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24 はじめてのダンジョン!

更新お待たせしましたー

 崩れかけた苔むす古城の外観に僕は息を呑んだ。

 いつの時代の建物かドイヒーさんたちが話しているのを聞いたのか、入り口で見張りをしていた冒険者が親切に教えてくれる。


「前王国時代の遺構だ。むかしからここに古城があった事は知られていたが、内部にダンジョンが見つかったのは最近だな。足元が濡れているから気をつけろよお貴族の魔女っ娘ちゃん」

「おーっほっほっほ! 聞きましたかシャブリナさん、わたくし貴族令嬢だそうですわよ?!」

「そうだなドイヒー、だがお前はパン屋の娘だ」

「それは言わない約束ですわっ!」


 最深部の先っちょまで誘導してくれるのは、ギルドマスターのインギンさん本人だ。

 女盗賊の装備を身につけた瞬間に、インギンさんの表情は戦闘モードに切り替わったらしい。キリリとした眼光には鋭さだけじゃなく絶対的な自信も感じる。

 彼女はランタンを片手に見張りの冒険者たちへ目配せをしながら城内に入った。

 それに続くパンチョさんが代わりに冒険者へ質問をする。


「現在の攻略前線はどこまで進んでるの?」

「第五階層の手前辺りだぜ」

「あんまり進んでないじゃないか。時間がないのにね」

「扉の仕掛け解除に手間取ってる、どこも魔法文字が読める人間が足りなくて攻略が進めねぇんだ。パンチョさん何とかしてくれよ、後方支援の責任者だろ?」

「仕掛け解除の切り札を連れて来たよ、だからそこは安心していいから」

「ほう? こいつらか」


 強面の冒険者さんが僕ら一行にギロリと視線を向けた。

 シャブリナさんは自信満々に白い歯を見せて、ドイヒーさんは高笑いをした。

 ティクンちゃんは上目遣いにモジモジしながら挨拶をして、最後に僕だ。


「こ、こんにちは……」

「女子供ばかりじゃねえか。だがそっちのふたりは騎士に魔法使いか、そっちはともかくガキふたりは何の役に立つんだ?」

「その坊やが解読をしてくれるの。彼、そう見えても賢者の卵なのよ」

「賢者?! このガキが賢者ぁ?」


 振り返ったインギンさんの言葉に、強面さんはとても驚いた。


「ちなみにその坊や、見た目に反して三〇歳だそうだから言葉遣いには気を付けてねっ」

「嘘だろおい……嘘だろ?」


 僕はペコペコと返しながらその場をスルリと通り抜けて、古城の中央へと移動していく。


「あのう、セイジくん賢者だったんですね」

「僕も三〇歳になった時に、おめでとうこれで賢者だって言われた記憶はあるけど……」

「魔法文字を読み書きできるのだから、少なくとも将来は賢者のジョブに就く可能性がありますわよ。現代の言語形態とは違いますので、魔法使いでも詳しくはありませんの」

「合法ショタ賢者とか最高だな! いずれわたしの独占所有物になるわけだ。くっくっく……」


 ホールの様になった場所に大きな入口がポッカリと空けられていた。

 頭上には荷物の搬入出に使われる滑車が設置されて、周辺で屈強な男たちが新しく武器や装備を下している姿も確認できた。

 周辺では武器の手入れをするベテランっぽい冒険者や、蝋燭を片手に地図を確認しているひとたちの姿もある。


 ホールの柱にもたれかかって寝ているヒゲ面のおじさんを見つけると、インギンさんとパンチョさんが近づいた。


「起きなさい、これからあたしが中に入るわよ」

「ふごっ、おおギルマス。だめだ第五階層のパズルが解除できねぇ」

「だからあたしが来たんじゃないの。解読できる賢者を連れてきたから安心しなさいな」


 背中を探ったインギンさんが、革袋をヒゲ面のおじさんに投げてよこす。

 おじさんはムクリと起き上がると革袋の栓を抜いて僕らの前で中身を口に運んだ。

 中身はぶどう酒かなにかが入っているのだろう。

 少し口元からこぼれたそれをぬぐいながら、地図を広げた指揮台まで移動して僕らもそれの後に続いた。


「パンチョとお前でアルバイトくんたちをしっかり護衛してちょうだい」

「了解だ。お前たち、いくぞ!」


 おおうっと野太い声が飛び交って、図面を見比べて書付を受け取ったインギンさんがうなずいてみせた。

 いよいよダンジョン内部だ。

 ポッカリと大きく空けられた内部にロープを使って降下する僕たちの後に、最後の最後でロープも使わずにインギンさんがヒラリと着地した。

 さすが荷物持ちからギルドマスターまで上り詰めた女盗賊さんだ。


 内部は完全に石造りの狭い印象だった。

 足元は地下水がどこからから流れていて、石の床はぬるりとしていた。

 入口付近こそ松明や蝋燭などで明るくされていたけれど、その先は一気に暗くなる。


 先頭のインギンさんもランタンを持ち、それ以外にもシャブリナさんと僕、それからパンチョさんも同様に手元明かりを持っていた。


「第一階層のメインルートはほぼ制圧完了しているから、モンスター溜まりになっている場所もないわ。足早に行くわよ」

「「「はいっ」」」


 インギンさんは言うが早いか姿勢を低くしながら駆け出す。

 あわててついていく途中、滑りそうになったティクンちゃんの腕を取って支えてあげながら、何事もなく次の階層に降りる場所に到着した。

 階段の入り口には、作業をしている冒険者さんたち。

 僕と同じ荷物持ちだろうか、野営セットみたいなのと戦利品か何かを担いだガタイの大きなおじさんたちと挨拶をしながら入れ違った。


「第二階層でジョンのヤツが無限湧きの部屋を発見した」

「それでどうなったんだい?」

「セリーヌとアンドレが中に入って掃討中だ。イボンヌも加勢しているから一時的に第三階層のルート維持が出来ていない」

「だそうですよ、インギンオブレイさん!」


 背後からパンチョさんと冒険者さんのやり取りが聞こえて、階段を降りながらインギンさんが手だけで返事をした。

 歩くとよく響き、声も遠くまで通る。


「ダンジョンには何人ぐらい潜っているんですか?」

「うちのギルドだけで四〇人が常にダンジョン内部で攻略中だよ。基本は三交代制でまわしているけど、せっぱつまってくると二交代制に切り替えるんだ。それからフリーの応援も加えると、全部で七〇人ぐらいの関係者が潜っている事になるかな」

「へえ、すごい人数なんですね」

「このダンジョンの攻略はビーストエンドがメイン攻略をしている場所だからね。所属している人間総出で当たるのも当然さ。普段はよそのギルドの応援ばかりやっているから、今回は張り切っちゃってね」


 さっ、無駄口はおしまい。と、ランタンの光で浮かび上がった顔にニヤリとしたものを浮かべたパンチョさん。

 熊面なので相変わらず怖かった。


「無駄に会話をしないのは、周囲の状況を把握しやすくするためか」

「よく響くから、喋っていると大切な音響情報を聞き逃す可能性もありますものね」


 小声で会話するシャブリナさんとドイヒーさんの背中を追いかけて第二階層の迷路のような通路を進む。

 途中でガチンと金属のぶつかり合う音が、とある部屋の近くで聞こえた。

 どうやらセリーヌさんとかアンドレさんとかいう冒険者が処理にあたっている、どこかのモンスター部屋の戦闘音らしい。


「やってるわね」

「主要ルートは安全確保していますけど、まだこの辺りも手が回っていない脇道がありますからね」

「そろそろ第三階層よ、モンスターと遭遇する覚悟をしてちょうだいな」


 次の階層に降りる階段のところで全員にそう説明したインギンさん。

 ここに来て腰に差した煌めくナイフをはじめて彼女は引き抜いた。

 ブレードがピンク色に輝く金属で、まるでインギンさんの髪色に合わせたかの様な作りだ。

 シャブリナさんも盾を背中に担ぎながら長剣を引き抜いた。


 次の階層に降りた時には、どこにも松明や蝋燭が設置されていなくて、不気味さはますます深まったように感じた。


「せ、セイジくん。怖いです……」

「大丈夫だよシャブリナさんもドイヒーさんもいるし、ベテランのみなさんもいるから」

「コクコク」


 僕の袖を引っ張りながら、薄暗い中で不安を訴えてくるティクンちゃんかわいい。

 ダンジョンに潜る前にちゃんとトイレに行っておいてよかったね。

 ここでは下着の交換をする時間もないかもしれないから。


 そうして。

 第三階層を前進しはじめてほんの十数歩のところで、異変は起きた。


 前の階層の様に腰を落としながら足早に前進していたインギンさんが、不意に足を止めて棒立ちの様になったんだ。

 通路と通路を繋ぐ広間の様になっている場所だ。

 インギンさんの動きに合わせる様に警戒を取るシャブリナさん。

 同様にパンチョさんやヒゲ面さんも周囲に意識を配りながら武器を手に持った。


「な、何ですの。いきなり立ち止まって?」

「シッ。気配を感じないのか貴様はっ」


 ドイヒーさんに小声で叱咤するシャブリナさんは、僕たちを庇う様な配置に体を移動させた。

 そうした次の瞬間だ。


 突然、暗がりの中から勢いよく飛び出してきたモンスターの姿があった。

 豚面のアイツだ。

 数は三体で狭い通路を押し合いへし合いしながら駆け込んでくるのが見える。

 誰が反応するのかと思えば、パンチョさんだった。


「よいしょ~!」


 パンチョさんはただの支援職じゃないらしく、構え方もゴリラ教官みたいに強そうに感じた。

 手に持ってるのは大型のハンマーみたいな武器なんだけど、そいつを大きく振りかぶって接近する豚面のあいつの顔面を一撃で叩き飛ばす。

 そのまま勢いよくグルンと振り回すのかと思うと、腕をたたんで逆方向に振り込んだ。

 見事に二体目の脇腹に一撃を見舞って、あっという間に制圧だ。

 三匹目がボロい剣を振り回して接近してきた時には危機一髪かと思ったけれど、


「わ、あと一匹いるよっ」

「相変わらずパンチョはどん臭いわね」


 いつの間にか動き出していたインギンさんのえぐる様なナイフの一撃が、豚面のアイツの首に差し込まれていた。

 ボタボタボタっとドロリとした血を垂らした豚面のアイツは、それだけで死んだ。


「インギンさん。す、すごいね現役冒険者の動きって……」

「ですわね、手も足も出ませんでしたわ」

「わたしも剣を構えたはいいが、駆け出す余裕がなかったぞ」

「コクコク、ちょっとだけ漏れそうになりました……」


 僕たちが当たり前に驚いていたところ、ポイと豚面のアイツを放置したインギンさんは笑って、


「何言ってるのアナタたちは、あたしはもう一線には出ていないギルマスよ? 前線に出ている連中は支援職でももっと凄いんだからっ」

「?!」


 支援職でも戦闘力が凄い。そう教えてくれたんだ。

 みんなも衝撃を受けていたけど僕も衝撃だ。

 支援職も極めればこれぐらいできなきゃ嘘だってこと?

 というか盗賊はジョブとして戦闘職なのか支援職なのかわからないけど、そもそも賢者というのは何職?


 でも。

 気が付けば僕はどうしようもなくワクワクした気分になっていた。

 これが冒険の醍醐味なんだろうか。男ならこういうの子供のころからワクワクしたよね?


「安っぽいドロップアイテムですね」

「まあ豚面ならそんなもんでしょ? さっさと先に行くわよ時間がもったいないから」

「ほらセイジくん、アイテム回収は荷物持ちの仕事だよ。おいで」

「は、はい!」


 ちょっと豚面のアイツから死体漁り(アイテム回収)をするのはワクワクと正反対だったけれど……



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