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108 奥に行くほどギュっと狭くなる穴です!

 まだ僕たちは洞窟ダンジョンの全容を把握できていなかった。

 だけど、少しずつではあるけどわかってきた事もあった。

 それは、はじめひとつしか存在していないと思っていた洞窟の出入り口が、どうやら他の場所にも存在しているのではないかという事。


「蝋燭の炎が風で横に揺れている。という事は、内部のどこか別の場所から空気が流れ込んでいるという意味になるぞ」


 はじめその事に気が付いたのはシャブリナさんだった。

 風に揺らめく燭台の先端を眺めていた時、不意にそんな言葉を口にしたわけだ。


「……空気の流れが存在しているという事は、わたくしたちが踏み込んだ滝壺の裏側以外にも、どこか別の出入り口があるという事ですわよね?」

「うん。ひとが出入りできる大きさかどうかまではわからないけれど、そうなるね」

「当初わたしたちが想定していたよりも、このダンジョンの構造は複雑なのかも知れないな」

「コクコク。この風は洞窟のずっと奥の方から流れてきていますッ」


 滝壺のある入口付近こそ一本道だと思っていたこの洞窟は、奥に進むにつれていくつも細道の分岐があった。

 ビッツくんたちが発見した枝道には白骨人形が、別の班が発見したそこにはサラマンダーの巣が。それにコウモリ型のモンスターとか、例のミルクワームの集団とかもいたし。

 自然洞窟系の迷宮だから罠こそ無いけれど、だからと言って油断できるものじゃない。


「それに洞窟の入口付近に比べて、奥に行けば行くほど穴がギュっと狭くなっているんだぜ。この先の道は、戦闘すらままならねぇ場所って、俺たちは思うわけだギルマスさんよ……」


 この事に気が付いて報告してくれたのはビッツくんたちの班だった。


「洞窟の奥が狭くなっていると、モンスターが出入りするのが大変なんじゃねえか? そう考えると、本当にこの奥にトカゲの王様が潜んでいるのか疑わしくなってくるんだがよ」

「ふむ。貴様たちはどう思う? それらしき痕跡というか、足跡も尻尾を引きずった跡も、今のところ見つかっていないんだろ?」


 そんな報告を聞いて、難しい顔で大きなお胸を抱き寄せたシャブリナさんだった。

 場所は前進キャンプを設営した、小さな広場みたいな場所だ。

 けれどその前後の道は僕たち武装した冒険者がすれ違うのもやっとという狭さなんだ。


「本当にバジリスクがこの洞窟を根城にしているのか、前提条件から疑わしいという事ですのね」

「あるいは洞窟の奥に別の出入り口があって、肥えたエリマキトカゲはそこから出入りしているという可能性もある……」

「コクコク。別の出入口はガバガバの可能性があるのっ」


 そもそも僕たちは、初日の夜にバジリスクの咆哮らしきものを耳にして以後、あれからまったく聞いていないどころか、姿かたちも影すらも見つけていないからね……


「デブリシャスの報告では、確か大人の両腕で作った輪っかほども大きな足跡だったと報告していたな?」

「そうだぜ。俺の腹回りとほとんど同じぐらいデカかった」

「やはりそれだと、この先の洞窟が狭くなった場所を行き来するのは難しいですわね」


 シャブリナさんの質問にデブリシャスさんが答え、ドイヒーさんも言い添える。


 もしかして。

 僕らはどこかで次善の情報を取り違えていたなんて事はないだろうか。

 そもそもバジリスクなんてこのスジー村には存在していないんじゃないの?

 疑い始めれば、猜疑に歪んだ思考で何もかもが怪しく感じる。暗礁に乗り上げてしまった気持で僕ら訓練生たちは頭を抱えちゃったんだ。


「お、お待ちくださいましな。確かに大きな足跡が見つかっているのだから、バジリスクはいるはずですわ!」

「問題はどうやって洞窟を行き来しているかだぞッ」

「その場合は、わたくしたちが図鑑で想像していたバジリスクの姿と、現実のそれが乖離していたという事でしょうか。ぐぬぬっ」

「そのう。栄養不足でやせてしまったから、細い洞窟の道でも出入りが可能なのかもですッ」


 僕らは顔を突き合わせてそれぞれ意見を口にした。

 もしかしたら、ティクンちゃんの言う様な可能性もあるかも知れないけれど、バジリスクに遭遇していない以上結論が出ないんだ。


「いやしかし、図鑑も役に立たないとなれば何を信じればいいのだ!」

「と、とにかくですわ。足跡が発見され咆哮を耳にしたのは間違いないのですから、この洞窟に別の出入り口があるのかを調べませんとっ」

「だったら、ダンジョン内部の探索と並行して、もう一度スジー村で聞き取りと洞窟周辺調査をした方がいいと思うよ」

「フンフンっ」


 まだ今なら与えられた卒業検定の時間に余裕がある。

 だから、できる手立てを打っておいた方がいいという話にまとまった。

 するとみんなの同意が得られたところで、ズイとシャブリナさんが身を乗り出すんだ。


「しょ、しょの役割はぜひセイジにやってもらおう!」

「何ですの唐突に?」

「調べものをするのであれば、賢者である貴様の得意分野だ。そうだろうセイジ?」

「コクコク。適材適所なのですッ」


 確かに僕は賢者の卵だなんて言われているけど……

 調べものが特別得意というわけじゃないし、今はただの荷物持ちだよ?」


「ドイヒー、貴様はギルマス役としてベースキャンプと前進キャンプを行き来しなければならん。ティクン、貴様もそれは同じだろう。何かあった時に駆け付けられる様にしておかなくてはならない。し、しかしだにゃ、セイジひとりで聞き取りや洞窟の周辺調査を任せるのは心配だじょ」


 何かよからぬ事を考えているのだろうか。

 咬み咬みになりながらも鼻息荒くわざとらしい思考を巡らせたシャブリナさんが、僕に迫った。

 か、顔が近いって!


「そこで、このわたしの出番だ。スジー村で聞き取りをしたり、洞窟の周辺を調べる際はこのわたしが騎士の誓いに賭けて守ると宣言しておこうッ」


 ニッコリ笑ったシャブリナさんとは対照的に、ドイヒーさんやティクンちゃん、それにビッツくんはとても嫌そうな顔をしている。

 デブリシャスさんたち残りの三班のみんなは、何故か僕らを見てニヤついている。


「や、やましい事はにゃにもないじょ! そうこれはあくまで任務だからなっ」


 こうして先行きが不透明になりつつあったダンジョンアタックの打開策を探すべく、僕とシャブリナさんのふたりで洞窟の外に出かける事になったんだ。

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