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11 パンツ履いてないからお漏らしじゃないもんっ!

 冒険者訓練学校の朝はとても早いんだ。

 太陽が水平線から顔を出す時刻になると、ブンボンの街に朝を告げる教会堂の鐘の音が響く。

 すると、訓練生たちは鐘の音が聞こえると同時に寝台から飛び起きるのだ。

 まもなく早朝の点呼がはじまる。


「おはよう新米訓練生諸君、やっぱり冒険者は最高だな! 何をしているお前たち、いつまで布団にしがみついているんだっ」


 寄宿舎の廊下を反響する怒号が響いて、僕も朝一番から飛び起きた。

 ゴリラ教官がひとつひとつの部屋に顔を突っ込んで、まだ寝ぼけている訓練生たちをどやしつけているのだ。

 あわてて毛布を跳ね飛ばして、服を脱ぎ散らかしながら着替える。

 それぞれの寝間着は、部屋にひとつある洗濯籠に放り込んでからみんなで廊下に整列だ。


「シャブリナさんはさすが騎士見習いだけあって、慣れているのですわね……」

「当然だ。わたしは毎日、誰よりも早起きして身だしなみを整える事にしている。年頃の女性として当然のエチケットだし、ブンボン騎士団に入営して習慣化したのだ」

「……すごいですわね。わたくしはパン屋で朝の仕込みをしていた時も、毎日がとても辛かったのですわ。魔力切れを起こすと朝までグッスリ。ああン、あの頃の生活には戻りたくないものですわぁ」


 寝ぼけ顔のドイヒーさんが、廊下で隣に整列したシャブリナさんに声をかけていた。

 確かにパン屋さんって陽も昇らないうちから仕込みとかがありそうで、大変だと思う。

 そっかあ、魔力切れを起こすと眠りが深くなるんだね。


「そうだな、貴様は死んだ様な顔をして寝ていた。魔法使いも大変なものだ」

「ちょあなた、わたくしの寝顔をご覧になられたのですか?! そういう趣味の悪い事はお止めになってくださらないかしらっ!」

「酷い顔をしていたぞ。気持ちよさそうに口をだらしなく開けて、よだれなども垂れていたからな。ちょっと世の殿方に見られたら幻滅される事だろう。アッハッハ!」


 何が面白いのだろうか、シャブリナさんは嬉しそうに白い歯を見せた。

 廊下の先ではゴリラ教官が寝坊した新米訓練生をどやしつけているのが見えているのに、シャブリナさんはたいした余裕だ。


「そこを行くとセイジはな、とてもきゃわいらしい顔をしているからたまらない。布団がはだけて放り出された足は最高だ。すね毛なんてものはまるで無く、スリスリしたらスベスベだった」

「あなた何を言っていますの?!」

「寝顔もまるで天使のそれだ。きっとセイジは前世、天使きゅんだったに違いないぞ。幸せそうに寝ている頬っぺたをぷにぷにしたら、こっちまで幸せになる!」

「ちょちょちょっと、シャブリナさん僕が寝ている間にそんな事をしていたの?! やめてよね!」


 聞いていれば、どうやら寝顔観察は僕までやられていたらしい!

 僕の抗議の言葉はアッサリと無視されて、ズイと顔を近づけてきたシャブリナさんがニヤリとした。

 かっ顔が近いよ。僕のお口臭くないかな……ドキドキ。


「それからセイジ、溜まっているんだな。おちんぎんが貯まったら、おちんぎんを放出するというわけか」

「うるさいよっ!」


 たまらず僕は声を荒げてしまった。

 そこに僕たちの前までゴリラ教官がやって来て、胡乱な視線で部屋のメンバーを睥睨する。


「おはよう新米訓練生諸君。今日も冒険者は最高だな?」

「「「おはようございます教官どの! やっぱり冒険者は最高だぜ!!!」」」


 教官の言葉に復唱して、僕たちはぴいちくぱあちく雛鳥の様に合唱した。

 でも声を発したのは三人だ。

 僕とシャブリナさんとドイヒーさん。

 あれ? ティクンちゃんの声が聞こえないや。

 振り返ってみると、


「ビクンっ」

「……どうしたティクン訓練生、声が聞こえなかったようだがっ?」

「ひいっ、だめぇわたしに触らないで。せっかく今朝はお漏らししなくて済んだのに、あっ……」


 とたんにティクンちゃんはビクンビクンと体を揺らす。

 彼女のお股の泉から、美少女聖水が湧き出す瞬間を僕は目撃してしまった。


「……見ないで、セイジくんわたしを見ないでえっ!!」


 残念ながら手遅れだったみたいだ。

 ジョビジョバしたティクンちゃんは、頬を赤らめイヤイヤをしながら両手で顔を覆った。

 僕があわてて視線を外したけれど、バツの悪い顔をしていたのはゴリラ教官もだったらしい。

 助けてくれという視線を僕に送ってくるけど、僕だって教官と同性だからどうしていいかわからないよ!


「意見具申ッ! 教官どの、ティクンがビクンとしたので解散許可を願いますっ」

「ゆ、許す。急いでトイレに案内しろ、廊下の掃除もお前たちでやってくれていいからなっ」

「了解であります。それと、明日はもっと優しくタッチしてあげてください」


 機転を利かせたシャブリナさんの言葉でその場は解散になった。

 ゴリラ教官も逃げる様にその場から立ち去って次の部屋の点呼に向かったけれど、声は明らかに小さくなっていた。

 最高だぜのフレーズも、心なしか最高じゃなさそうだ。

 ドイヒーさんに慰められながらティクンちゃんは自室に戻り、残された僕とシャブリナさんが廊下にできた黄金の泉をお掃除しなくちゃいけない。


「ルームメイトだからと言って、今は入ってはいけませんわよっ。特にセイジさんは男の子ですからね?」

「わかってるよっ」


 ようじょのお着替えなんかおじさんは覗かないよ!

 そんな事をしたらお巡りさんに通報されてしまいますっ、って頭の中で何かが……。

 僕は記憶喪失なので、何を言っているのか僕自身もよくわからなかった。


 新米訓練生たちの部屋割りでは、男も女もごった煮で共同生活をしている。

 だから着替えの時なんかはわりと平気でみんな脱ぎだすんだけれど、お漏らしの時はまた別の感情があるみたいだね。


「ごめんね、こっちは僕たちで片付けておくから。ティクンちゃんはゆっくり着替えておいで」

「……もん」


 するとティクンちゃんは、パッツンの前髪でうかがい知れない表情のまま何かをボソリと口にした。

 僕たちは顔を見合わせた。


「ん?」

「…………もんっ」

「ティクン。貴様、今何と言ったんだ」


 誰にもよく聞こえなかったらしくて、シャブリナさんが不思議そうに聞き返したのだ。


「ぱ、パンツ履いてないからお漏らしじゃないもんっ! お着替えが間に合わなかったから、パンツ履いてないんですっ。だからお漏らしじゃないんだもんっ!!」


 ギリギリセーフを本人は主張した。

ギリギリセーフ!いやセウチ!!!

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