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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学二年生編 本編その1 止まった時計の針
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第80話 もう一人の自分

 どうする……?


 中尾亮一は前世の俺の仇の一人。

 しかも、前世と同じように中野(おれ)を虐めている。


 ……石川との約束もあるが……、すぐに片付ければ(・・・・・)問題無いだろう。


「ひーふーみ……二千円足りねえじゃねえか」

「その……、これしか用意できなくて……」

「ふざけんなよ! 用意できなくても何とかしろよ! 親の財布から盗ってくるとか、いくらでもやりようはあるだろ!

 よーし、これ以上逆らえねえように教育してやる!」


 中尾が中野(おれ)を殴ろうと振りかざした腕を掴む。


「それ以上喚くな、ゴミ」

「ぁんだてめぇ!! ……クソッ! は、離せ!!」


 中尾は振りほどこうと腕を上下に動かすが、そんなことでこの俺の手からは逃れられない。

 渡辺対策に散々鍛え上げてきたこの体、こんな雑魚如きにどうにかできるわけがないのだ。


「さて……、図体だけがでかい雑魚が。お前には俺の予行演習に付き合ってもらおうか」


 実際、これがクズ共との初めての戦闘と言ってもいい。

 以前にやった襲撃など、はっきり言って無鉄砲な恥ずべき行為だったと思っている。


 自分より身長の高い中尾を片手で吊り上げ、鳩尾を一撃。これだけでこいつは動かなくなった。

 だが、こんなものでは済まさない。

 前世の俺がこいつらのせいでどれほど苦しんできたか……思い知らせてやらなくては。


 中野(おれ)が恐怖に引きつった目で俺を見ている。

 何とも不思議な光景だ。

 俺は宇月(おれ)として確かにここにいるのに……、なぜ中野(おれ)がここに存在するのか。



 ────その時、脳裏に何かがフラッシュバックした。


 何も無い奇妙な空間で、前世の俺が誰かと話していた。

 内容は聞き取れない。 だが、確かにその記憶は俺の中に存在した。

 そして、間もなく光に包まれた俺は……。


 気が付くと、そこに中野(おれ)の姿は無く、いつの間に離してしまったのか、中尾は地面に横たわっていた。


 中野(おれ)に聞きたいことは山ほどあった。

 あいつは、本当に俺自身なのかどうか。

 もしかすると、俺のように別人の魂が宿っているのかもしれない。


 まるでタイムパラドックスのようだ。

 俺が宇月として転生したことで中野の存在が消えてしまわないように、他の誰かが中野として生まれることでこの時代に修正が入ったのかもしれない。


 だとしたら、中野(おれ)に生まれてしまったものが不憫でならない。

 この先待ち受ける過酷な運命を、中野(あいつ)は辿ることになるのだから……。


 さて、中尾はどうしようか。

 ここでこいつを片付けるのは簡単だが、今のご時世、そんなことをすればすぐに足がついてしまう。

 渡辺の事も聞き出したいが、生憎石川との約束があるのでそんな時間も無さそうだ。


 仕方なく、中尾はその場へ放置し、俺は石川の待つコンビニへと向かうことにした。


◆◇◆◇


 コンビニへ着くと、石川は笑うでも怒るでも無く、無表情に近い何とも言えない顔で待っていた。

 なるほど、これが河村の言っていた“様子がおかしい”ということか。


「待ったか?」

「……いや、まぁ……急に呼び出してごめん」


 いつもの能天気さはどこへいったやら、普段と比べたら元気が無いどころではない。


「どうしても、一人じゃ耐え切れなくて……」

「何かあったのか?」

「僕が馬鹿だったんだ……もっと早く行動を起こしていたら……」


 ────日高玲美のことか。

 単純馬鹿なこいつのことだ。ごり押し作戦で行って振られでもしたのだろう。


 石川は俺に今日あったことを洗いざらい話し始めた。


「かっちゃんは……僕に協力してくれるって言ったよね?」

「ああ、言ったな」

「うん……。嫌われたのかもしれない……けど、やっぱり……」

「お前がどうしたいのかだ。俺も、友人としてできうる限り協力してやる」


 そう言うと、石川は俺の手を握って泣き始めた。

 だいぶ情緒不安定になっているようだ。

 というか、こんなコンビニの前でそういう行動を取るのは周りの人に変に誤解されそうだからやめてくれ。


「ありがとう、かっちゃん……」

「わかったから手を放せ」

「ごめん……」


 こいつの手助けをすることは、渡辺を追い詰めることにも繋がる。

 今のところは、お互いWIN-WINの関係だ。


 奴に復讐する為なら、俺はどんな手でも使うつもりだ。

 例えこいつが犯罪まがいのことをして捕まったとしても、俺には何の被害も無い。

 人の良いこいつは、俺の事を本当に友達だと信じている。

 こんなに使いやすい駒がいるか。


 河村は石川を救って欲しいと言っていたが、生憎俺にそんなつもりは無い。

 せいぜい利用して使い捨ててやる。


「こんな事もあろうかと、俺も日高さんとは面識を作っておいた。お前は今回の事で警戒されているかも知れんが、俺ならばそんな事は無いだろう。

 とりあえず、俺が行動し準備が整うまで、お前は彼女との無駄な接触は無くせ」

「……わかった。ありがとう、やっぱりかっちゃんは頼りになる」


 そう言うと、石川はまた俺の手を握ろうとしてきたのでさっと避けた。

 いやいや、何でそんなガッカリした顔をするんだ。

 お前の好きなのは日高だろ。


 それにしても、狙ったとおりに行動しようとしても案外動きにくいものだ。

 渡辺達をさっさと殺して復讐完了するつもりだったんだがな……この国の治安の良さがこうも計画の足掛かりになるとは思わなかった。


 中野(おれ)の事も気にはなるが……今の俺にとっては復讐が最も優先すべきことだ。

 これさえうまくいけば、中野(あいつ)の未来も変わる。



 石川と別れ、帰路へとつく。

 帰りがけ中尾を放置していた場所を覗いてみたが、奴の姿は見つからなかった。


◇◆◇◆


 家に帰り、風呂へ入り、俺はふと洗面台の鏡を見た。

 そこには当たり前だが宇月一哉の姿があった。


 なんだ、やっぱり俺は俺じゃないか。


 だけど、鏡の中の()が俺に問う。

 『オマエハ誰ダ────』


 決まっている。俺は、俺だ。

 そして、俺は、復讐者だ。


 復讐までの秒針は、もう動き始めている。

お読みいただいてありがとうございましたm(_ _"m)

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