114 チーム再編ですわ!
「まったく、大山鳴動して鼠一匹とはこのことですわッ」
盛大に呆れた顔をして愚痴を零したのは、ギルマス役のドイヒーさんだ。
バジリスクのあかちゃん五匹を連れてベースキャンプまで戻ってみれば、洞窟ダンジョンで悪戦苦闘していたみんなやがゾロゾロと集まってきて大騒ぎになったのだ。
小熊みたいな五匹を遠巻きにして、訓練生たちが口々に何事かを言い合っている。
「ほ、本当に見たまんま肥えたエリマキトカゲだな」
「成長したらトカゲの王様になるんだろ、ロープで連れ回してなんかして大丈夫なのか……?!」
「まだあかちゃんだから問題ないだろ」
最初のうちは、ようじょの指示を聞いて大人しくしていたあかちゃんたちだ。
けれど少しすると飽きてきたのか、後ろ足でエリマキの裏をボリボリやったり、勝手にベースキャンプの中をウロウロしようとしている子もいるし、五匹もいれば言うことを聞かせるのは大変だね。
しまいには騒ぎを聞きつけた教官たちも姿を現して、僕らに視線を送って来る。
チラリとそれを見上げれば、満足そうにゴリラ教官とミノタウルス教官がニッコリと互いに頷きあった後、笑い返してくるじゃないか。
ぼ、僕らは正解にちゃんと近づいているのかなっ……?
「そこのようじょ! 一体これがどういうことなのか、キッチリと説明してくださりますわね?!」
「この者の話によれば、滝の裏にある洞窟の他にも複数の入口が存在しているとのことだ。あかちゃんの卵はその内のひとつを辿った先で発見したそうだ。間違いないな?」
恐ろしい剣幕のドイヒーさんに観念したようじょは、大人しく説明をはじめた。
「……はい、そうです。卵はドーム状の大きなフロアになっている場所で発見したのじゃ。肥えたエリマキトカゲの卵は、そこで魔法陣のちからに守られていたのじゃ」
「あのう。魔法陣の力、ですか?」
「なのじゃ。このトカゲの母親がそうしたのか、むかしの偉い魔法使いがそうしたのか知らぬが、余が肥えたエリマキトカゲの卵を発見したときには、魔法陣の中に五つ収まっていたのじゃ」
その卵をようじょが魔法陣からひとつ取り出したところ、肥えたエリマキトカゲのあかちゃんが孵ったというのだから不思議なこともあるもんだ。
こうしてみると可哀想なのはようじょブリーダーのローリガンシャルロッテちゃんだった。
「さて、貴様が飼育していたバジリスクの子供だが。これは証拠物として押収し、ブンボン冒険者団体連盟に提出することになる」
「見るも不細工なトカゲの姿だったから、きっと金持ちの好事家にペットとして売り飛ばせばボロ儲けできると思ったのじゃが……」
「残念ながらモンスターの飼育は国法によって禁止されている」
「そ、それで、余はどうなってしまうのですか……?」
せっかく飼育していた五匹のあかちゃんを取り上げられることになって、おずおずとシャブリナさんを上目遣いに見上げるのだけれど、
「通常であれば逮捕だな」
「た、タイホ?!」
「だが貴様がわたしたちの卒業検定に協力するというのであれば、司法取引として今回は眼をつぶる事にしよう」
「ほっ本当ですか?!」
途中で脱走を試みるあかちゃんの一匹をあわてて引き止めながら、ようじょは感謝の言葉を口にするのだった。
「ありがとうございます! ありがとうございます! この天才ようじょブリーダーが何でも協力しますので、どうか許してください!」
そんなようじょの言葉を受け取って、僕はドイヒーさんたちに振り返る。
「卒業検定の課題は、肥えたエリマキトカゲの正体を突き止めて、付近にあるダンジョンの調査を完了することだよね」
「うむ。ようじょによって肥えたエリマキトカゲは確保することができたが、まだダンジョンの調査は完了していない。それに村で多発している家畜被害については、まだ謎が残されたままだからな」
「そちらのようじょの案内で洞窟の他の出入口から内部を徹底的に調べて、その魔法陣のあった場所を確認しませんと」
「洞窟内部をしらみ潰しに探したら、家畜を襲っているモンスターの正体もわかるかもしれないのっ」
「ではその様にいたしませんと。チーム再編ですわ。よろしいですわね、みなさん?」
納得の表情を浮かべたドイヒーさんがチラリと教官たちの表情を伺い見た後、野次馬に集まっていた訓練生のみんなを見回して叫んだんだ。
「「「冒険者は最高だぜ!!!」」」
元気良くそんな返事が飛んでくると、早速にも行動開始だ。
ダンジョン内で捜査中の班にも連絡を飛ばしたり、滝の反対側の山を調査すべくチームを再編したり。
みんなこの卒業検定が無事に終わることを予見して、にわかに活気づいた。




