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101 まったくダンジョンは最高だぜ!(やけくそ)

 僕の背丈よりもずいぶんと高い草原を抜ける最中、どこからか水面を叩く激しい音が聞こえてくる。

 きっとこの先に滝があるんだという事を僕らに教えてくれるんだ。

 少しずつ滝の音が近づいてくると同時に、僕たちの緊張感は高まっていった。


「スジーの村にむかしから住んでるばあさんに聞いたんだけどよ。泉の洞窟は見た目よりもずっと深く長く、道が続いているんだってよ。そんでもって洞窟の奥まで水が流れているって話だ。冷たい風が洞窟の中から漂ってくるし、見るからに気味が悪い場所だったぜ……」


 先導役をするビッツくんが身震いをしながら、僕らに振り返って見せた。

 それを聞いて、背負子を軽々と背負っていたシャブリナさんが憤慨してみせる。


「肥えたエリマキトカゲはその洞窟をねぐらにして、時たま外まで出てくるのか。まったく迷惑なモンスターもいたものだ」

「モンスターは迷惑な存在だからこそモンスターと呼ばれるんですのよ。迷惑でないモンスターがいるのなら、是非ともこの眼で見てみたいものですわ」

「まったくだ。その様なけしからんモンスターは、おちんぎんソードの錆にしてくれるッ」


 ドイヒーさんも眉間にしわを寄せながら同意していたけれど、僕の後を付いてくるティクンちゃんだけはビクンビクンと体を震わせていた。

 そんなティクンちゃんが、おずおずと前を歩くシャブリナさんに質問するんだ。


「……そのう。ダンジョンと言うからには、バジリスクの他にもモンスターがいるんですよねッ?」

「ビッツの話だと、どこにでもいるスライムの類の他は、燃える様に体の熱いイモリの親戚が住んでいるのだったな。名前は確か……」

「サラマンダーだよシャブリナさん。興奮状態になると炎の魔法を身に纏って、おかしな場所に触れると毒がまわるっていう」

「それだ! サラだかマンダだか知らんが、物理攻撃が通じるのであればわたしが貴様の事は守ってやるからな。アッハッハ」


 ダンジョンには恐ろしいモンスターが付き物だけれど、スライムは本当にどこにでもいる存在だ。

 けれど、サラマンダーについては僕らも初見で、モンスター図鑑で挿絵を見た限りは大きな赤い山椒魚といった印象だった。

 サイズは猫ぐらい。暗がりの水辺に単独で縄張りを作って生活し、外敵が来ると威嚇してくるそうだ。


「他にも泉の洞窟には、まだ知らないモンスターがいる可能性があるかも知れないね」

「コクコク。でも、天然のダンジョンだったら隠し部屋みたいなものはないから安心なのっ」


 僕らもちょっぴり油断をしていたのかも知れない。

 実習訓練で廃坑ダンジョンとクルマの塔を経験したし、僕らの班はアルバイトで遺跡の地下迷宮にも足を踏み入れたことがある。

 いくら卒業検定だからと言っても、訓練生だけでアタックする演習先のダンジョンが難関だなんて想像もできないからね。

 


「おおっ、これが泉の洞窟ダンジョンか!」

「崖の上から落ちている滝の裏側に洞窟が存在しているんだね。入口はけっこう広いけれど、横長なんだ?」

「みなさん、荷物をいったんここにまとめて、本部テントを設営しますわよ!」

「「「了解だぜドイヒー!」」」


 切り立った崖の上から滝つぼめがけて水が激しく打ち付けている。

 その向こう側の洞窟は薄暗くて、中はうかがい知れないけれども大きくポッカリと広がっていた。

 まるで僕らを誘い込む様なその洞窟の入口に、しばし僕は意識を囚われていた。


「どうしたセイジ、いつまで背負子を背負っているんだ」

「あ、うん。ちょっとボンヤリしてたんだ。急いでテント設営の指示を出すねっ」


 ふと意識が吸い込まれる様な洞窟の入口を眺めていたところで、シャブリナさんに声をかけられた。

 今日のうちにベースキャンプの設営を終えて、洞窟の入口付近を調査する事になっている。

 グズグズしていると陽が暮れてしまうからね!

 僕はあわてて荷物を降ろすと、後続からテント設営道具を持ってこちらに向かってくるみんなに声をかけた。


 こうして数刻をかけてベースキャンプの本部設営が終了したところで、みんなで自分たちの寝床準備と身の回りの冒険者道具をチェックしはじめる。

 各班のリーダーが集まって砂時計のスタートを合わせた後は、これから三班からローテーションでダンジョン探索がはじまるからね。


「スライム駆除用の粉末が入った小袋は、ひとりふたつまで」

「フンフン、あります!」

「よし!」

「皮袋の水筒と携帯食料が二日分」

「コクコク、あります!」

「よし!」

「ランタンは予備も含めて二個だね」

「ご安心くださいましな。わたくしの忠実な使い魔てぃんくるぽんが、いつでも七色に輝いておりますので、ランタンは予備を置いて行っても大丈夫ですのよ!」

「フムフム、じゃあ置いてきますっ」


 したり顔をしたドイヒーさんだけれども、ジト眼をしたシャブリナさんが不満を口にする。

 するといつもみたいにふたりの論争がはじまるんだ。


「ちょっとばかり眩しいぐらいで、役に立つなどと言われてはかなわんな」

「てぃんくるぽんに落ち度がありまして?」

「うわぁ! 眩しいからわたしの顔に近づけるな、ナメクジ光線で眼が潰れるッ」

「失礼ですわね、スライムドラゴンですのよ?!」

「そんなドラゴンはいない!」


 僕らは先行する班の後を追って洞窟の中に向かう予定だったけれど。

 やっぱり油断だったんだね。

 どれだけダンジョンの事に眼を向けていても、天候にまでは気が回っていなかった。

 空はあんなに青かったはずなのに、


「おい、夕立ちが降り出したぞ?!」

「やべえぞ、食材と医療品の箱に急いでシートをかけるんだ!」

「防水シートがないぞ、どこにあるんだ?!」


 夕方になって突如として降り出した土砂降りの雨は、あっという間に僕らをビシャビシャにした。

 どうにかこうにか、濡れるとまずい食材と医療品の入った箱だけは防水シートで保護する事ができたけれども。

 僕もみんなも、まだ山積みにされたままだった寝袋と毛布は水浸しになってしまったんだ……


「まあ何だ、お前たちも風呂に入る手間が省けたと思えば救いがあるだろう。だが代わりに寝袋も水浸しになったな。くっくっく」

「これからは天気の具合にも気を付けた方がいいぞ。ダンジョンに入る前に、装備を乾かすところからはじめた方がよさそうだな。どうだ、最高だろう。ん?」


 これまで僕らのやる事には一切口を挟まなかった、ゴリラ教官とミノタウロス教官だけれど。

 それがいかにも嬉しそうに、意地の悪い顔をして口々にそんな事を言ったんだ。

 だから僕らもやけっぱちになって、いつもの決め台詞を叫んだ。


「「「まったくダンジョンは最高だぜ!!!」」」


 ダンジョンに入る前からまったく気分は最低だよっ。

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