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夏の終わりに小さな旅を

作者: 黒の人

 空は青く。深く澄んでいて――。

 太陽が私の身体を熱くさせる。

 道端の向日葵はもうすでに茶色く首を傾げている。

 もう、夏も終わりなのだと、私は感じていた――。


「8月に入った頃には、夏なんて来なければいいのに、なんて思ってたのになぁ」

 太陽に熱されたアスファルトの上を私はただ、歩く。

 それだけのことなのに、なにが一体そんなに楽しいのだろうか。

 歩いて、歩いて、歩き続けて。

 私は一体、なにを楽しんでいるのだろうか。

 空を見上げれば広く、広くどこまでも続く青く澄んだ空。

 夏が終わろうとしている季節だというのに、まだ夏は終わらないとでも誰かが言っているかのように暑い。

 額から汗を流れてくる。私は持ってきていたタオルで汗を拭うと、近くにあった公園に入り、木陰のベンチに腰掛ける。


「ここ、どこだろう……」

 何も考えずに朝早く家を出て、何処へ行くかも決めないで、歩いていた。

 身軽に、最低限の荷物を持って。


「喉、乾いた……」

 ポケットから財布を取り出して、小銭を入れて、自動販売機で売られているスポーツドリンクのボタンを押す。

 ゴトン。という音をあげてペットボトルが落ちてくる。私はそれを取り出し、蓋を開けて口をつける。

 甘く、少ししょっぱさの混ざるそれは、今まで歩き通していた私の喉を潤してくれた。


 暫くして落ち着いた私は公園の中を見回す。

 良く見るとこの公園は寂れていて、子供の一人さえ、遊んでいない。

「昼間に誰も居ない公園だなんて、まるで別の世界に迷い込んだみたいに感じるわね……」


 折角だからと、私はブランコに腰をかける。ブランコに乗るだなんて、何年振りだろうか……。

 身体を動かすと、キィ……。と金属の擦れる音が鳴り、ブランコは前後に動き始める。

 ゆっくりと、前後に揺れていく。

 それはとても安らかで、まるで子供の頃とは違うけれど、それでも何か特別なものを感じた。


 私はブランコに揺られながら、ふと上を見上げる。

「わぁ、すごい……」

 遠くに、とても大きな入道雲が見えた。

 その存在が、まだ夏は終わっていないのだと叫んでいる様に見えた。

 吹く風は少し生ぬるくて、あぁ、全く。こんなにも夏が終わってほしくないと思うだなんて。

 私は一体、どうしてしまったのだろうと、思ってしまうのだ。


……夏の終わりが近づく頃、私は見知らぬ公園に行って、夏の終わりを楽しんだ。

 夏は終わるけど、また、秋が来て、冬が来て、春が来て、そしてまた夏がやってくる。

 そんな季節の巡りを、私は歩いて行く。

 そんな季節を感じるから、巡る季節を、素敵なものに変えていける。

 私は誰も居ない寂れた公園を後にしながら、日が落ちて、涼しげな風が吹くのを感じつつ、夏が終わるのを、感じるのだ。

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