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120 これからも冒険者生活は最高だぜ!

 これは後々になって聞かされた事だけれども。

 もともと、ブンボン領主さまの治めていたスジーという村の洞窟迷宮は、訓練学校の卒業生たちが代々攻略してきた演習候補地だったんだそうだ。


「村長さんも村人のみなさんも当然その事は知っていて、演技をしていたというわけなんだね」

「そうしてみると、元々あのバジリスクの卵を孵すための魔法陣も、訓練学校が管理していた設備という事になる」


 他にも幾つかある演習候補地があるけれど、その中から今年はスジーの村が選ばれたわけだ。

 その理由は直近の演習で卒業生が利用していない事が条件らしくて、先輩たちから訓練学校の用意した筋書きがバレない様にとの事らしい。


「それにしても今回の演習のために教官たちの用意した筋書きは、散々な結果でしたわねぇ」

「フンフン。ようじょのひとがバジリスクの卵を勝手に孵してしまったし、狼人間の謎も討伐してしまってからわかりましたっ」


 訓練学校への帰路へと就く馬車の荷台で揺られながら、班のみんながお互いに今回の演習について感想を口にした。

 整理の終わった洞窟迷宮のマッピングデータをしげしげと眺めて、本来ならば教官たちがどういう風に攻略してもらいたかったのかを考えていたところだ。


「順当に滝壺の裏口から攻略を続ければ早晩、細くなった通路に行き当たる事になったわけだね」

「けれども通路そのものは奥へ奥へと続いていたわけですわ。どのみち別ルートを捜索する事になっていたわけですもの。そこまでは教官たちの想定範囲内だったはずですのよ」

「しかし、そこに貴様が現れたわけだな」


 呆れた顔をしたシャブリナさんが、ところ狭しと荷台でギュウギュウ詰めになっているバジリスクのあかちゃんたちを見回した。そうして最後にようじょブリーダーで視線を止める。


「ぬぬっ。余はたまたま、誰もいない洞窟の中で珍しい肥えたエリマキトカゲの卵を発見しただけなのじゃ!」


 勝手に動き回ろうとする五匹のあかちゃんを宥めすかせながら、言い訳をシャルロッテちゃんが飛ばした。

 たまたま珍しい研究素材はないかとスジーの村に滞在していたところ、ようじょは洞窟の中で魔法陣と卵を発見したわけだ。

 本来ならば僕らが洞窟の外周を調査しつつ、本来は教官たちが見つけてほしかった別ルートが発見されるはずだったんだけれども。


「聞けば、本当にたまたま大広間の場所へと繋がる非常口の側に、非常識なようじょが住み着いてしまったわけだから、笑い話としか言い様がない」

「ふ、不可抗力なのじゃ! 余は悪くないのじゃ!」

「確かに貴様は卵を見つけたかも知れないが、貴様は取得物は騎士団の詰め所に届け出るという、国法を知らぬわけではないだろう。どうなんだ、ん?」

「……そ、そうです。本当はこれから届け出しようと思っていたんです」

「嘘をつくな嘘を! 貴様はそのあかちゃんを養殖して、好事家に売り飛ばすつもりだったろうが。ようじょブリーダーめ!!!!」

「ヒッ。痛い事しないでぇ……」


 シャブリナさんがひと睨みすると、降参のポーズでようじょが縮こまってしまった。

 教官たちが時折ピリピリした態度を見せていたのは、計画変更のために演習がどう進行するかわからなかったというのもあるんだろう。


「筋書きの方はお粗末な結果になっちゃったけど。本当は正規の別ルートから攻略していくと、洞窟を根城にしていた狼人間と遭遇する様に想定されていたんだってね」

「フンフン。教官たちの予定では、コッソリと狼人間の封印を開放して、わたしたちと出合い頭の戦闘をさせる予定だったそうですっ」


 そのはずが、ようじょが洞窟側に住み着いてしまったせいで不可能になっちゃっただなんて……

 そうなっても演習が中断にならなかったのは、不測の事態は冒険者にとってついてまわる出来事だからだ。

 順番は滅茶苦茶になってしまったけれど、確かに僕らはバジリスク孵卵装置の魔法陣を発見し、あかちゃんを回収して狼人間を討伐した。


「そ、それはそうと、学校に提出予定のレポートですけれどもっ……シッシ!」


 各班から集められた探索の報告書を束ねながら、ドイヒーさんが纏わりついてくるあかちゃんの一匹を追い払っていた。

 どうやら彼女の肩でキラキラ光っているなめくじに、あかちゃんが興味を示しているらしい。


「さ、最終報告はこれでよろしくって?」

「ええと、何て書いてあるのかな……」

「読み書きのできないセイジのために読んでやろう……村はずれの泉の滝付近で聞こえた咆哮はバジリスクのものとは別、狼人間の発したものであると想定される。同時にスジーの村で起きた家畜被害も狼人間の仕業と同定。古代遺跡に残されたバジリスクの孵卵装置を狼人間が悪用する直前に、我々がこれを阻止した。……まあ、こんなところで問題ないだろう」

「フンフン。村で起きていた不可解な家畜被害というのが、実際は筋書き上の作り話だったのは幸いでした!」

「わたくし、洞窟の奥にいつまでも到達できず、放っておけば被害がどんどん広がるんじゃないかって心配でしたのよ。本当によかったですわ」


 それもこれも、余があかちゃんを飼育していたおかげじゃな!

 なんて意味不明な事を口走ったシャルロッテちゃんがみんなにどやされたりしながら。やがて僕ら訓練生を乗せた馬車の列は、高い城壁に守られたブンボンの街へと戻ってきたんだ。

 城門を潜れば賑やかな人々の往来が出迎えてくれる。

 大通りを行きかうひとたちが物珍しそうにこちらを見やったり、中には「おかえり!」と声をかけてくれるひとたちもいた。


「おうヒヨッコ冒険者ども、無事だったのか!」

「どうだ、卒業検定は成功したのか?!」

「いい顔してるじゃねえか兄ちゃんたち、もうすぐ卒業だな!!」


 そんな街のひとたちから投げかけられる言葉は、ブンボン冒険者訓練学校に近づくにつれ多くなっていき、学校の正面玄関前には、誰から知らせを聞いていたのか訓練生たちの家族の姿すらあった。


「とうちゃんなんで来てるんだよ!」

「うるせぇ、娘の無事を確認しねぇ父親がいるかっ」


 わあっと駆け寄ってきたそんな学校関係者たちに揉みくちゃにされながら校門の中に入ってみると、僕らを引率していたゴリラ教官が全員を見回してこう叫びながら問うたんだ。


「諸君、冒険者は最高かっ?」

「「「はい、やっぱり冒険者は最高だぜ!!!」」」


 お決まりの返事を揃ってしたところで、僕らの卒業検定は終了した。


     ◆


 それからの僕たちはあわただしかった。

 演習の報告レポートを提出しおわると、しばらくしてみんなで寄宿舎の身辺整理をはじめたんだ。

 卒業を前にして就職の内定通知が訓練生たちに届けられると、引っ越し準備がはじまる。

 とても嬉しい事に僕らは揃ってギルド《ビーストエンド》への就職が内定したから、みんなでギルドの下宿先へと荷物の移動をしなくちゃならないからね。


「しかしセイジ。冒険者になるという目的は第一歩を踏み出したわけだが、まだおちんぎんをタップリと稼ぐという大望は果たせたわけではないぞ?」

「そうですわね。これからは新米冒険者として、世の中のあらゆる迷宮に挑戦して、このアーナフランソワーズドイヒーさまの名をあまねく響かせませんと!」

「そのう。おちんぎんをびちくして、家族に楽をしてもらうのっ」


 木箱の中にそれぞれの私物を仕舞いながら、みんなが未来に思いを馳せた。

 

 以前の僕はホームレスの保護施設でお世話になっているだけの残念なおじさんに過ぎなかった。

 それがシャブリナさんやドイヒーさん、そしてティクンちゃんのおかげで一人前の働き口を得られる新米冒険者になれるんだからね。

 おちんぎんは魔法の言葉だ、それを聞くだけで頑張って明日も冒険者ができる様な気がする。


「おちんぎんを備蓄するなんて事は、ほんの少し前の僕じゃ考えもしなかったや」

「そうだろうとも。おちんぎんはいいぞ! タップリ貯めてびちくをすれば、わたしとセイジの明るい家族計画も夢じゃないんだからなっ。ハァハァ。なあセイジ、小首を傾げながら上目遣いにびちくって、言ってみてくれるか……」

「そ、そうだね、備蓄はとっても魅力的だね……」


 ズイと身を乗り出したシャブリナさんが、僕に向かってそんな言葉を言わせるもんだから。

 ドイヒーさんやティクンちゃんがあからさまに嫌そうな顔をしたんだ。

 けれども、魔法の言葉を耳にしたシャブリナさんは、そんな仲間の事なんて気にも留めずに、僕に飛びついて抱きしめてくる。


「そうだな。何れセイジのおちんぎんを、タップリびちくに注ぎ込んでくれ!」

「何を勝手な事をなさっておりますのシャブリナさん?!」

「えいっ。わたしも参加するのっ」

「ちょ、みんな息苦しいやめて潰れる。ギャア!!!!」


 シャブリナさんのたわわな胸に顔が埋まって息ができないところに、ドイヒーさんやティクンちゃんまで飛びついてくるからおしくら饅頭だ。

 ついでにてぃんくるぽんまで興奮して、いつもより多めにキラキラしているから眼がつぶれる!


「あっはっは! やはり冒険者は最高だな。なあそうだろう、セイジ?」


 確かに、ブンボン冒険者訓練学校を卒業してその先もずっと、このメンバーで冒険者を続けていければ何よりだね。

 だから、これからも冒険者生活は最高だぜ! きっとね。

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