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18 セイジ、いきます!

投稿内容に掲載ミスがありましたので、取り急ぎ差し替えました。

ご迷惑をおかけしました><

 狭い迷宮の中を走る通路で、効果的に戦うためには頭を使わなくちゃいけない。


 せっかく仲間がいるのに、ひとが独りようやく通り抜けられる様な場所で戦うのは愚の骨頂だ。

 だからダンジョンの構造をいかに上手く利用して、少しでも優位に戦える場所を確認する必要がある。

 僕たちの班でそれを判断するのが、パーティーの先頭に立っているシャブリナさんの役割だった。


「む。この先は通路が分岐になっている様だ……」


 大きな盾を前面に押し立てて、いつでもモンスターが奇襲をしてきてもいい様に身構えながらシャブリナさんがそう言った。

 後ろでマッピングをしていた僕は、ボードから視線を上げて前方に注視する。


 ダンジョン内での隊列は次の通り。

 シャブリナさんを先頭にドイヒーさんが続き、ティクンちゃんの後ろに僕が配置されている。

 ランタンを持ったドイヒーさんが、通路の壁に体を張りつけながら、分岐路の向こう側の様子をうかがった。


「どうですの、気配は感じられますの?」

「ここからではわからないが、モンスターがこの先に配置されている可能性はあるからな」

「わたくしも、何となくいる気がいたしますわ……」


 ヘイト管理と呼ばれる、モンスターの注意を一身に引き受けるのがシャブリナさんに与えられたタンカーという職種のお仕事だ。

 だから背後を振り返って僕たちにうなずいてみせたシャブリナさんはこう言う。


「念のためにわたしが飛び出して様子を見る。もしもモンスターがいた場合、距離が離れている時はドイヒーに先制攻撃を譲る」

「わかりましたわ。わたくしの火炎の魔法を撃ち込んで差し上げますのよ」

「近い場合は丁字路に相手を誘い込んで、挟み撃ちにするのがいいだろう」

「そうですわね、上手くすれば一気に倒すことが出来ますわ」


 通路の地形効果を利用して、上手く挟み撃ちに持っていくらしい。

 前のふたりが確認を終えたところでシャブリナさんが振り返ったのだ。

 挟み撃ちにするなら、僕も出番を覚悟した方がいいかもしれない。


「セイジ、貴様も攻撃参加の準備をしてくれ」

「り、了解だよ。ティクンちゃんこれ持っててくれる?」

「ひゃ、ふぁい。わかりましたッ」


 素早く僕たちに指示を飛ばしながら、シャブリナさんは大きな盾を引き上げつつも長剣を構えた。

 状況によっては盾を使わずに長剣一本でモンスターに挑む事もあるけれど、今は守りを重視すると判断したみたいだね。


 僕もティクンちゃんに筆記道具をあずかってもらい、背負子を下ろして短剣を抜いた。

 よし、覚悟を決めるぞ。

 短剣は冒険者訓練学校で支給された安っぽいそれで、切れ味もイマイチだ。

 けれども無いよりマシな事だけは間違いないし、僕だってパーティーで役に立てるという実感が持てる。

 グリップをぎゅっと握りしめながら、アイコンタクトを送るシャブリナさんに対して大きくうなずき返す。


 よし、行くぞと呟いたシャブリナさんが、分岐路の向こう側に飛び出していった。

 そしてすぐにも長剣を構えたシャブリナさんが叫んだのである。


「いたぞ! 相手はダミーモンスターが一体だ、距離があるッ」

「わたくしの出番ですのね! 行きますわよ、……フィジカル・マジカル・アッハーン!!」


 素早く分岐路の先を譲ったシャブリナさんが身を引く。

 入れ替わりにドイヒーさんが黒くて大きくて禍々しい長い杖を突き立てた。

 ひと呼吸だけ置いて眼をすぼめてみせたドイヒーさんだけど、長い杖の先端がきらめいたかと思うとビームが発射された。


 ドカンと大きな衝撃が分岐路の向こう側で発生する。

 シャブリナさんがドイヒーさんを引き下がらせて、盾を構えたところに黒煙が迫ったのだ。


「やったか?」

「命中しましたわよッ」

「来るぞ、足音が聞こえる。ドイヒーもっと後退しろ!」


 次の瞬間に分岐路の向こう側から大きなダミーモンスターが武器を振りかぶる姿が飛び込んでくる。

 骨だ、動物の骨をこん棒代わりにしている豚面のモンスターだった。

 通路の向こう側に陣取ったシャブリナさんとドイヒーさんに気を取られて、豚面モンスターは僕に背中を見せた。


「ぬうっ。オークの攻撃などにわたしは屈しない!」

「シャブリナさん、まともに攻撃を盾で受けては持ちませんわよっ」

「おちんぎんだ、わたしにもっとおちんぎんパワーを!!」


 背後から攻撃を受けたからだろうか、巨躯の豚面モンスターの背中は大きくただれていた。

 ドイヒーさんの威力を絞った火炎魔法が命中したからだ。


「引き付けてくださいなっ。わたくしの近接魔法でトドメを刺しますわよ?!」

「できるのかそんな事が。死ねっ、ぬうんっ、また大爆発しないだろうな」

「何度も同じ失敗をするほどお馬鹿さんではありませんのよ、教官どのがやったあれを!」


 そして今の僕にはドイヒーさんとティクンちゃんにかけてもらった補助魔法の効果がある。

 生身の僕は無力かも知れないが、今なら攻撃も少しだけ通るはずっ。

 ただれたその背中に、僕の小さくて細くて頼りない短剣を突き刺してやるんだ!


「僕もイくよティクンちゃん」

「ふぁ、ふぁい! 思いっきりイッてくださいッ」


 握りしめた短剣を胸に構えて、一瞬だけ背後に庇ったティクンちゃんに視線を送りながら僕は駆け出した。

 補助魔法が与えてくれる高揚感と興奮と、そうして不思議と軽やかな体が僕を勇気づけるのだ。

 いっけええええッ。


「チェーストーお?」


 体ごとぶつかる様に剣を刺し込んだと思った僕だけど、結果だけを言えばそうはならなかった。

 巨大な背中が突如消失して、僕の一撃は空振りしたのだ。


「はれ? あれ? あれれっ?」


 宙を切り裂き転がりそうになった僕を、シャブリナさんが抱きとめてくれた。

 突然消えてしまった豚面モンスターを探し求めるが、どこにも見当たらないのだ。

 まさか僕の一撃で倒れた?!

 と一瞬だけ嬉しい気持ちになったけれど、そんな感触は手に伝わってこなかったはずだ。


「危ないぞセイジ、どうしたわたしにいきなり抱き着いて。こ、この続きは夜にしようなッ」

「い、いやオークが当然消えたものだから。続きは遠慮しておくよ」

「そっそうか残念だ……」


 すると僕の視線に、黒くて大きくて禍々しい長い杖を突き出していたドイヒーさんの自信満々の顔が飛び込んできたのだ。


「おーっほっほっほ! みなさんご覧になりまして? このアーナフランソワーズドイヒーの電撃魔法が、ダミーモンスターを撃退してましたのよ!」


 どうやら豚面モンスターにトドメをさしたのはドイヒーさんの一撃だったらしい。

 いつもの爆発するやつじゃなかったのは、電撃魔法を使ったからなのか。

 ガッカリ半分、ホッとした気持ち半分。


「く、無念だ。わたしの一撃がもう少し早く決まれば、トドメをかっさらってセイジにいいところを見せられたのになっ」


 そんな事を口走る背の高いシャブリナさんに抱きしめられると、僕の顔は自然と彼女のたわわな胸に沈んだ。

 女の子の汗と香水のない交ぜになった甘い体臭が狂わしい。

 これ以上はおちんぎんが発生すんじゃないかと僕は心配になったぐらいだ。


「う~んセイジ。セイジは汗をかいてもいい匂いがするぞッ」

「く、苦しいよシャブリナさん。顔が近いし息が出来ないモゴっ」

「しゃぶりつきたい。しゃぶりついてもいいか?」

「だっ駄目ですセイジくんを解放してあげてくださいっ」


 駆け寄ったティクンちゃんに助けられて僕は解放された。

 ありがとう助かったよティクンちゃん。

 その時、プリプリと怒った顔のドイヒーさんが酷い癇癪をまき散らしたんだ。


「ちょ、ちょっと聞いておりますの?! アーナフランソワーズドイヒーさまをどうして無視なさるのですかっ! わたくしの事もちょっとは褒めてえええッ」


 という実戦に即した訓練が、その日練兵場の隅に作られた仮設迷宮で行われた。

 ダンジョンはパネルを組み合わせて小部屋と通路を配置して、あちこちにダミーモンスターと罠が配置される。

 小部屋のいくつかにはダミーのお宝も配置されていて、これを持ち帰るのも訓練の一環だった。


 ピッピッピー! 

 パネルの上面は吹き抜けになっていて、監視台の上からミノタウロス教官がタイムオーバーのお知らせをしてくれた。


「よーし、第四班はこれで状況終了だ」

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