第85話 覚えてない
キャンプ当日。
バスは私達を乗せてキャンプ場へと向かう。
恵利佳のお父さんの容態も安定して、みんな無事参加することができたし、何も悩むことは無いはずなのに妙に気分がソワソワする……。
「玲美、もしかして酔ったか?」
「ん? 全然大丈夫だよ」
「そうか? ならいいけど、ずっと黙ってるからさ」
「玲美っちは愛しい彼氏さんと遠恋中で寂しいんだよねー」
「そんなことないけどさ……」
そうか、私ずっと黙っちゃってたんだ。
せっかくのキャンプだっていうのに、そんなんじゃみんなにも申し訳ないよね。
「ちょっと考え事してたんだ。ごめんね」
「体調悪いとかじゃ無ければいいけどよ。ほら、既に三鬼なんかは先生の隣に移ってったぜ」
瑠璃に言われて前の方を見ると、担任の前田先生の隣で三鬼君が気分悪そうに横たわっていた。
ああ、中学校の森山さん枠はあの人か。
「俺なんて一度も乗り物酔いしたことなんかないぞ」
「そうだっけ? 昔、うちのお母さんが運転する車に乗ったとき酔ってたじゃん」
「あれは、おばさんの運転がやばすぎたんだ!」
幼稚園の頃、大雨の日。
お母さんが私と小岩井を車で送り迎えしたことがある。
私は全然慣れてたというか、車ってあんなもんだと思ってたんだけど、どうやら違ったらしい。
お母さんペーパードライバーだったそうだし、命あっただけ良かったよ。
「そっかー、小岩井君と玲美っちって幼馴染なんだよね。
幼稚園からずっと一緒って、なんか運命感じたりしない?」
「ないよ」
「えー、だって幼馴染って好きになったりするもんじゃないの? 某野球漫画とかだってそうじゃん」
「あんなの、漫画の世界だけだろ。実際こんなにずっと一緒だと、相手の良い部分以外に嫌な部分だっていっぱい知ってるからな。
そこまで知ってる相手に特別な思いなんてわかないぜ」
「だよね。小岩井なんて、何かあるとすぐゲロ吐いてたし」
「お前だって、気分損ねるとすぐ腕に噛みついてくる狂犬だったじゃねえか!」
「小さい頃の話じゃん!」
小岩井のやつー、しょっちゅうオネショしておばさんに怒られてたのばらしてやろうか。
けど、それを言うと、こいつもまた私の弱味をばらしてきそうだし……ぐぬぬ……。
「幼馴染同士くっつくなんて幻想なんだな」
「そうだねー。二人見てるとロマンのかけらもないもん」
「ただしイケメンに限るであるな」
私と小岩井の言い争いにあきれ顔の三人。
でも、これが実際の幼馴染なんだから仕方ないよね。幻想壊してごめんね。
「まー、俺から見た日高はそんな感じだけどさ。お前、石川にはそんなでも無かったよな」
「石川って誰? 男の子? 女の子?」
沙耶が変な食いつき方してるけど、石川……哲ちゃんに、私ってどう接してたっけ?
幼稚園の頃の記憶はあるけど、どうも哲ちゃんとの記憶ははっきりしないな……。
「男だよ。俺と日高、そして石川の三人は小学校に上がるまでいつも一緒だったんだ。
石川ってのは俺達のリーダーみたいなやつでな、いつも喧嘩ばっかりしてる俺達をなだめるのがそいつの役目だったんだ」
「へー。しっかりした子だったんだね」
「そ、だから日高も石川には懐いててさ。
俺が石川と遊ぶ約束すると、私も行くって散々駄々こねてよ」
「そうだったっけ?」
「覚えてないのかよ。お前、石川に大きくなったら結婚しようって言われてするって喜んで答えてたんだぜ?」
「……マジで!?」
やばい、全然覚えてない。
私ってそんなに哲ちゃんに……?
もしかして、哲ちゃんはそのことを覚えてらっしゃる?
「小学校に上がる前、石川が引っ越すって聞いた時のこいつの泣きっぷりったら凄かったぜ」
「そっかー。じゃあ、小岩井君じゃなくて石川君が幼馴染として残ってたらロマンスあったかもね」
「俺はおススメせんけどな。石川じゃなくて伊藤とくっついてくれて良かったと思ってるぜ」
「なんで?」
「まあ、石川もちょっと癖があったっていうか……な、日高?」
「え? うん……そうかな」
小岩井に聞かされて、哲ちゃんのことを思い返してみるけど、やっぱり最初の方と最後の方しか思い出せない。
一度、昔の事を小岩井にしっかり聞いておいた方がいいかな……哲ちゃんがああなったのは、私にも原因がありそうだ。
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……………………
…………
そんなこんなで、あと10分もしないうちにバスはキャンプ場へと着く。
「早くおこげが食べたいぜ」
瑠璃は、カレーよりもおこげがいいらしい。
「ほかの学校との交流もあるからねー。いい男いるといいなー」
沙耶はキャンプを何だと思ってるのか。
「クワガタ捕まえに行こうな、田中!」
「おお、ぜひ」
ぜひってこういう時に使う言葉なんだろうか。
ともかく、中学になって初めてのお泊り行事。
何事も無く、みんなと楽しい思い出が残せたらいいな。
お読みいただいてありがとうございました(o_ _)o))




