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01 僕、冒険者になります!

挿絵(By みてみん)







「ダンジョンはいいぞ!」


 そんな強引な言葉で僕を冒険者の道へと引きずり込んだひとがいる。

 名前はシャブリナさんという女騎士見習いだった。


「冒険者はすばらしいぞっ。血沸き肉躍る迷宮(ダンジョン)を攻略して、名誉名声と富を手に入れるんだ!」

「名誉名声はどうでもいいけど、お賃金は欲しいよね」

「!! そうだおちんぎんだ! 何と言っても冒険者になるためには冒険者の訓練学校に入学するのが近道だ。学校は無料で入れるし、練習でダンジョンに入ればおちんぎんも貰えるんだぞ!」

「お、お賃金はいいよね」

「そうだ、おちんぎん。おちんぎんは最高だぞ!」


 シャブリナさんは興奮気味に僕を説得するのだ。


 長い艶やかな青みがかった黒髪をおでこのところで揃えている、燃える様な情熱的な紅の眼が特徴的な少女だった。

 年齢は十七歳だか十八歳だか、主に一部が育ち盛りのお年頃だ。

 長身で爆乳で剣術を鍛えていた彼女が、僕にそんな事を言って押し迫って来たのだ。


「なあセイジ。貴様だって、いつまでもホームレスで施設のお世話になっているのでは体面が悪かろう」

「ホームレスとか大きな声で言わないでよ! ひとに聞かれるだろっ」

「黙れ無銭飲食者め」

「そりゃそうだけど……」

「だから。だからな? わたしとセイジで、ダンジョンを攻略しようではないか!」


 どういうわけか記憶喪失だった僕は、片田舎にあるブンボンという街で路頭に迷っていた。

 ここがどこで僕がだれで、そうしてこんな場所にいるのかもわからずにいたところを、ホームレスの保護施設で騎士団の奉仕活動をしていた彼女と出会ったんだ。

 何故か僕に対していつも親切な騎士見習いのシャブリナさんである。


 ホームレスが保護施設で領主さまの施しを受けられる期間は二か月だ。

 いつまでも記憶喪失だからと言って甘えが許されるわけではないので、まだ施設に残っていられる期間があるうちにお賃金をもらえる職にありつかなきゃいけない。

 

 だからシャブリナさんに勧められるままに、僕は冒険者を育成する訓練学校に入学することになった。

 訓練学校で学びながらお賃金を貰えるのは魅力的だよね。

 奨学金制度みたいなもんだろうか。

 あれ、奨学金制度って何だろう……?


「名前と年齢と出身地を書き込めばそれでいいぞ」

「いやそうじゃなくて、あのう」

「なに、記憶喪失だから出身地がわからない? だったらブンボンと記入しておけばいい。貴様はホームレスだから元から住所不定だしその欄は書かなくてもいいぞ。アッハッハ」


 馬鹿みたいに笑われて僕はカチンと来たけれど、言われるままに入学願書の麻紙に記入しようとする。

 ここでふと思い出した事があった。

 僕が何故か知っている文字と、この田舎街のみんなが使っている文字が違うのだ。

 いったい僕はどこからやってきたというのだ……


「何だセイジは読み書きもできないのか」

「ごめんシャブリナさん。どういうわけか、わからないんだ……」

「セイジと言えば古い言葉で賢者という意味だそうだが、とんだ名前負けではないか。よし、わたしが代わりに記入してやろう」

「……あ、ありがとう」

「そうだ、セイジひとりでは何かと不安だろう。わ、わたしもよかったら一緒に入学してやろうかな? 冒険者になってダンジョン攻略、一緒に頑張ろうな? な?」

「シャブリナさん何か顔が怖いんですけど……?」

「きっ気のせいだ!」


 親切なシャブリナさんが僕から羽ペンを受け取ると、スラスラと流麗な文字で代筆をしてくれる。

 脳みその発達をすべておっぱいに吸い取られた様なシャブリナさんだけれど、女騎士見習いだからそれなりの学があるのかも知れないと僕は思った。


「ところでセイジの年齢は何歳なんだ」

「ええと確か、記憶の片隅に三十歳の誕生日会をやった想いでがあるよ」

「……」

「おめでとう、これで名前通り君は賢者になった、とかなんとか。誰かに言われた記憶があるんだよなぁ……」

「……なん……だと?」


 僕が不思議な記憶の断片を思い返していると、シャブリナさんは入学願書に記入する羽根ペンを止めて、まるで信じられないものを見る様な顔をして驚いているじゃないか。

 ぼ、僕そんなにおかしな事を言ったかな?

 記憶喪失なんだから優しくしてくれてもいいんだよ……


「貴様、その顔その(なり)で三十路のいい齢こいた大人だったのか」

「失礼だな! たっ確かに僕はよく童顔だって言われるし華奢で背も低いけど、この前シャブリナさんの驕りで、不味いビールを一緒に飲みに行ったじゃないかっ」

「それとこれとは別の問題だ。この国では十歳を過ぎたら酒は飲める。しかしそうか、三十路なのか……」


 何故かシャブリナは「三十路のショタ、三十路のショタ」と怪しい顔で呪文を繰り返していた。

 いかにも怪しい顔をしている女騎士見習いさんに僕は不思議な気持ちになる。


「いったい僕の事を何歳だと思っていたの、シャブリナさんは?」

「……ん、てっきり、少なくともセイジは年下だと思っていたのだ。じゅ、十四歳?!」


 その倍は生きてるよ!

 記憶の断片が確かだったらねっ。


 僕の抗議の言葉もどこ吹く風で、シャブリナさんはとても怖い顔をしてこんな言葉を口にしたんだ。


「そうか。セイジは合法ショタおじさんだったか。だがわたしはそれもイケる口だ。クックック……」


 僕の名前はセイジ。

 背はあまり高くないけれど、三十路になったいい大人だ。

 出身地は記憶喪失なのでブンボンの街という事になっている。

 冒険者養成の訓練学校には、とりあえず体力には自信がないので控えめに支援職と志望クラスを書いておいた。

 

「冒険者の専門学校に入ったら、お賃金もらって自立できるといいなぁ……」

「おちんぎんがもらえれば、自立できるぞ! ハァハァ、なあセイジ。小首をかしげながら、おちんぎんって言ってみてくれるか……」

「お、おちんぎん……?」


「!!!!!!!!!!!」


 このとき僕は、脱ホームレスをして立派な冒険者になる事を夢見た。

 三〇過ぎて記憶喪失のホームレスじゃ未来が暗すぎる。

 お金が溜まったら、自分の過去の記憶を調べる旅に出るのもいいかなぁ。


 まさかそのときは迷宮暮らしがあんなに大変だなんて思ってもみなかったからね。

 力強く僕に冒険者になる事をオススメしてきたシャブリナさん。

 ニッコリ笑って僕を迷わせる魔法の言葉を口にした。


「おちんぎんはいいな!」


新作のはじめました、よろしくお願いします。

おちんぎんはいいな!

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