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異世界で無双出来なかった高校生の日常

作者: 森野カエル

 俺は頭に軽い衝撃を受けて目が覚めた。

「おい、加藤! 授業中だぞ。寝るんじゃない。」

 俺は顔を上げる。

 いつも通りの教室が、俺の目に入った。

 黒板には英語が書かれている。

 今は英語の授業か。

 俺はメガネを中指でクイッと上げ、メガネのずれを直す。

 周りからは小さな笑い声が聞こえてきた。

「もう寝るなよ」

 そう言って、俺を叩いたであろう先生は、教室の前に戻っていった。

 授業が再開される。

 生徒たちは静かになり、代わりに先生の下手な発音の英語が教室に流れる。

 俺は起きたばかりのダルい身体をこっそり伸ばし、あくびを噛み殺した。

 教室の時計を見ると、もうすぐチャイムの鳴る時間だった。

 あとちょっとか。

 退屈な時間をしばし我慢し、俺はチャイムが鳴るのを待つ。

 俺の名前は加藤勇二。

 黒髪短髪の黒ぶちメガネ。

 自分で言うのもなんだが、どこにでもいそうな男子高校生だ。

 おっと、チャイムが鳴った。

 放課後だ。

 授業が終わり、部活に行くもの、家へ帰るものと各々動き出す。

 いつも通りの普通の光景。

 俺もその普通に混じり、家へ帰るため教室から出る。

 普通に靴を履き替え、普通に校門を出て、普通に下校する。

 そんな俺は、普通の高校生。




 ではなかった。

 帰り道、俺は暴走トラックに突っ込まれ、命を落とした。

 さて、ここでよくある展開なら神様が現れ、首尾よくチートを手に入れ、異世界に転生されるだろう。

 それが普通の高校生ってもんだ。

 ……異論は認める。

 まあ、それは置いとけ。

 で、だ。

 それが普通の高校生ってもんだが、俺は普通の高校生ではなかった。

 俺には生まれつき、特殊能力が備わっていた。

 異世界に行くまでもなく、すでにチート能力を所持していたのだ。

 しかも、どっかからここに神様転生して、チートを貰ったんじゃないかというレベルの。

 そんなわけで、トラックに引かれて死んだ俺は、教室にいた。


 全裸で。


 運良く教室には誰もいなかったが、俺は今、全裸で仁王立ちして、教室の窓から外を見ている。

 俺に備わっていた特殊能力。

 それは、死ぬと全ての持ち物をその場に残し、身体だけ最後に寝た場所へリスポーンするという能力だった。

 もちろんメガネもその場に残してくるので、今の俺はメガネをかけていない。

 ずっとメガネをかけている人間にとって、メガネがない状態というのは裸同然だと言われているが、俺はすでに真っ裸なので、それはつまり裸ON裸である。

 裸の上に裸なのである。

 これが異世界であるなら、そのリスポーン能力を生かし、無双することも可能だったかもしれない。

 そんな保留にされた世界があったかもしれない。

 しかし、ここは現代日本だ。

 もう一度言おう。

 ここは現代日本だ。

 現代日本において、真っ裸の男子高校生が外に出ようものなら、警察を呼ばれてしまう。

 そうなれば、人生は詰む。

 俺は露出狂の謗りを受け、白い目で見られ続けるのだ。

 神よ。

 なぜこんな能力なのだ。

 ちょっとサービスして、服ごとリスポーンでもいいではないか。

 それかちょっと異世界に転生しちゃって、無双おっ始めちゃって、女の子に惚れられまくってハーレム作っちゃって、仲間たちにさすがさすがと褒められまくっちゃって、敵にも一目置かれちゃったりして、現代知識で国一つ治めたりしちゃったりして。

 そして平和になったかと思いきや、まさかの強敵が現れたところで。

 俺たちの戦いはこれからだ!

 次回作にご期待ください!

 となるそんな人生があったりしちゃても良かったような気がしないでもないような。

 まあ、とにかく。


 教室に真っ裸で一人立ち、俺はポツリと呟いた。

「どうやって帰ろう」

 現実逃避はもうやめだ。

 そして、俺は気が付いた。

 廊下から女の子たちの声がしていることに。

 声はこちらに向かって来ている。

 クラスメイトの名前も聞こえてくる。

 オワタ。

 まさかの強敵が現れた。

 俺は強敵を倒すべく、旅に出ることを決めた。

 教室にかかる夕焼けが、決心した俺の心を鼓舞しているかのようだった。


 俺の戦いはこれからだ!

 次回の人生にご期待ください!




 END




 追記。

 このあと、掃除用具入れに隠れて事なきを得て、教室からジャージを見付けてノーパンで帰りました。


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