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21 冒険者ギルドのアジトです! ※

挿絵(By みてみん)



 そこはまるで戦場だった。


 倉庫を改装された事務棟の中を、せわしなく冒険者? のみなさんたちが動き回っていた。

 大きな黒板が壁に掲げられていて、手元の資料を基に何かを書き込んでいるひとがいる。

 ダンジョンマップだろうか?

 次々に加筆されていく黒板を見ていると、どうやら攻略の進捗状況が記されているみたいだ。


 他にも書類の束を運んでいたひとが疲れ切った顔をしていて、ズッコケそうになった。

 連鎖的に不味そうにお茶か何かを呑んでいたひとにぶつかって騒ぎも起きる。


「どうするんですか、あと三日でボス部屋まで到達しなかったら、各階層のボスが復活してしまうんですよ!」

「わかってるわよそんな事は。だからどうしたらいいか考えてるじゃないっ」

「ボス部屋に向かうのか、ボス部屋を諦めて他の部屋を手当たり次第に攻略するのか、決めないと不味いんです!」

「そうだけど、もう少しの戦力で行けそうなんでしょボス階層? やってみようよ攻略、ねえパンチョ……」

「決断の時なんですよインギンオブレイさん! あなたギルマスなんでしょう? ギルドメンバー食べさせていくっていう使命があるんですよ!!」


 扉の中を覗き込んでいた僕たちは唖然としてしまった。

 目の前で妙齢のお姉さんと、何やら熊面の獣人さんが口論しているらしい。

 まるで僕たちの事なんかそっちのけで、激論はますます白熱していく。


「そうして、またダルマの塔の時みたいに《黄昏の筋肉》に初踏破の記録をかっさらわれるんですか? あの時みたいにレアアイテムは何も得られず、記録も作れず、何もかも失ってしまうんだ!!」

「そんなのあたしだって嫌よ! あたしはアイテムも初踏破の記録もどっちも欲しいのおおお~!!」


 腰をクネクネさせたお姉さんは、頭をかきむしる様にして絶叫した。


「もう万策尽きてしまったんだから、どちらか一方の実を取りましょう。ねえインギンオブレイさん、レアアイテムだけでも回収成功したら、今回のアタックチームの食い扶持だけは確保できるんです」

「でもお。まだ万策尽きたわけじゃないわっ」

「まったく、人手がいないでしょう、これ以上の冒険者は今の僕たちのギルドには所属していないんですよっ」

「パーティーを雇ったら何とかなるわよパンチョ!」

「そんな都合のいい人材がどこにいるんですかぁ。だからね? 思い切って戦力をボス階層に投入できないなら、残りの小部屋すべてをしらみつぶしに――」


 こんな次第でクネクネお姉さんを説得しようとする熊獣人さんを目の当たりにして。

 僕たちはお互いに顔を見合わせた。


「出直した方がいいのかな、ドイヒーさん」

「そうですわね。完全に取り込み中で、わたくしたちが訪ねてきた事にも気付いていない様子ですわっ」

「コクコク……」

「むむっ。ここはひとつおちんぎんパワーで乗り切るぞ、頼もう!」


 ヒソヒソ話をしていたところで、意を決したシャブリナさんが叫びを上げた。

 まるでバイトの面接に来たというよりも挑戦状でも叩きつけるみたいな口上である。

 でもそのおかげで、騒がしかったアジトの中は静かになって、


「誰よあんたたち。パンチョの知り合い?」

「いいえ、でも見たところ冒険者みたいな格好だね。どこの助っ人さんかな? フリーランス?」


 顔を見合わせたクネクネさんと熊獣人さん。

 その手にアルバイト斡旋の羊皮紙を握りしめていたシャブリナさんが、ずいと一歩前に出て自己紹介をする。


「わたしの名前はシャブリナだ。冒険者訓練学校の紹介で、掃除屋のアルバイトを引き受けにやって来たのだが――」

「きみ、大きいね。身長いくつ? 騎士みたいな格好をしているけれど、ははァん騎士見習いか。わかるよ! ブンボン系女子?」

「ぶっブンボン騎士団所属だ」


 熊獣人のひとが意外に甲高い声でシャブリナさんの言葉を遮った。

 そのままグルリと観察する様に回りながら、次々に質問と感想を口にしたんだ。

 フンフンうなずきながら納得したところで今度はドイヒーさんに、


「きみはええと、魔法使いのお嬢さんだね?」

「おーっほっほっほ、光と闇の魔法を統べる偉大なる魔法使いアーナフランソワーズドイヒーとはわたくしの事ですの!」

「アーナフランソワーズ……? ああ、街角のパン屋さんの看板娘さんじゃないか! 出勤前にいつも買っていたんだよ。美味しいね、きみのところのパンは!!」

「そ、それはお褒めにあずかり光栄ですのよ。で、でもわたくし、今はパン屋じゃなくて魔法使いですわっ」

「いいね!」


 ドイヒーさんの肩をガクガクと揺さぶった熊獣人さんは、サムズアップをして次に視線を送った。

 出鼻をくじかれて調子が出ないドイヒーさんから、今度はティクンちゃんである。


「その格好! きみは回復職のお嬢さんだね? そうだね、ね?」

「ヒッ、これ以上近づかないで触らないで駄目ですダメー。今触られたら、あっ……」

「ごめんよう、驚かせちゃったかなあ? でも大丈夫、見ただけでおじさんはわかるんだ。回復魔法が使えるんだね、ほら今コッソリと精神高揚の印呪を結んだでしょ? わかるよおっ」


 今絶対にジョビっとジョバしたよね?!

 いつもの調子でモジャモジャのお股を濡らしたんじゃないかと驚いた僕とシャブリナさんは、あわててティクンちゃんを後ろに下がらせた。


「ところできみは、うーん誰?」

「冒険者訓練学校のセイジですっ。ええと、荷物持ちをしています!」

「そっかあ、彼女たちの小間使いだねッ」


 酷いよその言い草は!

 まあ荷物持ちだけだしダンジョンではあまり役立ってないから、小間使い同然だけど……

 呆然としていた僕の事なんか無視して、幸せそうにクルリと回転した熊獣人さん。

 そうして疲れた顔のクネクネお姉さんにこう言った。


「インギンオブレイさん、いましたよ人材!」

「……人材、どこによ?」

「やっと冒険者訓練学校に出していた求人を見て、アルバイトが来たんですよ!!」 

「まさかこの子たち?!」

「そうです、ダンジョンの未攻略部屋を掃除してくれるパーティーがっ」


 掃除ってダンジョンの部屋掃除?!

 振り返った熊獣人が僕たちを見回して何か言おうとしたところ、


「そ、それよりおトイレ貸してくださいっ」


 モジモジ少女がプルプルしながらそう言ったのだ。

 やっぱり漏れたってはっきりわかんだね。

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