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110 ひらけポンチッチ!

「いかにもわたしは、ブンボン騎士団に所属しているシャブリナだ。と同時に……」


 咳払いをひとつ零したシャブリナさんが、おもむろに胸元へと手を突っ込んだ。

 すると、対面に座していたおじいさん村長がビックリした顔でその行動に注目する。


「冒険者訓練学校の生徒でもあってな。こちらはその同級生である賢者の卵、セイジだ」

「ど、どうもはじめまして。セイジです」


 応接室のテーブルに広げられたのはふたつの書類だった。

 ひとつは訓練学校の野外活動証明書と、それにブンボン冒険者団体連盟の発行したダンジョン探索の占有権認可書類だ。

 広げてみせるのを手伝ったけれど、シャブリナさんの肌で暖められたそれは温もりが残っていた。ゴクリ……


「訓練学校の騎士さまに、賢者さま」

「実は今回、訓練学校の卒業検定のためにスジー村に立ち寄ったのだ。この界隈を棲家としているバジリスクを探索しているところなのだが」

「バジ……何ですかのう?」

「ああ。確か巷ではトカゲの王様とか肥えたエリマキトカゲなどと言われていたんだったかな。両腕で輪っかを作った様な大きな足跡に、聞く者を身震いさせてしまう様な恐ろしい咆哮を奏でる、そんなモンスターだ」

「おお肥えたエリマキトカゲ! なるほど騎士さまと賢者さまは、そういったご用向きでわが村に起こしだったのじゃのぅ」


 この村にやって来た経緯をシャブリナさんが説明しはじめると、おじいさん村長は身を乗り出して話に食いついてきた。

 今の段階じゃこれが演技なのかどうか僕には判別できなかったけれど、少なくとも合点がみたいだね。


「バジリスクの情報を村人ひとりひとりに訪ねて聞いていては埒が明かないと思ってな。それで村長どのに相談するのが一番だと判断したわけだ」

「わしのところには確かに肥えたエリマキトカゲの情報が集まっておりますじゃ。夜になると不気味な咆哮が度々聞こえて来るわ、村外れの農地や牧草地でも足跡が見つかったり。村の者どもが恐怖しているのは確かですのう」

「例えばバジリスクそのものの姿を見た者はいるのか、あるいはどの方角から雄叫びが聞こえたのか。具体的に聞き取った情報はあるかな。ん?」

「……はて。それについてはどうじゃったか。しばしお待ち下され、今調べてまいります故」


 おじいさん村長は思案気な顔をしばらくした後に立ち上がる。

 いそいそと向かった先は応接室から続く隣の部屋だ。きっとそこに村長さんの執務部屋があるんだろうね。

 すると僕の隣で腕組みしたシャブリナさんが、身を寄せて小声で言うんだ。


「セイジはどう思う。村人からバジリスクの情報が寄せられているのは事実だろうが、その割にあのじいさんの表情から焦りが見えなかったぞ」

「確かに、スジー村で甚大な被害が出ているという感じではなかったよね」

「恐らく教官たちが、スジー村から寄せられた被害の情報を盛ってわたしたちに説明したというのが真相だろう。本当にバジリスクが村で大暴れをしているのなら、わたしたちの様な素人に毛の生えた訓練生ではなく有名ギルドの出番だからな」

「僕らじゃ荷が重いよね……」


 おじいさん村長の消えた扉を凝視しながら、耳元に囁きかけるシャブリナさんだ。

 すると、いかにも重たそうな両の胸が肩に押し付けられる格好になって、僕はあわてて意識しない様にした。


「セイジ、学校から持参したバジリスクのポンチ絵はあるか」

「ぽ、ポンチ? ああ想像図の事だねッ」

「実際に見たという人間に、このポンチ絵を見せて確かめる必要がある。ドイヒーが危惧する通り、肥えたエリマキトカゲの正体が、実は全然別者だったという可能性だってあるわけだからな」


 ベルトで腰後ろに吊ったフィールドバッグから四つ折りのイラスト図を取り出すと。

 シャブリナさんが僕の太ももに手を置いて身を乗り出した。

 まったく。意図しているのかいないのか。

 ふたたび必要以上に密着するものだから、広げたそれを覗き込むシャブリナさんのせいでポンチ絵の下が大変な事に……


「くっくっく、ひらけポンチッチ♡」

「いきなり何言いだすのシャブリナさんっ?!」


 ポンチ絵をめくろうとしたシャブリナさんを制して、あわてて僕がお股を抑えているところにギィバタンと扉が開いたから大変だ。

 急ぎ居住まいを正したところで、おじいさん村長が「あったあった」と独り言を零しながら着席した。


「騎士さま賢者さま、これをご覧くださいですじゃ」

「ふむ、村の地図か」

「それとこれは何ですか?」

「職業柄わしは村長日誌を欠かさず付けているのですが、ちょうどひと月程前の記録に残っておりましたぞ!」


 村長さんの日誌によれば、肥えたエリマキトカゲの咆哮が聞こえたのは村の西側にある牧草地近くの森らしいね。

 同じく目撃情報が集中しているのも、襲われた家畜の遺体が発見されたものその方向だから間違いない。

 地図で現場を確認してみれば、その森と滝のある泉の洞窟は近いか遠いかで言えば微妙なところだった。


「村長どの。村人が目撃したという肥えたエリマキトカゲとこのポンチ絵は同一のもかわかるか?」

「はて。わしが直接見たわけではありませんので断定はできませんが……確かに日誌に記録を残しているトカゲの特徴と一致しておりますのう」


 日誌とポンチ絵を交互に見比べながら、おじいさん村長はウンウン唸っていた。


「では実際に見た事がある者に確認してもらうのが早そうだな」

「うん。後は目撃情報の周辺や、洞窟のある丘の辺りも案内してもらえると嬉しいよね」

「そういう事だが、案内役を誰かお願いできるだろうか村長どの?」

「でしたら、わしの孫に案内させましょう。羊飼いをしているので、村の隅々まで野歩きをしながら普段から見て回っておりますのじゃ」

「ふむ。ではその者に案内をお願いするとしよう」


 お孫さんかぁ。

 なんて事を思っていると、ホイ村長が僕を見ながらニコニコ顔を浮かべるじゃないか。


「孫はちょうど賢者さまと年頃も同じなので、仲良くしてやってくださいですじゃ」


 見た目は子供っぽいけど、僕はこれでも大人です!

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