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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学二年生編 本編その1 止まった時計の針
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第92話 消えた謙輔

「まだ引きずってんのか?」

「うん……」


 色々あったけど、哲ちゃんに関しては私も露骨に避けたり嫌なそぶりを見せたり、もっと他にやり方があったんじゃないかと考えるとどうしても自己嫌悪に陥ってしまう。


「まぁ、しかし……俺達揃いも揃って、いらんところでモテ期到来だよな」

「小岩井も、沙耶のこと引きずってたりする?」

「そりゃあ……俺には勿体ないことだと思うし、せっかく相手が勇気を出してくれたのに断るってのも心が痛まないわけないよな……」

「そうだよね……」


 小岩井に振られた沙耶はというと、昨日までのことが嘘のようにスッキリとした顔をしている。

 沙耶は辛くないのかな? 誰かを自分から本気で好きになって振られた経験の無い私には、沙耶になんて声を掛けたらいいのかわからなかった。

 悠太郎が居なかったら、私もいつか誰かに恋をして、そのことで悩んだりしていたのだろうか。


「お前ら、よくわかんないけどくよくよすんなよ」


 私達の重い雰囲気を察したのか、瑠璃がそう言って励ましてくれた。


「そうだよね。せっかくの林間学校なんだもん。もっと楽しまなきゃね」

「そうだぜ。あたしなんか今日の夜、田中達とカブトムシ捕まえに行くんだ」

「あんまり遅くに外出すると先生に怒られるよ?」

「先生が怖くて虫取りができるかよ」


 カブトムシの何が瑠璃をそこまで駆り立てるのか。

 ああ、でも私も幼稚園の頃は虫とか全然平気だったんだよね。

 虫を触れなくなったのって、いつ頃くらいからだったんだろう。


***


 登山も終わって昼食も取って、しばらくは自由時間。

 せっかくだから、由美達に会いに行こうかな。


「玲美っち、どっか行くの?」

「ちょっと友達に会いに行こうかと思って。すぐ戻るから」

「そっか……うん、行っといで」


 由美に会ってなかったのもそうだけど、恵利佳のことがちょっと心配だ。

 お父さんが今ああいう状態だし、なかなか楽しむ気持ちにはなれてないと思うけど……。


 由美達のクラスに向かう途中、何だか慌ただしい雰囲気の人達を見かけた。

 何があったんだろうと思ってたら、その人達が私のところへと近付いてきた。


「あの、渡辺君見てませんか?」

「渡辺君?」

「渡辺謙輔っていう、俺達の班の人なんですけど……写真とかあればわかるかな?」

「謙輔? 謙輔がどうかしたの?」


 班の人の話によると、昼食の時から既に謙輔の姿が見当たらなかったらしい。

 先生達も探しに出ていて、三組ではちょっとした騒ぎになってるみたいだ。


「登山道も敷かれた山で遭難なんて無いだろうし、いったいどこいっちゃったんだ?」

「皆さんは謙輔と一緒に行動してたんじゃないんですか?」

「いや、渡辺君は俺達の班だけど、先生に頼まれて新崎君っていう子と一緒にいたんだ。

 新崎君も途中までは渡辺君と一緒だったらしいんだけど、集合場所に着いてから急にどこかへ行ってしまったらしい」

「どういうこと? 一度ここには来てたのに、それからいなくなっちゃったの?」

「うん……」


 謙輔が居なくなった?

 状況がよくわからない……どこかに行ったってどこに?


「俺達、他の場所も探してくるんで、もし見かけたら教えてください」


 新崎君って、謙輔と一緒にいたあの小さい子だよね。

 謙輔のクラスに行けば居るのかな……その前に、一度由美達にもこのことを話した方がいいか。

 何でも無ければいいけど……とりあえず、急ごう。


***


「由美……、恵利佳!」

「あら、玲美? どうしたの、そんな息切らして」

「私達もちょうど、玲美の様子見てこようかって話してたところだったの」

「謙輔が……、謙輔が居なくなったんだって! クラスの人達が探してた!」

「謙輔君が?」


 もしかしたら、あいつのことだから一人で勝手にどこかへ行ってるだけなのかもしれない。

 それだったらそれでいいんだけど、やっぱりお昼の時間になっても戻ってこないって何かおかしい。


「先生達も探してるって……そんな迷惑になる事、渡辺君がするとは思えないわ」

「だよね。わたしも謙輔君はそういう常識はある方だと思うし。どこかで怪我して動けなくなってるとか?」

「ありえなくも無いけど……それなら尚更心配だわ」


 どこかで怪我をしてるって言っても、目的地に着いてからそんな危険な所へ行くなんてあるのかな……。

 新崎君をわざわざ置いていったってことは、一緒に連れていけないからだと考えるとそうなのかもしれないけど……そうだとしても、何かがしっくりこない。


「一度、新崎君にも話を聞いてくる」

「待って、わたしも一緒に行くから」

「私も」


 私達はとりあえず当事者の新崎君に話を聞いてみることにした。

 状況を聞けば、謙輔が向かった場所とかのヒントになるかも知れないし。



 三組に着くと、相変わらず総動員で謙輔を探しているみたいで、その中には坂本の姿もあった。


「お、日高達か。謙輔さんなら今居ないみたいなんだ。どこに行ったのかもわからないって」

「うん、私達もそう聞いてる。だから、謙輔と一緒にいた新崎君に話を聞きに来たんだけど」

「新崎なら、発作が起きたとかで旅館で休んでるそうだ。俺も、あいつに詳しい話を聞こうと思ってたんだけどな……」


 そうか。新崎君は謙輔に懐いてたし、こんなことになって余計に体に負担が掛かって……。


「わたし達も、できる限り謙輔君を探そう」

「そうね」


 その後の行事はいったん中止となり、先生や施設の人達による謙輔の捜索が行われることになった。

 結局その日は手掛かりすら見つからず、林間学校は最終日を迎えることになってしまった。

この子達の学校行事は毎回何か事件が起こります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 瑠璃ちゃんのカブトムシにほっこりしてたら……山でいなくなるのほんと危ない! 直前のまずい再会もあったし……謙輔くんが無事だといいけど。(ハラハラ)
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