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22 僕は魔法言語が使えます!

 ピンク色の長い髪をしたお姉さんは、僕たち新米冒険者を睥睨した。

 ツンとした表情をしているけれど、視線はどことなしかネバ付く様にジットリと。

 そうしてシャブリナさん、ドイヒーさんときてティクンちゃんを見たところでため息をついたのである。


「はあン。まったくこの子たちは冒険者学校の新米ちゃんなのでしょう?」

「その通りです、ギルドマスターどの」


 ジト眼を向けてきたお姉さんに、僕たちを代表してシャブリナさんが返事をした。


 ギルドマスター、とシャブリナさんは言ったけど。

 そうなるとピンク色の長い髪を目の前でかき上げているお姉さんは、冒険者ギルドの一番偉いひとという事になる。

 とても色気のある美人さんなんだけど、よくよく見ると不健康に眼の下にはクマがあった。


「あのねえパンチョ。今あたしたちはギルド結成以来の名誉をかけて、初ダンジョン攻略達成のために全力を注いでいるところなのよぉ!」

「もうすぐタイムアウトで《黄昏の筋肉》たちに記録を奪われてしまいそうですけどねっ」

「わかってるわよそんな事は! だからってこんな幼気(いたいけ)な新米ちゃんたちに攻略参加をさせるわけにはいかないでしょう? あたしたちが欲しいのはベテランのフリーの!!」

「そんな事を言ってる場合じゃないでしょう?!」


 そうして僕たちが呆気に取られている中で、熊獣人が諭すのだ。


「もう、今回は踏破記録の事は我慢しましょうよ。主力メンバーを中層階の未踏破部屋に振り分けて、若手や雇い入れたアルバイトのみなさんに、低層階の小部屋を」

「あたしはこのギルドでダンジョン初クリアの栄誉を手に入れたいの~~~っ」

「万策が尽きる前に、名を捨てて実を取る作戦でいきましょうよ!」


 聞き分けの無い嫌々をするお姉さんはいったい何歳ぐらいだろうか。

 僕よりは少しだけ若い気がするから、二〇代後半な気がする。


「わ、わたくしたちは小部屋の掃除を任されるとか言っておりますわよ……」

「ふむ、掃除屋というのはギルドのアジトを掃除するのかと思ったら、ダンジョン内の未処理な小部屋を掃討する仕事だった様だな」

「何でそんなに冷静でいられるのシャブリナさんは?! 僕たちまだ訓練学校も卒業してない初心者だよっ」

「あ、あのうおトイレ貸して……」


 さあさあこちらへと熊獣人さんに誘われて、散らかった応接セットみたいな場所に案内された。

 不満そうに付いてくるクネクネお姉さんがチラチラと僕の方を見て来るのは、いったいどういうわけだろう。


「トイレはアジトの外にある小屋だから。あ、扉のたてつけが悪いから、気を付けてねっ。じゃあ適当に座って。飲み物は……おおい、誰かお茶を持ってきてくれる? 自分でやれって?!」


 忙しく動き回っているアジト内部のみなさんは、熊獣人さんの声に不満そうに反応していた。


「じゃあ自己紹介ね。このひとが《ビーストエンド》のギルドマスターをしているインギンオブレイさんだよ。ジョブは盗賊。それで僕が支援チームのリーダーをしているパンチョ。熊面だからって怖くないからね」

「フンっ」


 ツンとしてみせるピンクお姉さんがインギンオブレイさんで、熊獣人さんがパンチョさんか。

 自己紹介もそこそこに、ドイヒーさんが差し出した訓練学校の紹介状を受け取りながらパンチョさんが続ける。


「ところで、きみたちいつから来られる? 見ての通り僕たちはかなり人手不足でね、可能なら今からすぐにでも参加してほしいぐらいなんだよ」

「今すぐ?! 流石にそれは無理ですわ。わたくしたちは訓練生ですし、授業が終わってからなら……」

「困ったなあ、インギンオブレイさん何とかなりませんかね?」

「何であたしに振るのよ?!」

「貴重な人材だし、インギンオブレイさんなら訓練学校にツテがあるでしょ?」


 インギンさんはぷんすかしながら懐を探って、キセルの様なものを取り出した。

 吸い口を唇でつまみながら、指先に魔法か何かで火を灯しながら、チラチラとこちらを見つつ質問だ。


「フウ。……あなたたちの教官は誰かしら?」

「僕たちの担当をしているのはゴリラ教官とミノタウロス教官です」

「フウ。ゴリとミノね。あのふたりは、あたしが前にいたギルドで世話していたのよ。引退したがってた時も訓練学校に就職の口利きしたのもあたしだわ」


 そうなの?!

 ベテランっぽいふたりの教官を世話していたという事は、この妙齢のお姉さんかなりの年齢?!


「もしかすると僕より年上かもね」

「アッハッハ、セイジより年上なのは間違いないな」


 驚いて小声でシャブリナさんに言ってみたけれど相手にされなかった。


「いいわ。あなたたちを採用するから、ゴリとミノのところには実習教育という事でフルタイムのアルバイトが出来る様にねじ込んでおくから」

「じゃあさっそくこれからダンジョンに入ってもらおうか。必要な装備はこっちで用意するから、きみたちはいつもの武器と防具を持参していたらそれでいいよッ」

「「「今から(ですの)?!」」」


 三人が驚いた時にはすでにインギンさんが何かの紙片に羽根ペンを走らせていて、忙しく動き回っていた男のひとに書付を手渡す。


「これを急いで訓練学校まで届けてちょうだい。訓練生は預かった、返してほしければ協力しろって伝えるのよ。いい?」

「へい姐さん」


 男のひとはペコペコしながらアジトから飛んで出て行ったけれど、気が付かないうちにもうダンジョンに潜る事で決定だ。


「ど、どうしようシャブリナさん。話がどんどん勝手に進んでるけど……」

「安心しろセイジ、わたしがいる限りセイジには指一本モンスターなんかに触れさせない」

「まあ、はじめてはどこかで捨てるものですし、訓練生で一番に実戦トレーニングに出られたと思えば、得した気分になりわすわ。おーっほっほっほ!」

「そうだなドイヒー。どうせ訓練学校でも、そのうちダンジョンに潜る事は決まっていたんだから、予定が少し前倒しになったと思えば何ともないぞ」


 ふたりとも最初に驚きはしたけれど、もう受け入れるつもりでいるらしい。

 僕はというと、どうするべきだろうかと考える。


「たぎるな! 一攫千金のおちんぎんパワーが炸裂するっ」

「おーっほっほっほ! わたくしの光と闇の魔法がモンスターを小部屋ごと爆ぜてみせますわ」


 荷物持ち(ポーター)なのにいつまでもパーティーのお荷物扱いされるのは嫌だ。

 自分だってダンジョンで役に立つという証明をしてみたいし、現役の冒険者たちを見て何かを盗もうと思った。


「おおティクンか。お漏らしはしなくて済んだか」

「コクコク」

「嘘ですわ、本当はちょっとチビっときたのでしょう?」

「フルフルフル!」


 伊達に三十路まで生きてきたわけじゃないから、何か僕にもできるはずだ。

 何かできる事、僕は必死に考えた。

 支援職に回される程度に攻撃参加では期待されていない。

 じゃあ他に何かできる事を考えよう。


「急な話だが、これからダンジョン攻略のアルバイトに、フルタイムで入る事になったからな。アッハッハ」

「そのう、学校は……?」

「ギルドマスターどのが何とかしてくださるそうですわよ。何でもゴリラ教官もミノタウロス教官も、ギルドマスターどののむかしの部下だそうですの」


 三〇歳まで生きた人間だから、他のメンバーよりも大人だからね。

 人生経験なら役に立てる? 記憶喪失だから無理か……

 待て待て、そうだ。

 ドイヒーさんは確か僕が書いた文字を見て、魔法文字だと言っていた気がする。

 僕の読み書きできない普段使いの文字とは違う別の言葉。


「あ、おかえりティクンちゃん。これからダンジョンだそうだけど大丈夫?」

「セイジくんがいいって言うなら、わたしはやります」

「じゃあ決定だな!」

「ですわね!!」


 無理をする必要はないと言おうとしたけど、ティクンちゃんまで同意してしまった。

 なら、僕も覚悟を決めて思いついたことを口にしようと身を乗り出す。


「……あの、キルドマスターさん」

「はあン何かしら? 気さくにインギンか、ギルマスと呼んでくれていいわよ?」

「ぼ、僕。魔法文字? というのが使えるんですけれど、何かのお役に立つ事はできないですかね。上位古代文字と下位古代文字が使えるって事だけど」


 半信半疑な視線をこちらに向けながら、キセルを吹かすインギンさん。


「フウ。お坊ちゃん、まだ子供でしょう?」

「大人です!」


 すると隣のシャブリナさんとドイヒーさんが僕の言葉に同意してくれる。


「あの不思議な文字は魔法言語だったのか?」

「そうですわシャブリナさん、確かにセイジさんは魔法文字を使う事ができますのよ。信じてもらうには書いてみせればよろしいのでは?」

「そうだね。インギンオブレイさん、紙とペンを貸してもらえますか?」


 熊獣人パンチョさんが、素早く麻紙と羽根ペンを用意してくれた。

 テーブルの上にそれを置きながら、僕はつばを飲み込む。


「何を書いたらいいですか?」

「じゃあここに、これから僕が口にした言葉を書いてくれるかな。疑うわけじゃないけど、ひとつ覚えの文字を書かれる場合もあるだろうからね。それをインギンオブレイさんが確認する」

 

 うんとうなずき返してみせると、シャブリナさんもドイヒーさんも興味津々の顔をした。

 そうして僕の側に近づいたパンチョさんが、耳元でこう囁いたのだ。


「インギンオブレイさんの前のカレシは、ダンジョンに潜っている間に浮気した。これが三回目」

「こ、これを書くのですか?!」

「書いてごらん。それとも書けない?」

「大丈夫です書けます。書けますけど、怒られても知らないですよッ」


 麻紙の上に僕は別の意味で緊張しながら、パンチョさんに言われた言葉を書き付けた。

 当然インギンオブレイさんは真っ赤な顔をして激高したんだ。


「何ですって?!」

「正解ですかねインギンオブレイさん?」

「誰にこの話を聞いたのよ、言いなさい。ゴリ? それともミノ?!」


 く、苦しい首を絞めないでインギンさん!

 僕はただパンチョさんに言われた通りを書いただけなんですっ。

 この僕の知っている文字は魔法言語だったらしい。


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