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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学二年生編 本編その1 止まった時計の針
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第93話 神隠し

「謙輔、まだ見つからないのかな……」


 先生達は昨日と変わらず慌ただしく動き回っている。

 これだけでも、結果は聞かなくてもわかってしまうんだけど、とにかく謙輔が無事だという情報を早く聞きたくて落ち着けないまま時間だけが過ぎていく。


「あっちの学校でも行方不明者が出ているらしい。どうなってんだ、今年の林間学校は……」


 男子達が話してた言葉が耳に入ってきた。

 あっちの学校って、哲ちゃんや河村さんのいる学校?

 本当にどうなってんの?

 こんな風に人が突然消えるなんて、まるで神隠しだ。


 ────三組に行ってみよう。

 新崎君もいるかもしれないし、そうすれば謙輔に何かあったのかもう少しわかるかも知れない。


◆◆◆


 三組に顔を出すと、こちらはこちらで他のクラスとは違うざわざわ感がある。

 そりゃそうだよね……自分達のクラスの人が行方不明で落ち着いていられるわけがない。

 さて……。来たは良いけど、私に三組の知り合いなんていたっけ?

 新崎君は見当たらないし、他には……いた! あれは、たしか二宮さんだ。

 一年の時に同じクラスだっただけだけど、少しくらいなら話したことあるし、ちょっと聞いてみよう。


「二宮さん!」

「あら、日高さん」

「突然ごめんね。謙輔のこと聞こうと思って」

「ああ……うん、日高さんは彼と友達だったの?」

「うん。小学校の頃からの大事な友達なんだ」

「そう……」


 二宮さんは、暗い表情のまま窓の外を見つめた。


「私がこれから言う事……馬鹿にせず聞いてくれる?」

「え? うん……」


 馬鹿にせずってどういうことだろうと思っていると、そこへもう一人知っている顔が現れた。

 宮下君だ。

 たしか、宮下君は三組の生徒じゃなかったはずだけど、二宮さんが心配でやって来たのかな?


「隆弘、どうしたの?」

「いや……そっちのクラスで何かあったって聞いたから……」

「私のクラスの人、日高さんの友達が行方不明なんだ」

「渡辺だったな。そうか、日高さんの友達だったのか」

「そう……だから、少しでも手掛かりを得られたらと思って……」


 ふと思った。

 例えば本当に手掛かりを得て、私はいったいどうするつもりなんだろう。どうしたいんだろう。

 謙輔を探しに行く? それなら先生達が既にやってる。

 私にできる事なんて本当にあるの? 私はこうして、少しでも自分の為に安心感を得たいだけなんじゃないの?


「私……どうしたいんだろう……」


 思わず声に出ていた。

 うまく言えないけど……何だか、不安ですごく泣き出したい気分だ。


「俺も多分、今の日高さんと同じような気持ちになったことがある。

 小学生の頃な、悠希が突然行方不明になったことがあったんだ」

「二宮さんが?」

「俺も悠希も深くは覚えていないが、一つ覚えているのは俺はただこいつを失いたくなくて我武者羅に走った。

 立ち止まったら、もう取り戻せないって思ったんだ」


 私にとって謙輔は恋人では無いけれど……でも、失くしたらと思うと胸が張り裂けそうになるほど大切な人だ。

 謙輔だけじゃない。私にとって、私の友達はみんな大切な人達だ。

 一人だって欠けたら嫌だ。


「……私は少しだけ覚えてる。

 馬鹿げてると思われるかもしれないけど、私はここじゃない世界に迷い込んで帰れなくなっていた。

 どうやったかは思い出せないけど、隆弘が私を見つけてくれて、それで私は無事に戻ってくることができたの」


 ここじゃない世界……本当に神隠しだ。

 やっぱり、謙輔も神隠しに……?


「渡辺君は私の時とは違う。でも、何か特別な力(・・・・)が働いてると思う。

 まるで、あの世界で体験したような力を感じたの……ごめんね、こんな時に変な話して」

「特別な力……」


 二宮さんは冗談でこんなこと言う人じゃないと思う。

 何より、私も……前世の記憶は無いけどあれも特別な力(・・・・)と言えないことも無いし。

 だから、二宮さんの言う事を馬鹿にしたりする気は無い。


「隆弘も、少しは違和感感じたりしなかった?」

「違和感……か、言われてみれば昨日の昼頃、何かやたらとざわついた感じはしていたが……」

「私もちょうどそのくらい……まるで空気の流れがゆっくりになったような……」


 昼頃と言えば、謙輔が居なくなった時間と一致している気がする。

 空気の流れというのがよくわからないけど……。


「じゃあ、謙輔は……その何か(・・)でいなくなってしまったの?」

「はっきりとは言えないけど、これはただの失踪では無いような気がするの」


 そうだとして、私に何ができるの?

 やっぱり、先生達や捜索隊の人達に頼るしか……。


「新崎君が話してたんだ。渡辺君は、振り向いたら消えるようにいなくなっていたって」


 消えるって……そう聞くと、ますます神隠しだとしか思えない。


「新崎君は今どこに?」

「先生が、気を落ち着かせるって病院に連れて行ったわ」


 探しても居ないはずだ……そりゃ先生達もそんなことを言われたら、新崎君が何か精神的なショックを受けたんじゃないかって思っちゃうよね。


「私にできることは謙輔の無事をただ祈ることだけなのかな……」


 二人は何も答えなかった。

 二宮さんの言っていたことは普通の人が聞くと『何言ってんだ』ってなっちゃうような事だったと思う。

 でも、私は普通じゃないことも経験している。

 だから、聞き流してただ待つだけという事もできそうにない。


「なあ悠希、俺達も日高さんに協力しないか?」

「そうね……一緒になって情報を集めるくらいのことはできるから」

「ありがとう、二人とも」

「あと、さっき言った事、他の人達にはなるべく言わないでね」

「うん」



 最終日となった今日。

 謙輔のお父さん達も合流し捜索は続けられたけど、謙輔はまだ見つかってない。

 ただ、時間だけが過ぎて行く。

 どこへ行ってしまったの……謙輔……。


 そして、もう一人の行方不明者が宇月君だと知らされたのは午後になってからのことだった。

某ミステリー調査班が出てきそうな案件になってきました。

Ω<話は聞かせてもらった!

※宮下君と二宮さんは小学生時代に異世界転移を経験しているという裏設定があります。

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