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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学二年生編 本編その1 止まった時計の針
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第97話 激突

 そうだ、この小屋。

 時間を巻き戻す前に謙輔達が見つかったという小屋だ。


「ここに二人が居るのか?」

「うん。そのはず……なんだけど……」


 小屋の周りはあまりにも静かだった。

 もしかして、二人とも犯人に縛られたりして声も出せない状態なんじゃ……。


「よし、いきなり入って脅かしてやろうか」

「待って。中は危険かもしれないから……」

「危険って? あいつらがいるだけだろ?」

「ん? あれ……って?」


 哲ちゃんの指さす方に、小屋へ向かってくる人影が一つ。


「かっちゃん! 良かった、無事だったんだね!」


 何で……宇月君が外にいるの? 

 犯人がやって来るのはもう少し先ってこと?


「石川……それに、日高さんと……河村さんの彼氏か……?」

「おい、色男。この小岩井様の名前を忘れるたぁいい度胸じゃねえか」


 小岩井のことはともかく、宇月君が無事なら謙輔も無事なんだろうか。

 ただ捕まってるだけだったら、早く連れ出さないと……。


「小岩井、小屋の中にいる謙輔を連れ出そう」

「ん? ああ、そうだな」

「何故そこに渡辺が居ると知っている」


 宇月君の太く通る声が辺りに響いた。

 謙輔がここに居ることを、彼は知っている……それって……。


「やはり、日高さん……君は俺にとって危険な存在だったようだな」

「かっちゃん? 何言って……えっ!?」


 次の瞬間、哲ちゃんの体がふわりと浮いたように回転し、宇月君に投げ飛ばされた。


「あぶねえッ!!」


 頭から地面に激突しそうなところを小岩井がキャッチし、何とか哲ちゃんは怪我をせずに済んだ。

 だけど、衝撃で動けなくなった二人をよそに、宇月君は無表情なままこちらへ歩いてくる。


「ここに居るという事は、どうやったかは知らんが……君も持っている(・・・・・)んだな」

「じゃあ、宇月君が謙輔を……?」


 わけがわからない……と言うのが本音だ。

 だって、私の知っている限り、宇月君は謙輔と一緒に死んでいたはず。

 だから……私はてっきり犯人が別にいて二人を殺したんだとばかり思っていた。

 だけど、今までの行動や言動を見て……どう考えても彼が犯人だとしか思えない。


「謙輔は無事なの?」

「……さあな。それにしても、流石は俺と同じ転生者と言ったところか。

 それ(・・)で今までも乗り切ってきたのか?」

「何で宇月君がそのことを……? まさか……」


 言おうと思った途端、宇月君が凄い速さで私の胸元まで飛び込んできた。


「そうだ……僕は……。

 俺は! お前と同じ過去転生者だ!!」

「グッ…………!?」


 首が……絞まっ……息ができない……っ!


「お前がどんな能力(ギフト)を持っていようが、こうしてしまえば関係無い。

 もう少しで俺の復讐は達成されるんだ……邪魔をするなッ!!」


 ……苦しい……このままじゃ……。

 やば……い……、目の前が……チカチカして…………


「かっちゃん……!! 何やってんだ! 目を覚ませ!!」

「雑魚が……! 邪魔しやがって!!」

「玲美ちゃん! 逃げて!」


 哲ちゃんの体当たりのお陰で、何とか宇月君の手から逃れることができた。

 危なかった……ちょっと死んだお爺ちゃんが綺麗な川の向こうで微笑んでるのが見えたよ。


「ゴホッ! ゴホッ! ……まだ喉に違和感ある……」

「日高、大丈夫か!?」

「なんとかね……」


 小岩井に支えられて何とか立てているけど、喉が苦しくて私はもう半泣きだった。

 でも、これでわかった。


 これからのことは……全部、宇月君がやったことだったんだ!


「玲美ちゃんを殺そうとするなんて……いくらかっちゃんでも許せないぞ!!」

「それはこっちの台詞だ。

 あと少しで全部終わっていたんだ……それを台無しにしやがってッ!!」

「うるせえ! お前こそ酷いことしやがって! ぜってー先生にチクってやるからな!!」


 もう、チクってどうにかなるレベルを超えている気がするんだけど。


「本当は、全部俺とあいつだけのことで終わらせるつもりだったんだが……貴様らが悪いんだ。

 殺す事になってしまうが、悪く思うなよ……」


 そう言うと、宇月君のさっきまでの激昂していた雰囲気がガラッと変わった。

 再び落ち着きを取り戻し、まるでスローモーションのようにその手を頭上へと掲げる。


「【時よ止まれ──────】」


 ……えっ?

 ……………………あれ?



「……………………止まって……ないよね?」

「……………………は?」


 状況がよくわかんなかったので思わず聞き返してしまうと、宇月君は気の抜けたような声を出した。


「な、何言っちゃってんのこいつ……」

「かっちゃん……。

 まさか……中二病だったなんて……!」

「えっ……と、あれ……止まってない……のか?」


 よくわかんないけど、なんか気まずい。

 あの、なんて言うか……お父さんの書斎でエッチな本見つけちゃった時みたいに気まずい。


 これって……もしかして、私が使ったようなギフトが発動するはずだったんじゃないの?


「お前って……もしかして、その年でまだ戦隊モノに憧れていたりする系の奴か?」

「僕だって、もう戦隊モノは卒業して、宇宙刑事になりたいと思ってるのに?」


 哲ちゃんはたぶん卒業しきれていない。


「そんな……。こんなはずが…………」


 わなわなと震える宇月君。

 何だろう……ちょっと可哀想になってきた。


「何故だ……? あと1回は使えたはずだったのに……。

 日高! これが貴様の能力か!!」

「違うけど……」


 あと1回ってことは、回数制限付きのギフトだったってことか。

 それで謙輔を捕らえたって考えていいのかな……?


「ともかく、何も無いってわけだ。

 ここでこいつを倒してしまっても構わないんだろ?」

「よし、僕達で悪いかっちゃんを懲らしめちゃおう!」

「舐めるなよガキ共……俺にはまだ、転生によって得た知識と身体能力があるのだ」


 そうだ……ここで気を抜いてはいけない!

 二人ともさっきので忘れちゃってるみたいだけど、宇月君やばいくらい強かったじゃん!


「さあ、第2ラウンドと行こうか」


 三人はぶつかり合うように飛び掛かって行った。

 二対一の激しい喧嘩(バトル)が目の前で繰り広げられている。


 ……私ですか?

 私はか弱い女子だし、まだ喉が苦しいのでここで見ていますけど。

時止めは打ち止めだったようです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ギフトの回数は時間を遡っても戻らない……! 悪事を働いたとは言え、このいたたまれない空気、宇月君がちょっぴり可哀相になってしまうのです。
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