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23 先っちょだけだからっ!

「おちんぎんがパワーアップ!?」


 冒険者ギルドのアジト近くにあるというダンジョンに向かう道すがら。

 パンチョさんに僕たちの役割について説明を受けたところ、シャブリナさんが素っ頓狂な声を上げて言葉を返したのだ。


「そうだねえ、セイジくんは上位古代文字も下位古代文字も問題なく使える事がわかったからね。これは追加褒賞を払わないといけないって国法で定められているんだ。どうせおちんぎんがアップするなら、それじゃメイン攻略ルート周辺の未発見部屋を調査するパーティーに加わってもらおうかと思って」

「えっメイン攻略ルートって、僕たちダンジョンに潜るのもはじめての経験ですよ?!」

「あン。そこは安心しなさいな坊や、誰でも最初ははじめてなのよ?」


 先頭をクネクネと歩いていたインギンさんが、ピンクの髪をかき上げながら振り返ってそう言った。

 フフっと微笑を浮かべながら言葉を続ける。


「あたしもはじめての時は凄く痛い思いをしたものだけれど、馴れればそれが気持ちよくなって、最後は快感だと思える様になるから安心しなさいな。あなたたちが入るのは最深部の先っちょだけだからっ」

「先っちょだけってすって? ダンジョンの最深部までは深々と入っておりますわっ」

「コクコク」

「何だかとても卑猥な言葉に聞こえて来るのは気のせいだろうか、なあセイジ? そうは思わんか。連想しなかったか。ん?」

「それをシャブリナさんが言う事に僕は疑問を感じざるを得ないよっ。それでインギンさんも、やっぱり初めての時は失敗したり怪我をしたりしたのですか?」


 僕に向かってとても下劣な妄想を浮かべたシャブリナさんの残念な発言をたしなめた。

 シャブリナさんはショタに侮蔑されるたまらんっ! とか言っているので無視をする事にした。

 そうして恐る恐るインギンさんに質問をぶつけたのだ。


「あたしもね。三〇年前に冒険者になりたてだった頃は、坊やと同じポーターからスタートしたのよ。だからダンジョン攻略の時は身を守る術が無くて、つい好奇心で馬鹿な失敗をしでかした事もあったわ。ふふっ」

「僕と同じ荷物持ちだったんですか? 今のジョブは盗賊ですよね?!」

「そうね。荷物持ちだけで一生を終えるなんて、せっかくの迷宮暮らしをしててもつまらないじゃない」


 確かにそれはそうだ。

 力強く長剣を振り回し大きな盾で仲間を守るシャブリナさんは文字通りかっこいい。

 黒くて大きくて禍々しい長い杖から圧倒的な光と闇の魔法を撃ち出すドイヒーさんは勇ましい。

 ティクンちゃんはビクンビクンしているジョビジョバのモジモジ少女だけど……


「それはつまり、ただの荷物持ちでもそこから少しずつ経験を重ねれば、ジョブチェンジする方法があるって事ですか?」

「そうだようセイジくん。僕も最初は荷物持ちからスタートして、今じゃギルドのサポートチームでリーダーをやっているんだ。むしろポーターという職業は全体を見渡せる役割に付いているから、将来的にはパーティーリーダーやギルドマスターに出世する事だってある」


 長く続けていればね。そんな事をパンチョさんが口にした。


「ちなみに荷物持ちからジョブチェンジする場合は、盗賊や公証人になるひとが多いね。盗賊は地図や古文書を解読したり、迷宮内の罠を解除したりする。お宝アイテムの鑑定をするのも彼らだ」

「そうなのですね、わたくし魔法使いの事しか知りませんでしたので初耳ですわ」

「それから公証人というのは公式文書の発行を担当したりするよ。ダンジョンは存在する土地の領主さまの持ち物だから、独占的にダンジョン攻略に当たる権利を得るための申請書類を発行したりするよ。セイジくんは公文書にも使われる魔法文字を使えるから、盗賊にも公証人にも向いているかも知れない。ちなみに僕のジョブは公証人だよ」

「フンフン」


 どちらのジョブもパーティーのリーダーに向いている職業なんだそうだ。

 でもリーダーなんてそんな事を想いもしなかった僕だけど、そういう未来もあるのか。


「きみたちのパーティーでも、戦士がリーダーをする以外の選択肢もあるって事だね」


 そっか。

 僕たちの班ではいつも先頭に立って斬り込んでいくシャブリナさんがリーダーみたいな感覚があったけれど、後ろから全体を見渡す事のできるポジションがリーダーという考え方もあるのか。

 インギンさんやパンチョさんみたいになれる未来が、僕にもあるって事だ。


 パンチョさんの言葉を受けてドイヒーさんが意見を口にする。


「確かに真っ先に斬り込んでいくシャブリナさんがリーダーでは、シャブリナさんが怪我をした時に誰がパーティーの指揮をするのか問題がありますわ」

「わたしは誰がリーダーでも構わないがな、セイジの命令ならいくらでも聞く用意があるぞ。そうだセイジ、わたしにけけけけ結婚しろと命令し――」

「そのう、シャブリナさんは時々危険な妄想をするので、セイジくんの方がリーダーに向いているかも知れないです……」


 何かおかしな命令をしろと要求してきたシャブリナさんを、ティクンちゃんがモジモジしながら遮った。

 すると不満顔をしたシャブリナさんが「モジモジめ!」と言ったものだから、ドイヒーさんがそれを見て笑い出す。


「まあリーダーには適正がある事は間違いないけれど、セイジくんも冒険者訓練学校にいる間にポジションチェンジの経験はしておいた方がいいかもしれない。ダンジョンの中は何があるかわからないから、色んなフォーメーションで戦えると有利だよ」


 親切な熊獣人のパンチョさんに言葉をかけてもらっていると、すぐにもダンジョンの入り口があるという場所に到着だ。

 まさかブンボンの市街地にダンジョンが存在しているなんて僕はまるで知らなかった。

 畑が広がっている穀倉地帯の中にぽつりと林がそこにあって、木々の隙間から古ぼけた大きな石造りのお屋敷が見えたのだ。


「さて到着よ。地下遺跡型の迷宮だからこれまで知られていなかったんだけど、最近発見されてうちのギルドが占有権をブンボン領主から購入したってわけ」


 振り返って僕たちを睥睨するインギンさんである。

 すると隣で熊獣人さんが口を挟む。


「もうすぐその占有権の期限が切れるんだけどね」

「パンチョは余計な事を言わなくていいの!」


 地下遺跡型ダンジョンの入り口は古城の内部にあるらしい。

 林の中にはいくつものテントが張られていて、ひっきりなしに古城の中から冒険者たちが出入りしているのが見えた。

 テントで唸っているのかいびきなのかもわからない声が聞こえてくるところを見ると、交代制でずっと攻略が続けられているのかも知れないね。


「装備は最低限の武器以外はないんだよね? 攻略用の具足一式はあっちで受け取ってちょうだい。消耗品は経費で落とすから心配しなくていいよ」

「装備が揃ったら、最深部付近まであたしが案内するわ。上位古代文字の解読が進んでいなくて、扉の解除ができない部屋があるのよ。ナホール、あたしの装備を持ってきてちょうだい!」


 口々に言うパンチョさんとインギンさん。

 そうしているとギルドマスター専用装備というのが、猿顔のおじさんが「おまちど!」と言いながら運んでてきた。

 手伝ってもらいながらインギンさんが着込む姿を見ると。

 さっきまでのおおよそダンジョンには不向きな簡易ドレスみたいな姿から、盗賊っぽい革装備の凛々しい姿に様変わりだ。


「女盗賊インギンオブレイさまに見惚れたかしら? 将来はあたしみたいな女冒険者になりなさいなっ」

「いやまったく。わたしはショタにしか興味がないのでな」

「わたくしも魔法以外はどうでもよろしくってよ。おーっほっほっほ!」

「あのう、ダンジョン最深部に先っちょだけ入る前に、おトイレいってきてもいいですか……?」

「きいいっ悔しい! いいもん、アッカンベー」


 戦場の陣地を思わせる様なベースキャンプを見渡しながら。

 僕たちは唾を飲み込んで高揚と不安を高めていった。


「……いよいよわたしたちのおちんぎんパワーを試す時が来た。そう思うと胸が高鳴るッ」

「この光と闇の魔法使いアーナフランソワーズドイヒーさまの魔法が、今こそ冴えますわよ!」

「あのう、おトイレ……」


 いざダンジョンに突入だ!

中に入るのは最深部の先っちょだけ。

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