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02 訓練学校に入学です!

 この国では訓練学校を卒業すると、誰でも冒険者になれるそうだ。


 一攫千金を狙って没落貴族や農民の子倅も志願する。

 十歳になったらこの世界では成人だからね。

 記憶喪失でホームレスの僕にも優しい制度は嬉しいね!

 それにしても……


「……すごい人数だね。これが全員、冒険者志願のひとたちなのかな?」

「そうだぞセイジ、みんなおちんぎんが大好きなんだ!」


 色んな格好をしたひとたちが集まっていた。

 いかにも戦士風の装備をしているのは、アタッカーと呼ばれる職業のひと。

 灰色のトンガリ帽をかぶって、ローブに杖みたいなのを持っているのは魔法使いのひとかな?

 それから人相の悪そうなおじさんは、盗賊みたいな軽装をしていた。


「次の方どうぞ!」

「おい呼ばれているぞセイジ、わたしたちの番だっ」


 受付には厳めしい顔をしたおじさんが座っていた。

 傷だらけの顔をしているけれど、それとは反対に満面の笑みを浮かべているからギャップがすごい。


「ようこそブンボン冒険者訓練学校へ! 志願されるのはそちらの女戦士さまと、少年かな?」

「そうだ。わたしとセイジはパートナーを組んで、世界中の迷宮を攻略してまわるという夢を持っている」


 ニッコリ顔の強面おじさんに、シャブリナさんは入学願書を差し出しながら説明した。

 おじさんもシャブリナさんの語る夢に、ウンウン言いながら願書を受け取る。


「なるほど、シャブリナさんは騎士見習いというわけか。ブンボン騎士団の所属?」

「何事もなければ、来年には騎士に昇格する事ができるだろう」

「特技は剣術というのも納得ですな。志望職種はタンカーですか、騎士さまにはピッタリだ」


 ふんふん言っていた受付のおじさん。

 シャブリナさんの願書にペンを走らせながら最後にポンと印鑑を押した。


「ではあなたはタンカー役のコースに決まりました。ご入学おめでとうございます!」

「うむ。わたしが生涯をかけて、セイジのおちんぎんを守る事を誓おうッ」


 次は僕の番である。

 ニッコリ笑ったおじさんは、僕の願書に視線を落とすと途端に険しい表情になった。


「……ようこそブンボン冒険者訓練学校へ」

「よ、よろしくお願いします」

「年齢は三十歳と書かれているが、サバを読むのはいかん」

「あのう、僕はこれでも成人で……」

「せいぜい十二歳といったところだろう。背伸びしてもいい事はないぞ坊主」


 僕はギロリと睨まれた。


「職業はホームレスと書いてあるが、食い詰め貧民か。志願するジョブは支援職、使えないな……」

「…………」

「お前の特技は何だ坊主」

「と、特にありません……」


 胡乱な目を僕に向けてきた受付のおじさんは、しばらくジっと観察した後にペンを願書に走らせた。


「とりあえず荷物持ちでもやらせるしかない。お前は今日からポーターだ」

「ポーターって何ですか?」

「荷物持ちをしながら地図をマッピングしたり、飯炊きや寝床を用意したりする役割だ。それぐらいなら素人のお前でもどうにかなるだろう」


 そんな説明を聞いて僕はとてもガッカリした。

 そっかあ。

 体力には自信がないし魔法とか無理だから支援職かなとは思ってたけど。

 冒険者なのに荷物持ちってパっとしないよね……


 けれど最後に。

 難しい顔をしたおじさんが急に表情を緩めて僕にこう言う。


「坊主、誰だって駆け出しのうちは苦労するものだ。失うものもあるかもしれねぇ」

「は、はい……」

「だが続けていれば得られるモノある」

「おちんぎん……ですか?」

「働きに報酬が伴うのは当然だ。富や名誉もそうだが、俺は冒険者になって嫁さんと出会った」

「お、お嫁さん」


 確かに僕は三十路だし、世間的に言って奥さんがいてもおかしくないけどさ。

 ホームレスじゃ生活力ないし結婚できない。

 やっぱりまずはおちんぎんだ。


「坊主も冒険のパートナーが人生のパートナーになればいいな。ん?」


 何故かおじさんはウィンクを飛ばしてから、シャブリナさんを見た。

 するとシャブリナさんは突然顔を赤くして両手をブンブン振り回した。


「しょ、しょんな事をわたしは考えてなんかないぞ」

「まあ坊主の場合は冒険者として一人前の稼ぎが得られる様になってからだ」

「そ、そうだぞ。おちんぎんが先だ! あかちゃんはその後だ!!」


 そうして受付のおじさんは持っていたペンをカウンターに置いて。

 僕に左手を差し出し、握手を求めたのだ。

 おや、そう言えばおじさん左利きだったんですね?


「ブンボン冒険者訓練学校はあなたの入学を歓迎します。おめでとう!」


 あれ、今気が付いた。このひと右腕がないよ?

 服の袖がダランとしていたから最初はわからなかった。

 けれど立ち上がると、袖の中身がない事に気が付いたのだ。


 失うものもあるってもしかして右腕のことだった?!


「入学した訓練生はこっちに集まれ、適正とバランスを見て班分けをするぞ!」


 そんな驚いている僕の事はそっちのけで、訓練生を指導する教官が大声を張り上げていた。

 シャブリナさんに引っ張られながら、ぞろぞろと集まった訓練生の集まりに加わる。


「さっきの受付のひと、右腕が無かったよ……」

「そうだったか? そんな事よりも班分けだ。一緒の班になれるといいな!」

「そんな事よりもって」


 腕だよ腕、冒険者続けてるとああなるのかな……


「あれは訓練生を脅かすためのパフォーマンスだから騙されるな」

「そ、そうなの?」

「騎士団に入営する時も、受付が似た様なことをするのだ。あの受付は狐人族の人間だから姿かたちは変幻自在だ。見てみろ」


 僕は言われるままに気になって受付の方を見ると、


「あれ?! さっきのおじさんがいない……」

「代わりに狐人間がカウンターに座っているだろう」

「ほ、ホントだ」

「相手のイメージを感知して、魔法で化けて脅すんだ。腕がない様に見えたのもきっとセイジの中にある冒険者のイメージを具現化させる魔法でも使ったのだろう」

「そっかあ、じゃあ腕がないのは魔法で見間違えただけ……」


 受付を見ていると、狐の顔をした人間が手を振ってくれた。

 ちゃんと今度は右手でね。

 世の中にはいろんなひとがいるものだ。

 僕は記憶喪失だから世界の常識をすっかり忘れてしまったのかも知れない。


「貴様の身の安全は、保護者であるわたしが守り抜くと決めたからな」

「か、顔が近いよシャブリナさん」

「片腕どころか貴様のかわいらしいその顔に、傷ひとつだって付けさせるものか。これは騎士の誓いだ!」

「だから顔が近いって」

「わたしは本気だ。本気と書いてマジだからな。アッハッハ」


 ずいと顔を近づけたシャブリナさんから、何だかとってもいい匂いがした。

 こ、香水かな?

 おちんぎんじゃないところがちょっと反応しちゃった。

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