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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その1 はじまり
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第7話 白いタンポポ

今年最後の投稿になります。

 まさか、瑠璃があんなに頭が良かったとは。

 人は見掛けによらないとも言うけど、なんだか釈然としないわ……。


 あれから瑠璃は普通に学校に通って来るようになった。

 スカート丈は相変わらず長めだけど、うちの学校って服装検査あるみたいだし、ほっといてもそのうち直すでしょ。


 午後は理科の授業。

 いつも通り、眠気と戦いながら授業を聞いている。

 給食の後の授業って眠くなるよね。

 チラッと見ると、瑠璃なんて寝るのが当然見たいに爆睡していた。


「では、明日の授業は花の観察を行う。各自、何でもいいので好きな花を持ってきなさい」


 さらりと面倒な課題を出して行ったな。

 その辺に生えてるタンポポでも、ちぎって持ってきたらいいのかな?


***


「ねえ玲美、明日の理科の実験、何の花を用意する?」

「タンポポ」

「それだと面白味が無いよ?」


 由美はなぜか張り切っていた。

 実験なんてめんどくさいし、顕微鏡で見るだけなんだから何でもいいじゃん。


「明川さんの言う通りだわ。日高さん、あなたにはがっかりです」


 女帝(笑)の石野さんだ。

 また面倒な人が出てきたな……。


「この実験は、私達の女子力を試されている……そうは思わない?」

「思わないよ?」

「あなたはそう思っていればいいわ。そうしているうちに、伊藤君はあなたに愛想を尽かして、いずれ私のものに……ふふふ……」


 言いたい事だけ言って、石野さんは去って行った。

 そんな事で愛想を尽かされても困るけどさ……。

 少しは私も、花とかそういう可憐なものに興味持った方がいいのかな。


「由美は何持って来るの?」

「パンジーを育ててるから、それを持ってこようと思うの」


 さすがは由美だ。

 まさか花を育ててるとは思わなかった。

 私なんて育てた事があるのは朝顔とジャガイモぐらいだ。

 しかも、水を撒いていたのはお母さんだ。


「もし良かったら、玲美も私のパンジー使う?」

「いいの?」

「駄目だ」


 そこに突如現れたのは瑠璃だった。

 パンジーの何が駄目だと言うのか。


「誰かと同じものなんて、面白くないだろ?」

「別に」


 面白さとかどうでもいいです。明日の授業が乗り切れればそれで。


「それに、よく考えてみろ。明川が一生懸命育てたパンジーだぞ? お前が貰う事で、明川は一輪余分にその花の命を絶たなくてはいけないんだ」

「それは、たしかにそうだけど……」


 瑠璃は、即興の由美とパンジーの物語を語り始めた。

 雨の日も風の日も雹の日も、由美が花達を守りつつ大切に育て、やがて綺麗な花を咲かせるというお話だ。

 由美を喜ばせる為に咲いた花達は、最後には枯れてしまうのだが、そこには新たな世代の種子が残されていたと言う。

 気が付くと、私は涙を流していた。

 勝手に物語を作られた由美も、感動して泣いていた。


「わかってくれたか?」

「うん、やっぱり私の大切なパンジーはあげられないわ!」


 なぜか二人とも固く手なんか握り合ってるし……。


「というわけで、放課後一緒に花を探しに行くぞ。明川もせっかく育てた花を実験なんかに使うのはもったいないだろ」

「そうね……わたしも、そんな気がして来たわ」

「でも、探すって言ってもどこ探すのさ」


 花なんて、通学路にあるタンポポか、河川敷にあるタンポポくらいしか見た覚えが無いんだけど。

 ツツジとか、植えられてるものなんて論外だし。


「河川敷でも、よく探せば何かあるかもしれない」


 河川敷マスター瑠璃の言うことも一理ある。

 結局安心して花を摘める場所なんて、そこくらいしか無いんだから。


「じゃあ、放課後に河川敷だね!」


 由美の一声で放課後の予定が決まってしまった。

 でもこうやって一緒に遊ぶのも、たまにはいいかもね。

 ポニーテールがわさわさ揺れてるから、これはきっと嬉しいと言う事なんだろうし。

 あれ? そういえば女子力の話してたんじゃなかったっけ?


***


 放課後────。


 私達は河川敷に集まった。

 場所は、瑠璃達の根城になってる橋の下。


「おう、来たな」


 瑠璃はジャージを着ていた。

 帰って着替えてくれば良かったのに、直接ここに来てたのか。


「花を探しに行くんだって?」


 私達のところに、村瀬先輩がやってきた。


「このサイクリングコースの先の方に、白いタンポポが咲いてたのを見た事があるぞ」


 白いタンポポ? タンポポって普通黄色じゃないの?


「白いタンポポって素敵だね! 玲美、それを見つけに行こうよ!」

「いいけど、白いタンポポなんて本当にあるの? 実は全然関係ないの種類の花とか?」

「大丈夫、ちゃんと白いタンポポだ。お前達はまだ習って無いと思うけど、タンポポには在来種と外来種があってな、ガクの形で見分ける事ができるんだ。普段よく目にするのは外来種で、白いタンポポはガクの形も在来種に近い形でな────」


 村瀬先輩のタンポポうんちくが始まった。

 もしかして、この人も頭いいのか。不良なのに。


「じゃあ瑠璃、そこ行ってみようか」

「おう」

「気を付けてな。あんまり遅くなるなよ」


 私達は、先輩の言っていた場所に向かった。

 1キロの表記がある近辺だっけ?


 手分けして探していると、瑠璃が何か見つけたみたいだ。


「タンポポあったの?」

「違う、ワラビ見つけた! こんなところに生えてるなんて珍しいよな!」

「珍しいけど、それを探しに来たんじゃないよね?」

「お、おう……」


 しばらくすると、今度は由美が何か見つけたみたい。


「由美、あった?」

「ううん。でもこれって、村瀬先輩の言ってた在来種みたいだよ」


 と言われても……ごめん、先輩の話ほとんどわかんなかった。


「これがあるって事は、白いタンポポもこの辺にあるんじゃない?」

「そうなんだ」


 由美はお花が好きだから、単純に見てみたいっていうのもあるんだろうな。

 白いタンポポねえ……本当に見てわかるくらい白いのかな?


「おい、これじゃないか!?」


 瑠璃が手を上げて呼んでいる。

 ついに白いタンポポを見つけたのかな?

 私達が駆けつけると、そこには真ん中がほんのり黄色く、白い花弁を付けたタンポポがあった。


「すごい! 小柳さんよく見つけたね!」

「本当に白いタンポポだ」

「やったぜ! 早速摘もう!」


 と、瑠璃は伸ばした手を止めてしまった。


「どうしたの? 摘めばいいじゃん」

「いや……なんかさ、ここに一株だけ生えてるのに、摘んじゃうのって可哀想かなって思って……」


 そう言われてみればそうだけど、意外にナイーブだなこの人。


「じゃあ、写メだけ撮ろうよ」

「それなら良いかもね。瑠璃、携帯持ってる?」

「いや、あたし携帯持ってないんだ……」

「じゃあ、わたしので撮るよ」


 結局、白いタンポポは由美の携帯で写真を撮って、摘まずに終わった。

 その後、村瀬先輩を呼んできて三人で白いタンポポを囲んでいるところも撮ってもらった。

 なんだかんだで、私達にとっていい思い出ができたのかもね。


***


「そういえば、全然花摘めてないじゃん!」

「「あっ……!」」


 『あっ……!』じゃないよ! 明日の理科の実験どうすんのさ!


「わたしのパンジー、三輪摘もうか?」

「それだけは駄目だ! 明川が一生懸命育てたんだろ!」


 そうは言うけど、どうしようもないじゃん。

 それならもう、私は普通のタンポポで良いよ。ほら、足元に幾つでもあるし。


「花なら、うちが花屋やってるから持ってくか?」


 村瀬先輩から意外な助け舟が入った。

 不良なのに、花屋さんの息子なんだ。だからあんなに詳しいのか。

 結局私達は、名前もわかんないような綺麗な花を先輩から貰って、事無きを得た。


 翌日の実験で、その花が高級な花だったと知る事になり、私達のクラスでの女子力評価は上がったようだった。

 そして、悠太郎はと言うと、普通にその辺のタンポポを摘んで持って来ていた。


 実験に使うんだから、もっと安い花をくれた方が良かったのにね。

 先輩のお父さん、妙に張り切っちゃって……。

 私達は、申し訳無く思いながらも、胡蝶蘭の花弁を顕微鏡で覗いた。

読んでいただきまして、ありがとうございました。

それでは、よいお年を。

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