第95話 ギフト
まだ信じられない。
実感がわかないって言った方がいいのかもしれない。
謙輔は、ここから少し離れた山小屋で死んでいるのを発見されたらしい。
そして、謙輔の傍で他校の生徒も死んでいた……と。
みんなの反応は様々だ。
怖がっている子もいれば、変に強気に面白がっている子もいる。
悲しんでいる子もいれば、怒っている子もいる。
私は…………、悲しい。
色んな感情が込み上げてくるけど、一番はやっぱり悲しい。
頭の中が、今までのことでいっぱいだった。
謙輔との思い出が、嫌と言うほど湧き上がってくる。
そうすると、目を開けているだけで前が見えなくなるほど涙が出てくるから、私はもう動けなくなってしまった。
人の死って、こんなに辛いことなんだ。
友達が死ぬって、こんなに悲しいことなんだ。
もう会えないって、こんなに苦しいことなんだ。
ついこの間まで元気だった謙輔。
不良だったけど、思いやりがあって、頼りがいもあって……謙輔は何度も私を助けてくれて、そのお返しをまだ私は何もしていないのに……。
◆◇◆◇
林間学校は中止となり、私達は臨時のバスで帰ることになった。
先生達は残るみたいだけど、無力な子供の私は、友達が死んだ……ううん、殺されたのに、何もできないまま帰るしかないんだ。
前世の私も、恵利佳が自殺した時、今の私みたいな気分になったんだろうか。
そして、それを乗り越えてその後も頑張っていたんだろうか。
だとしたら、前世の私は強いな……。
私はもう、悲しくて、辛くて……何もできそうにない……。
「玲美……」
泣いている私の手を、瑠璃がずっと握っていてくれた。
その手が、なんだか無性に暖かく感じた。
…………………………
………………
…………
……
気が付くと、私は俯瞰して私を見ていた。
まるで、時間が止まっているかのように、ただ写真を見ているだけのように誰も動かない。
そうか、これは夢なんだ。
ただの悪夢だ。
だから、謙輔も当然生きて────
『久しぶりだね』
声がして振り向くと、そこには知らない男の人が立っていた。
白い衣装を着て、黒い縁の眼鏡をかけた男の人。
知らない……ん?
どこかで見たことあるような……でも、思い出せない……。
こういうのって、何て言うんだっけ?
『もうすっかりその姿だ。僕のことは覚えてないかな?』
その人はただ喋ってるだけなのに、頭に直接響いてくるような不思議な声をしていた。
『ここで話すのも何だし、ちょっと場所を変えようか』
男の人がそう言うと、辺りが白く染まっていき、そして緑と紫がかかったような何も無い風景に変わって行った。
……知っている。
私は、この風景を知っている。
でも、深く思い出せない……まるでもやがかかったみたいに、思い出そうとすると記憶を曖昧にされてしまう。
『無理に思い出さなくていいよ。君はもう、あの頃の君では無いのだから』
『あの……頃……? もしかして、前世の……?』
『まさか、この状態で僕に話し掛けてくるだなんて驚いたよ。
でも、疲れるだろう? ここでは無理に声に出さなくても大丈夫だから、念じるだけでいい』
じゃあ、こんな感じでも会話できるの?
『大丈夫……それにしても、いきなりで驚いたよね。
ちょっと強引だったけど、これ以上事態を悪化させないために君をここへ連れてきたんだ』
……神様?
『思い出したのかい?
正確には、僕は神様本人では無いんだけどね。こうして会うのは、君を転生させたぶりかな』
あなたが私を……。
『来世の君を、こうして過去へ転生させたんだ。
過去を変えたい……それが、君の希望でもあったから』
そう……あなたのお陰で、私は無事に過去を変えられた。
恵利佳もいじめられなくなって、みんな仲良くなって……これでもう、誰も欠けること無く私達は未来へ進むことができる。
……そう思っていた。
だけど……これが夢じゃないのなら……。
『大丈夫。その為に君をここへ呼んだんだ。
前世の君にも今の君にも、伝えて忘れていたことがあったのを思い出してね』
伝え忘れていたこと……?
『僕は正直、君を見誤っていた。
運命はそんなに簡単には変えられない……そう思っていたんだ。
だけど、君は違った。
見ていて何度も冷や冷やしたけど、君は仲間達と協力し、敵だった子達も味方に変え、そして遂に運命に打ち勝ってしまった』
見られてたんだ、私……。
『僕はね、少しだけズルをしようとしたんだ。
本当にどうしようもなくなった時、一度だけやり直せる能力。
それをこっそりと君へ授けたんだ』
やり直せる……力?
『時間を、1日だけ巻き戻す。
それが、君に授けた能力。
使えるのは一度切り……これ以上の介入は、僕にも許されていない』
私に、そんな力が……?
それって、まだ────
『まだ君の中に残っている。
どう使ってもいいし、いつ使ってもいい。
もちろん、これから先、君にできた大切な人の為に取っておく……という選択肢もある。
これは僕からの贈り物だ。
君がどう使ったって、僕は文句を言わないよ』
神様からのギフト……時間を巻き戻す力……。
使いようによっては、どんな苦難でも覆すことができてしまう。
そんな力を、この人は私に授けていてくれたんだ。
もし、あの時、恵利佳を救うことができかったら、私はこの力を使っていたのだろう。
『どうする?』
考えるまでも無いよ。
恵利佳を救うのだって、私一人じゃできなかった。
謙輔や、悠太郎……大切な仲間達が居たからこそ、叶えることができたんだ。
私は仲間の誰がそうなっても、迷わず力を使う。
だから──
『……さすが、僕の見込んだ人だ。
君は転生して人格が変わっても、君のままだったんだね』
戻せる時間は1日……つまり、24時間。
それまでに謙輔が殺されていないという確信は無いけれど、可能性が少しでもあるのなら、私はそれに賭けたい。
謙輔がなんで殺されたのか、犯人は誰なのか……そして、謙輔と一緒に死んでいたという他校の生徒のことも……。
私自身にも命の危険はあるし、使えるのも一度切り……それでも、絶対に失敗は許されない。
覚悟はできた。
だから、どうか私にその力の使い方を教えてください。
お読みいただいてありがとうございます(o_ _)o))
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