表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/123

118 おちんぎんソードです!

 毛むくじゃらの顔は面長で頭上にふたつ耳が付きだしている。

 そうして同じく毛むくじゃらの体は、肩パットと胴丸鎧みたいなものを身に着けて、鎖のアクセサリーを巻き付けていた。

 巨躯という程ではないけれど、長身のシャブリナさんと背丈は変わらないのにその姿はまるで世紀末なファッションで妙な威圧感があるんだ。


「ウェハハハハハ! 死ンデミタイト思イマセンカ?!!」


 大剣を持ち上げた毛むくじゃらは、ゆっくりと歩みだすとそのまま加速する。

 この時ビッツくんは、わざと相手の意識を引き付けるために少し前進してポジション取りをした。そこに釣られる様に、一刀両断に叩き潰す勢いで攻撃をかけてくのだ。

 次の瞬間にシャブリナさんが呼応した。


「ウフッフゥー!」

「そうはさせるかぁ!!」


 盾を構えたシャブリナさんが、側面からタックルをしかける。

 するとその瞬間に選抜メンバーのみんなは四散して、巻き添えを喰らわない様に対比した。

 何度とボス戦を経験したおかげで、僕らは自然と役割別にどう動くべきか考える様になったからね。

 そうして渾身の体当たりをシャブリアンさんが見舞ったところ、世紀末な毛むくじゃらは一瞬だけ驚いた顔をしたんだ。

 ところが、あべこべに力づくで勇敢な女騎士見習いのタックルを押し返すほどの圧倒的なパワーを見せつける。


「今だ貴様たち、やれッ!」


 だけどシャブリナさんは、毛むくじゃらの動きが一時中断するのを狙っていたらしい。

 ちゃんとその瞬間を見逃さない様に、彼女の声に呼応して近接アタッカーのふたりが長剣を翻しながら時間差で斬り込んできたんだ。


「おらよ喰らいやがれ!」

「俺が相手だぞ!」


 仲間の攻撃は確実に世紀末な毛むくじゃらの体に連撃を加えた。

 それに怒り狂った毛むくじゃらは、大きく怒声を巻き散らしながら大剣をブンと振り回した。

 近接アタッカーは急ぎ足に退避して、しっかりと距離が離れたところで遠距離攻撃の射線が確保されているじゃないか。


「みなさん。ありったけの魔法攻撃と、弓攻撃をしかけますわよっ。よろしくて?!」

「俺の筋肉が唸るぜ、いつでもいいぞ!」

「あたしも攻撃準備はできているわよ。合図を頂戴っ」


 見事な連携、とまで手放しに称賛できるわけじゃないかもしれない。

 それでも牽制からのタックル防御、そして続け様の斬撃を見舞って相手が混乱した瞬間、待ってましたと言わんばかりにドイヒーさんが指示を飛ばしたわけだ。

 僕の傍らで「眼を閉じておいでましな」と小さく警告した彼女は、そのまま自信に満ちた表情を浮かべて不思議な呪文を紡ぎはじめた。


「いにしえの魔法使いは言いました。天地輪環は等しく巡り、今ここにひとつの集束を成す。紅蓮の業火となりて、猛き炎の槍で打ち滅ぼせ! フィジカル・マジカル・キャストオフっ」


 するとどうでしょう。ドイヒーさんを中心にしてすさまじい風圧と魔法陣が浮かび上がる。

 これはダンジョンスパイダーを一撃で仕留めた時に使った、強烈な炎の槍の時と同じ現象だった。

 黒くて大きくて禍々しい長い杖を地面に突き立て、指先をピシリと毛むくじゃらの存在に施行させているその先端から、圧倒的な魔力のもたらす集束が解き放たれてビームとなって発射されるんだ。


「うおっ眩しい!」

「何だこの強烈な魔力は。俺たち全員やばいんじゃないか?!」


 同じ様に魔法攻撃や弓による遠距離攻撃を仕掛けようとしていたアタッカーのみんなまで、その圧倒的な威力の予感に躊躇したみたいだ。文言だって呪文に追加されてるしっ!

 僕もさすがに、これはヤバいんじゃないかと驚いて振り返った。


「ドイヒーさんそれはっ」

「威力の調整は問題なしですわ、まあ見ていなさいなセイジさん!」


 だけどその時見たドイヒーさんは、何の心配もいらないという風に確信の表情を覆さず、そうしてビームは毛むくじゃらの世紀末ボスに吸い込まれていった。

 ドカンと衝撃の風圧がその瞬間に発生するけど、爆発そのものはしない。

 あわてて、呆然と見守っていたみんなも魔法攻撃や弓による射撃を遅れて実施する。

 世紀末ボスの毛むくじゃらがよほどタフだからなのか、それらの攻撃を一身に受けたにもかかわらず、まき散らされる光線の中で動いているのが分かった。


「ウフッフー!!!!!! ぐほっ」


 違う、そうじゃない。


 他のみんなが射撃した魔法や弓攻撃は、光線や煙が消え去ってみると世紀末ボスの毛むくじゃらは耐えきっていたことが分かったんだけれど、ドイヒーさんの発射したそれだけは違っていた。


「ひんっ。み、見てください! お股に魔法の槍が刺さっていますッ」


 そう。正鵠に射貫かれた紅蓮の魔法槍は、男性にとって致命的な急所である股間をえぐる様にして打痛させ、いまだメラメラと炎の穂先をくらせていたのである。

 あれは絶対に痛い確信!

 僕だけでなく、心の中でその場にいた男のひとたち全員がたまらず股間を抑えそうになったのは間違いない。


「おーっほっほっほっほ! シャブリナさん、トドメはよろしくお願い致しますわッ」

「任されろドイヒー。我がおちんぎんソードが、毛むくじゃらの首を一刀両断してやる!!」


 ドイヒーさんの高らかな笑いがボス部屋に響き渡る中。

 すかさず飛び出してきたシャブリナさんが、見事な剣運びで頭上に山を切り、そのまま勢いと体重の乗った一撃で、前の目ににつんのめった毛むくじゃらの首を斬り飛ばした。


「あっはっは、これがおちんぎんソードの威力だ!」

「おーっほっほっほっほ、むしろわたくしの紅蓮の魔法攻撃のおかげですわね?!」

「何を言うか、ところ構わず危険な大爆発魔法を使った癖によく言うな貴様は……」

「ちゃんと今回は威力の盛業をしてみせたではありませんこと?!」


 あっけなく世紀末ボスが絶命したところを、僕らは目撃したのだけれども。

 まだ毛むくじゃらのいた小部屋の安全確認は終わっていない。


「お、おーい! 中はどうなってるんだ」

「そのう。こちらは一応ボスと思われる敵にトドメを刺しましたっ」


 まだ部屋の中に残された罠があるかも知れない。その事を僕が指摘しながら、外に待機していた仲間たちを招き入れて、最後の総仕上げに取りかかった。


「シャブリナさんもドイヒーさんも、いつまで喧嘩しているのさっ。さあ、教官たちに報告するためにもひと頑張りしようよっ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ