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20 アルバイト探しです!

「何だ、坊主たちはアルバイトがしたいのか?」


 翌日になって僕たちが受付に顔を出すと、片腕のないおじさんがそんな事を言った。


 遠くで見ていると狐耳の獣人なのに、すぐ側まで来ると幻惑の魔法で見た目が変わる。

 その事にちょっと驚きつつも僕はうなずいてみせると、その場を代表してドイヒーさんがズイと受付に身を乗り出したのである。


「そうですのよ! ここに来れば訓練生でも受ける事ができるアルバイトを紹介してくださると、ゴリラ教官が授業中に仰っておりましたのっ」

「誰がアルバイトを受けるんだ。魔法使いの姉ちゃんと騎士見習いどのかな?」

「このおふたりですわ!」


 ババンと振り返って笑みを浮かべるドイヒーさんだ。

 僕とティクンちゃんは気押されながらも前に出る。


「ぼ、僕とティクンちゃんでもできるアルバイトの斡旋はありますか?」

「コクコク……」

「確かに、訓練生向けに斡旋しているアルバイトがあるっちゃあるが……」

「あるんですのね?! それをわたくしたちに斡旋してくださらないかしらっ」

「あんまりオススメはしてねぇんだけどなぁ」


 おじさんは困った様な顔をして立ち上がると、背後を振り返った。

 意気揚々としているドイヒーさんはともかくとして、残りの僕たちは互いに顔を見合わせた。

 何となく、ロクでもないアルバイトの斡旋しか存在しない気がしたんだ。


「よし、ちょっと待ってろ。確かこの辺りにいくつかあったはずだ……」


 書類棚が置かれていて、おじさんは壺にささった巻物をいくつか取り出した。

 しばらくアレでもないコレでもないと探した後に、数本の巻物を手にして受付に戻ってくる。


「あったあった、あったにはあった」

「さっそくお見せくださらないかしら?!」

「先に断っておくが、ここが冒険者訓練学校だという事を忘れないでくれよ?」

「……当然ですわね、さて拝見いたしますわ」


 ドイヒーさんは自信満々にニッコリ笑って、巻物のひとつを開いてみせた。

 中には横書きでビッシリと読めない文字が書かれている。

 そうするとシャブリナさんが後ろから身を乗り出してきて、巻物の文字を覗き込もうとする。


「仕事の内容はダンジョンの図面作成業務か、どれどれ……」


 するとどうでしょう。

 僕の頭に柔らかな感触が押し付けられてくるではないか。

 あわてて移動したのに追いかけてくるからたまらない。


「ふむ、それほど危険な内容ではないので、わたしのきゃわいいセイジでも受ける事ができるな。むしろポーターには適任だ。くっくっく」

「シャブリナさん当たってるッ」

「そういうところもセイジはきゃわいいな。んふふんッ」


 かわいいなじゃないよ!

 今度はドイヒーさんは別の巻物に手を伸ばした。

 自然と彼女と密着する態勢になったので、首筋にふっとドイヒーさんの吐息がかかる。

 逃げちゃ駄目だ。逃げたら今度はシャブリナさんに押しつぶされるっ。


「こちらの依頼書はダンジョン攻略のメインルート以外の制圧に参加するひとを募集、とありますわね」

「せ、戦闘任務の依頼なんだね。ちょっとヤバくない……?」

「未経験者歓迎と書いておりますので、わたくしたちにもピッタリですわ!」


 本当かな……

 密着したドイヒーさんが興奮気味に鼻を鳴らすたび、その鼻息が巻物を握った僕の手のひらを撫でた。

 女の子とこんなに急接近すると、鼻をくすぐる甘い匂いを直に感じてしまう。

 その正体が香水なのか年頃の女の子の色香なのか、こんなに女の子と密着した事がない僕には判断がつかなかったのだ。


「あのう、もうひとつあるのです。冒険者ギルドの掃除屋さん募集……」

「お、それいいね。僕はこれがいいや。トイレ掃除とか食堂の掃除でしょ? 危ない事をしなくてもできるというのが――」

「駄目だ駄目だ、そんなまどろっこしい事をしてては大きなおちんぎんにならないぞ!」

「そうですわ! せっかくなのでダンジョン攻略でおちんぎんを初体験しておきませんと、もったいないですのよっ」


 ティクンちゃんが広げた巻物を覗き込んだところで、背後から僕の頭に大きなお胸が乗っかった。

 シャブリナさんとドイヒーさんが声を荒げると、ビクンビクンとティクンちゃんが背筋を硬直させて僕にしがみつく。


「しかしアルバイトに参加するのは、坊主とお嬢ちゃんだろう。ふたりはまだ若すぎるし、戦闘職ではないのだからやめておいた方がいいんじゃねえか……」

「そ、そうだね。掃除か地図作成にしとこうかティクンちゃん?」

「ッコクコクコク」


 さすがに鈍器を買うおちんぎんを得るために、不慣れな戦闘に出かけるのはおかしい。

 そんな風に、危険なアルバイトに気持ちが傾いていたシャブリナさんとドイヒーさんを宥めすかせた。

 僕たちは何とか普通に見えるアルバイトを選ぶ事にしたんだ。


「これで大怪我でもして冒険者になれなかったら、それこそ将来がパアになってしまうからな。坊主の判断は正しいぞ。冒険者には冷静な判断力も必要だ」

「むう。わたしがいればセイジを守ってやれるのだから、ダンジョン攻略でおちんぎん初体験もいいと思ったんだがな……」

「まあ仕方がないですわね。セイジさんとモジャモジャさんには、こちらの方がお似合いではありますけれども」


 ティクンちゃんもいるので、マッピングではなく掃除の方を受付のおじさんにお願いした。

 これならモジモジ少女がアルバイト中にジョビジョバしなくて安全だ。


「で、どこのギルドだ?」

「そのう、ビーストエンドと書かれています……」

「ビーストエンドか、……有名な冒険者ギルドだな。聞いた事がある」


 巻物を手に取って中身を眺めていたシャブリナさんが、そんな言葉を漏らす。

 有名な冒険者ギルドなら身元もしっかりしているし、おかしな事もないんじゃないかな?


「まあ俺はオススメしないからな。冒険者ギルドはどこも人手不足だから、何があっても責任持てんぞ?」


 受付のおじさんはそう言ったけれど、そんな大げさな。

 でも掃除屋さんの募集なんだからギルドの事務所掃除とかトイレ掃除とかでしょ?


「……掃除ごときで何か問題などあるものか。ほっ保護者であるこのわたしが責任をもって、セイジを守ってやるからな。もしも何かあった時は、わたしが生涯貴様を養うと誓おう」

「不吉なことを言うものではありませんのよ、シャブリナさんっ」


 まあ頑張れやとおじさん送り出された僕たちだけれど、さっそく課業終了後に向かう事にした。


 そうして募集要項に書かれた冒険者ギルド《ビーストエンド》のアジト所在地にやって来ると。

 場所はブンボンの街外れ、大きな倉庫を改装して事務所にした建物だった。

 立派な建物を見上げながら僕たちは、こんなギルドに所属できる未来をちょっとだけ想像した。


「僕たちも冒険者になれば、こういうギルドに所属する事になるのかな」

「まあ当然そうなりますわねえ。フリーで活躍する冒険者もおりますけれども、最初はみんなギルドに所属して腕を磨き名を上げるのですわ。いずれ私たちも、おーっほっほっほ!」

「すごく、大きくて立派です。でも中は狭いかもしれないです……」


 シャブリナさんが事務所に向かって一歩前進する。

 僕たちも続いて扉の前に集まった。よしいこうみんな!


「最初は緊張するだろうが、わたしが付いているぞセイジ。せっかく付いてきたのだから、わたしも掃除おちんぎんをタップリもらって幸せになるとするかっ!」


 期待と不安を胸に扉の前に立ったシャブリナさん。

 コンコンとノックをしてみるけれど、返事はまるでない。

 何度か繰り返したところで不審に思ったシャブリナさんが、扉に耳を当てた。


「返事がないって事はみんな留守なのかな?」

「待て、中から騒ぐ声が聞こえる。人間は中にいる様だがこちらに気付いていないらしい」


 顔を見合わせた僕たちは、意を決してドアノブに手をかけることにした。

 こちらに気付いていないのなら入室して声をかけるしかない。

 アルバイト面接のマナーとしては正しいのかわからないけれど、これはしょうがないよ。

 失礼します、と言いかけたシャブリナさん。

 僕たちも開いた扉の隙間から、気になってアジトの内部を覗き込んでみると?


「万策尽きたあああああああっ!」


 そんな絶叫が、ギルド内部から飛び出してきたのである。

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