターが飛び出してきても瞬殺されるから」

「で、でも誰かお腹をやられているひとがいましたけど……」

「回復職も優秀なのが常駐しているから、手当は十分に間に合うわ。首チョンパされなければね?」


 インギンさんが妖艶な微笑を浮かべて手の指先で僕の首を撫でた。

 たったそれだけの事なのに本当に殺意めいたものを感じてしまったから、思わず後ずさりだ。

 すると怒ったような顔をして、シャブリナさんが抗議した。


「インギンオブレイさん、セイジをからかうのはやめてくれないかっ」

「ふふふっ。そうね、坊やには刺激が強すぎたかしら」

「そうだセイジを刺激していいのは、このわたしだけだと決まっているからな!」

「あらお熱いこと」


 馬鹿みたいな会話をしながらも、インギンさんの視線は通路の正面と未開放の部屋を交互に見比べながら前進している。

 未開放の部屋があちこちまだ残っているんだろう。

 やっぱり魔法言語の解読できる人間が足りていないんだ。

 そこでふと気になる事を口にした。


「あの、インギンさんも魔法文字を解読できるんですよね? さっきは内容を見て怒っていたけれど」

「あたしが理解できるのは下位古代文字までよ、上位になると紋様が複雑すぎるし数も多いでしょ? 音が同じなのに意味が違うものもあるから意味不明だわね」


 だからアナタには期待しているわよ。そんな事を言う。

 じゃあさっきの文章が読めたのも、下位古代文字からの推測だったのかな……


「カレシと三回という文字は読めたわ。だからパンチョが浮気の事を耳打ちしたんだって理解できたの。ふふっ……」

「そ、そうなんですか」

「前後の文字がわかれば、読めない上位文字があっても推測する事はできるもの。ね、パンチョ?」


 おみそれしました、と背後からパンチョさんが熊面をしわくちゃにして謝罪した。

 きっとあの顔は本当に反省しているものじゃない。


 そんな解読の話をしていたちょうどその近くの事だ。

 通りがかった部屋の前でも、気難しい顔をした白髪のおじいさんが百科事典みたいな大きな書物を必死でめくりながら、魔法文字を解読しているらしい。


「あれが解読作業ですか、パンチョさん?」

「そうだよ。うちにも所属している賢者はいるけど、大半がよそからの応援だね。彼はウチのギルドを立ち上げる時にお世話になったひとなんだ」

「へえ、ちょっとだけ見学してもいいですか」

「いいけど、あまり時間はないよ。インギンオブレイさんは待たされるのが大嫌いな人だからっ」


 パンチョさんは快諾してくれたけれど、その言葉が聞こえたのかインギンさんは不機嫌な顔だった。

 あまり時間を取らせないようにしなくっちゃ。


 僕は作業を邪魔しない様におじいさんが広げた麻紙を覗き込んでみたけれど、そこには普段使いの文字が並んでいるばかりでさっぱりわからない。

 別の紙面には、あまり上手じゃない魔法文字の書き写しが見えた。

 これはたぶん部屋の前に書かれている石板を筆写したものなんだろうと僕は即座に理解した。

 記録用のものだろうか?


「セイジはここに書かれている内容がわかるのか?」

「うーん、文字がいくつか判読できないけれど、下位古代文字はだいたいわかるね」

「さすがだな、それでこそわたしのセイジだッ。どうだろうインギンオブレイさん、わたしのセイジは? おちんぎん通り立派なものだろう?!」

「ええそうね、立派なおちんぎんだわ」

「もっと立派なおちんぎんでも、わたしたちは一向にかまわんぞっ」


 シャブリナさんがインギンさんにおちんぎん交渉をはじめていたけど無視だ。

 眼の前の筆写に改めて視線を落としてみると、


「すいません、ちょっとだけ見させてくださいね」

「なんじゃ坊主は、わしの仕事の邪魔をせんでほしいのじゃが……」

「この坊やはあたしが連れてきた賢者の卵よ。少しの間自由にさせてあげなさいな」

「解読者の補充か、本当に坊主に読めるのかのう」


 迷惑そのものの顔をしたおじいさんに、インギンさんが背後からひと声かけてくれた。

 おかげで渋い顔をしたおじいさんは少し脇に寄って、僕に石板と筆写した紙が見える様に場所を譲ってくれる。

 それでも解読途中を書き記した麻紙だけは手放さないところを見ると、僕の見学がおじいさんのプライドを傷付けたのかも知れない。


 年端もいかぬ坊主に何がわかるとこぼすのが聞こえて、むっとシャブリナさんとドイヒーさんが睨んだのがわかった。

 少し嬉しかったけど、今は渡された筆写を受け取って間に割り込んだ。

 揉めたりするより、自分でいいとこ見せたい。

 

「警告? この部屋の内部には毒〇スの〇〇〇〇が〇〇されています。解〇の方法は……」


 僕が口に出して読むと、周囲の視線が集まるのがわかった。

 隣におじいさんが来てムっとした顔を近付けてくるじゃないか。

 間違ってないはずだよね、そうだよね?!

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