第83話 幼い日の思い出
お絵描き練習中です(´・ω・`)
幼い頃、あれほど憎んでいた男は、弱々しい姿で病室のベッドに横たわっていた。
時折激しく咳きこみ、辛そうにしている姿を見ると大嫌いなはずなのに悲しい気持ちになってくる。
この人があんな事件を起こさなければ……、この人が私の父で無ければ、お母さんも私もあんなに苦労することは無かったのだ。
それでも……、私の体にはこの人の血が流れている……。
「見ず知らずの俺の為に済まねえ……」
「貴方の為だけではない。今回のことはここにいる恵利佳さん、そして、咲江さんの為でもある。
貴方が罪人だとしても、お二人は貴方を見捨てることはできない。そういう人達なんだよ……」
「刑務所にいた頃から、体の異変には気付いていた。残された時間が少ないと気付き、せめてお前達には俺のしてきた事を詫びたかったんだ……。
これ以上、迷惑かける気は毛頭無い。治療費も、何とかして返させてもらうさ」
そう話す父を見たまま、お母さんは何も言わず辛そうな表情だけ見せている。
お母さんの心中は私にはわからないけれど、きっと私なんかよりその想いは複雑なんだと思う。
「恵利佳……済まなかった……。
謝って済むことでは無いとわかっている。自分勝手なこともわかっている。だが……」
「……聞きたくない」
今更謝られて、どうしろというのだ。
私はこの人のせいでずっと酷い苛めに遭い、時には自殺だって考えたりもした。
玲美達に出会わなかったら、あの夢の中の私と同じ結末が待っていたんだ……。
「……会いたくなかった。だって、そのせいで私もお母さんも今も苦しい思いをしている。
あなたは、私達をこれ以上苦しめて一体何がしたいの!?」
「……」
父は何も言い返さなかった。
お母さんは私の言葉を聞き、黙ったまま涙を流していた。
「……小渕寺さんと二人で話がしたい。
咲江さん、恵利佳さん、すまないが少し外へ出ていてもらえるかね?」
渡辺君のお父さんが何を話すつもりなのかはわからないけど、ああ見えて常識のある人だから心配するようなことは無いと思う。
「お母さん、行こう……」
うつむいたままのお母さんを連れ、私達は病室を出ることにした。
◆◇◆◇
外へ出ると、すっかり夕暮れになった空が広がっていた。
お母さんと二人で近くのベンチに腰を下ろし、私はこの複雑な気持ちをため息に乗せて吐き出した。
「恵利佳、ごめんね……」
「お母さんまで、何で私に謝るの?」
「私があの人の身元を引き受けなきゃ、こんな事にはならなかったのに……」
それについては否定できなかった。
私達の知らないところで、あの人が勝手に死んでいてくれれば良かったんだ。
知ってしまったら……無視し続けることなんてできないじゃないか。
「お母さんね……、謙輔君のお父さんに、二人が高校生になったら一緒になろうって言われてたの……」
それについてはわかってたし、二人が決めることだから私も渡辺君も反対するようなことは無い。
ただ、そうなったら生まれの早さで私が姉になるのかと渡辺君がごねていたくらいだ。
お母さんが幸せになれるのなら、それでいいと思ってる。
「でもね……あの人が倒れたって聞いて……。居ても立ってもいられなくなっちゃって……」
お母さんは優しい人だ。
一度は夫婦だったあの人を、見捨てることはできなかったのだろう。
「私は、お母さんに産んでもらって、ここまで大きく育ててもらえて……あの人のせいで嫌な思いもいっぱいしたけど……。
それでも、お母さんには感謝してる」
うまくは言えないけど、これだけははっきりしてることだ。
それに、私にもあの人に……父に思う事が無いわけでもない。
幼い日の記憶……父に抱かれて一緒に歩いた散歩道。
あの日────陽だまりの中を、私達は確かに一緒に歩いていたんだ。
思い浮かべないようにしていた。
でも、思い出すと止まらなかった。
あの人は……、あんな人でも……たしかに私のお父さんだったんだ……。
「……あんなお父さんでも……生きていてほしい……」
ふと口から出てしまった言葉を、私は止めることができなかった。
それから、私の目からは勝手に涙が溢れ出してきた。
あの人のことを許したわけじゃない。
それなのに……今、私の頭の中に浮かんでくるのは、父と過ごした少ないはずの楽しかった思い出ばかり。
お母さんと私は、ただ抱き合って二人で泣いていた。
やがて時間が過ぎ、渡辺君のお父さんの話も終わったようで、私達は父の待つ病室へと戻った。
二人が何を話していたのかは知らないけど、妙にすがすがしい顔をした父に何となくムカついてキッとにらむと、申し訳なさそうに咳払いをしながら布団に潜ってしまった。
散々泣かされたのだから、このくらいの仕返しはしても罰は当たらないよね?
────その後、父を担当した医師に呼ばれたお母さんと私は、父の容態について聞かされることになった。
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