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17 みんなで食卓を囲みます!

お色気回です。苦手な方は読み飛ばしてください。

 寄宿舎の台所は賑やかだ。

 作業台ではドイヒーさんが不思議な呪文を唱えながら、パン生地を熱心に捏ねていた。

 リズムに合わせて軽やかに、ふかふかの丸いお尻をフリフリ。

 僕はしばし見惚れていたけれどきっと不思議な呪文通りに、ふかふかのお尻みたいなパンが焼けるに違いない。


「フィジカル・マジカル・とっても美味しくなぁ~れ♪」


 根菜の皮を剥いたり野菜を洗ったりして、ティクンちゃんが小さな寸胴鍋を持ってきてスープを作りはじめる。

 根菜はお鍋に放り込まれて、その上にザルをかけて温野菜を蒸しはじめた。

 ちょっと手付きはおぼつかなかったけれど、訓練学校に来る前もやっていたみたいだね。


「ひゃん、お湯が飛び散りました。セイジくん大丈夫でしたかっ?!」


 そしてシャブリナさんはフンフンと上機嫌にフライパンを振っている。

 みじん切りにしたニンジンや玉ねぎ、ハーブの中に、ティクンちゃんが作りかけていたスープを投入して最後にライスを入れる。

 炒め終わったところで冷めるのを待って、切り分けた白身魚を炒めたライスで包み始めていた。


「料理は愛情だからなセイジ。この味は、どれだけわたしがセイジに愛情を注いでいるのかを試されているというわけだ。きっとこれを食べたセイジはわたしの溢れ出す愛情に感涙するに違いないぞ。アッハッハ、アッハッハッハ!」


 最後に丸めたご飯を、ドイヒーさんが持ち込んだ小麦粉と玉子の入ったボールに漬け込んで、油でカラリと揚げていく。

 オーブンの前で不思議なダンスを踊っていたドイヒーさんは、魔法でパンを一気に焼き上げたみたいだった。


「まあ素敵。とっても美味しく出来上がりましたわっ♪」


 なるほど魔法にはこういう使い方もあったんだね。

 ドイヒーさんはきっと将来、立派なパン屋さんの跡取り娘になるに違いないと僕たち班のみんなは思った。

 それでは、できたて揚げたての料理を自室に運び込んで、


「「「「いただきま~す」」」」


 待ちに待った夕飯のお時間だ。

 普段食べている硬い黒パンの場合は、スープやシチューに付けて柔らかくして食べるのが普通だけれど


「はむっ。とってもやわらはいれふッ」

「本当だな。これは王侯貴族の食卓に並んでいてもおかしくないレベルの、尻の肉みたいにふかふかだぞドイヒー。まるで貴様の尻の肉みたいにふかふかだドイヒー」

「な、何度もお尻のお肉を強調しないでくださいましなっ! 気にしておりますのよッ」


 ドイヒーさんは自分の丸いお尻の事を気にしているらしい。

 僕も切り分けられたパンをひとつつまんで口にしたのだけれど……

 ほのかに甘く感じる味覚と、ふわりと舌に張り付くような舌触り。

 それに噛みしめると簡単にちぎれる事に、大きな衝撃を覚えたんだ。


「美味しい! こんなに美味しいパンを食べたのはいつ以来かな?!」

「そうだろうそうだろう。貴様がこれまで食べていたのは貧民の施しに与えられるカビたパンだからな。混じりっ気なしの一〇〇パーセント白い粉で作られたパンは最高だろうっ」

「うん、とっても美味しいよ。ドイヒーさんありがとう、きっといいパン屋さんになれるよ!」


 少しだけ興奮気味に僕がそう答えると、金色の縦ロールをクリクリ弄っていた彼女は赤面した。


「べ、別にわたくしはパン屋の跡取り娘になるつもりはありませんのよっ。お婿さんだってまだおりませんし。それにですわ、わたくしは冒険者になりたくて魔法使いになりましたのよ! それにこの程度の出来栄えはパン屋の娘なら当然の事ですわっ」


 ツンとそっぽを向いたドイヒーさんは、ティクンちゃんの作ったスープ入りのマグカップを口に運ぶ。

 そうしてあわてて「あっ熱いですわッ」と小声を漏らしたのだから、これは照れ隠しだ。


「はむっ。そうですよう、冒険者になって素敵なお婿さんが見つかるといいれふめっ」

「ティクンちゃん。女の子が食べながら喋ったら駄目だよ」

「ふぁい。はむはむゴクン……」


 さて次は白身魚のライスボール揚げだ。

 シャブリナさんが愛情をたっぷり注いだというこのライスボールは、正直なところ僕の想像していたものと随分違っていたけれども……

 サクっと揚げられた衣の上から、これもシャブリナさん特性のトマトソースがかけられている。

 フォークを差し入れるとカリカリと音を立てて僕の食欲をそそった。


「遠慮なく、わたしを食べてくれセイジ。わたしだと思って存分に味わってくれセイジ。さあ、さあ!」

「シャブリナさん顔が近いよ。食べにくいから……」

「す、すまない。食べ終わったらぜひとも感想を教えてくれるとありがたいっ」


 一瞬身を乗り出したシャブリナさんを制止して、僕はフォークとナイフで切り分けてひと口食べてみる。

 オリーブオイルの匂いにますます食欲が膨らんで、口にすると白身魚の柔らかさと衣のサクサク感がとても絶妙だった。


「ど、どうだ……?」

「わあ、ふんわりサクサクでいいね!」

「そ、そうか。やった!」


 すぐにでも次のひと口を食べたくなってしまう食べごたえ。

 やっぱりお米は最高だね!


「本当ですわ。これもわたくしの持ち込んだ小麦粉のおかげですわね、とっても美味しく揚げられていますわっ」

「もぐもぐ……もご、美味しいから直ぐになくなってしまいました……」

「シャブリナさんは美人で強くて頼りになって、その上料理もできるなんて完璧だねっ」

「きっとお嫁さんにしたい冒険者ナンバーワンになれますわよ。おーっほっほっほ!」

「そのうシャブリナさん。食べないのならわたしに頂けますか?」


 最後にみんなして手放しでシャブリナさんを称賛していたところ、


「しょ、しょれではデザートの時間だな。あっちでわたしとふたりきりになって、デザートを食べよう。むしろメインディッシュかもしれない。そう、セイジのソーセイジをご褒美に食べさせてくれてもいいぞ!」

「意味がわかりませんわっ! さあ早く片づけをしてしまいませんと、消灯時間が迫ってまいりますのよ」


 興奮したシャブリナさんがおかしなことを口走ったけれど、ちょっと気味が悪かったのでお断りした。

 寂しそうな顔をしていたシャブリナさんには悪い事をしたけれど、消灯までの自由時間は限りがあるからねっ。


 お皿洗いや片づけを済ませたら、お風呂の用意をする。

 お風呂は大きなたらいを持ってお湯汲みに行き、班の部屋に持ち帰ってみんなで洗いっこするんだ。

 シャブリナさんはブンボン騎士団で当たり前だったので、部屋の中でまる裸になっても平気だった。


「冒険者は迷宮の中で男も女も過ごす事になるからな、他人に肌を見られても気にするだけ無駄だ!」


 ドイヒーさんは初日こそ気恥ずかしそうにしていた。

 けれど今ではツルツルのお股を見られる以外は気にならなくなったみたいだね。


「こっここを見てはいけませんわ。ここだけは乙女の秘密の花園なのですわっ!」


 恥ずかしがり屋さんのティクンちゃんは、やっぱりモジャモジャ少女だった。

 寝食を共に過ごしてもまだモジモジしながら服を脱ぐ。


「ひゃう。せ、セイジくん灯りを消してくださぃ……」


 そんな三者三様な反応をするルームメイトだけれども。

 僕が服を脱ぐと、とたんに興味津々に体を観察してくるのだ。

 えっ、冒険者はみんなで共同生活をするのが普通だから、異性に見られるのも当たり前なんでしょ?

 おじさんの体をマジマジと見ても楽しくないでしょうに……


 石鹸を付けてへちまのタワシで体を洗っていると、班のみんながヒソヒソ話しているのが聞こえてくる。

 何をそんなに熱心に話しているのかと聞き耳を立ててみると、


「や、やっぱりセイジはお子さまだな」

「そうですわねぇ。大人を名乗るのにはまだ少し先の事ですわ」

「そのう。セイジくんは、恥ずかしがり屋さんなんですねっ」


 お、お子さまって言うな!

 どうやら僕のお股を観察して品評しているらしい。

 僕はとても悲しい気分になって、石鹸でお股をゴシゴシした。


「アッハッハ、ドイヒーのお股はツルツルだからな。貴様もまだお子さまだぞ?」

「きいいいいいいっ。その無駄に大きな胸の突起を引っ張ってやろうかしらっ」

「……あのう、わたしのを半分いりますか?」

「モジャモジャさんはお黙りなさいなっ! わたくしだって、そのうち生えてきますわよっ」


 消灯後、僕はベッドで泣いた。

 いつか立派な冒険者になったら、おちんぎんを一杯稼いで見返してやるんだ!

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