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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その1 はじまり
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第6話 河川敷にて

 小柳さんに付いて行くと、そこはあの日見た、サイクリングコースのある河川敷だった。

 そっか、ここは不良達の根城になってるんだ。


「後悔しても、もう遅いよ」

「小柳さんが付いて来いって言ったんでしょ?」


 橋の下からぞろぞろと沸いてくる不良達。いかにもって感じの人達だ。

 上級生もいるっぽいね……悠太郎達、大丈夫かな?


「村瀬さん、こいつです。生意気な奴は」


 小柳さんは私を指差して、不良達のボスっぽい人になんか言ってる。

 私ってそんなに生意気かな?


「お前か、俺達をなめてるっていう生意気な女は」

「なめてるっていうか、不良とか馬鹿じゃないのっていつも思ってます」

「……なるほど、小柳の言う通り、生意気な奴だ」


 村瀬っていう人が近付いてきて、私を上から見下ろすように見てくる。

 悠太郎も背が高いけど、この人めちゃ背高いな……。


「おい、こいつを連れて行け! 俺達の怖さって奴をその体に教えてやれ!」

「でも村瀬さん、こんな小学生みたいな女連れてってどうするんスか?」

「そんなの後で考えればいいんだよ!」


 小学生みたいなって失礼な……この前まで小学生だったんだから仕方ないだろ。

 これから成長するんです。

 うちの家系は成長が遅いって、お父さんが言ってたもんね。


「で、野郎共はどうしてやろうな。全員でフクロにするか?」

「いいですね! 俺にやらせて下さいよ!」

「まあ落ち着け神田。お前にはそのヒョロそうなのをくれてやるからよ」


 ヒョロそうと言われてムッとした顔をする悠太郎。

 こう見えて悠太郎って結構短気だから、気を付けた方がいいっスよ、先輩。


「そこのツンツン頭、お前も生意気そうな奴だな。新入生か?」

「俺っスか? 先輩、見覚えありません?」


 ニヤニヤして、不良のボスを見上げる謙輔。

 見覚えって? もしかして、この人って謙輔の知り合いなの?


「ん? どうだっけ…………」


 どうやらボスさんも、何かに気付いたみたいだ。

 そして、ニヤニヤと笑う謙輔を見ながら、だんだんと冷や汗を掻きはじめた。


「おい……小柳」

「何ですか? 村瀬さん」


 手招きで小柳さんを呼ぶボス。そして、ポカッと彼女の頭を叩く。


「痛ったー!! な、なにするんスか、村瀬さん!?」

「お前、相手をよく見てケンカを売れ! よく見たらこいつ、狂犬渡辺謙輔じゃねえか!」


 狂犬────!

 謙輔の通り名ってそんな感じだったんだ。

 そして、その通り名を聞いて笑いを堪える悠太郎と琢也。

 耳まで真っ赤にして怒る謙輔。


「それに、その女は……狂犬をも従えたっていう暴ポメの日高じゃねえのか!?」

「な、なんすかそれ!?」


 それ、私の通り名になってんの!?

 あ、悠太郎も謙輔も吹き出しやがった。琢也は気の毒そうな顔で私を見てくる。

 とりあえず、後で悠太郎と謙輔は説教な。


「で、先輩。あの廃材置き場(・・・・・)の時みたいに、俺達と戦います?」

「やるわけねえだろ。小柳は俺からきつく叱っとくよ」


 ギョッとした顔をする小柳さん。ご愁傷様。

 さて、終わり……と思ったけど、あの日の事も気になるし、ちょっと聞いておこうか。


「先輩達、前にここで、一人の男子生徒を集団で苛めたりしてなかった?」

「苛めなんかしてねえよ! もしかして、あの時サツ呼びやがったのはお前か!?」

「そうだけど、苛めてたんじゃなかったの?」

「全然ちげーよ! むしろ、あの時は俺達の方が危なかったんだ。突然ナイフ持って、ここに乗り込んできた馬鹿が居てよ。全員で取り押さえて、そいつからナイフを奪ったんだ」


 そうだったのか。

 それで、あの時相手も逃げてたんだ。


「どこのクラスの奴か調べようとも思ったんだけど、なぜか見つからなくてな。全く、恐ろしい奴がいたもんだぜ」

「不良なんてしてるから、変なところで恨み買ったりするんですよ」

「そうは言うけどよ……俺らだって好きで不良なんてしてるわけじゃないんだぜ。俺達は、馬鹿の集まりだ。こんなだから、クラスでもどうしても浮いちまってな。俺達はそんな寂しい奴らの集まりなんだよ」


 遠い目をしてそう語る村瀬先輩。

 ふと小柳さんを見ると、さっと目を逸らされてしまった。


「家の環境とかな、いろいろ事情があるんだよ。もう悪さはしねえから、そっとしておいてくれないか?」


 事情か……。

 こうやって聞くと、不良ってある意味苛められっ子の集まりみたいなものなのかもね。

 寂しい奴らの集まり……。

 そう聞いた私は、小柳さんのところへ向かった。


「小柳さん」

「な、何だよ……」

「友達になろう」

「……え?」


 彼女に向かって右手を差し出す。

 私の手をじっと見て、固まってる小柳さん。


「条件は、もう万引きとか犯罪みたいな事は絶対にしない事。できる?」

「お前にとやかく言われる事は……」

「不良不良ってきつく言い過ぎた事は謝るよ。ごめん。だからあんたも、ここ数日の私に対する態度を謝りなさい」

「……ごめん」

「じゃあ、これで私達は友達」


 小柳さんの手を無理やり取って握手する。

 不良も辞めさせた方がいいかなと思ったけど、ここは彼女達にとって必要な場所みたいだし、人様に迷惑を掛けないっていうならいいよ。


「そうだ、私さ、友達には下の名前で呼ぶ事にしてるんだ。だから、あんたの事は瑠璃って呼ぶね」

「か、勝手にしろよ……じゃあ、あたしも、あんたを玲美って呼ぶから……」


 思いがけず、中学で初めての友達ができてしまった。

 まさか不良の友達ができるなんて思ってもみなかったけど。

 さ、私達ももう帰ろうか。恵利佳と由美も心配してると思うし。


「村瀬先輩、瑠璃の事、あまり叱らないであげてください」

「わかったよ」

「それと、ここは近隣の人達の憩いの場なんだから、迷惑を掛けたりしないようにね」

「了解了解」


 よくよく話を聞けば、この人達は今までもそんなに悪い事はしてこなかったみたいだし、瑠璃の万引きもあれが初犯だったらしい。

 初犯だから良いってわけじゃないんだけど。

 これからは、彼女がそういう行動をしないように、私も見張っていてあげよう。


────────

────

──


***


 ついに中間テストの結果が帰ってきた。


「玲美、どうだった?」

「えっと……とりあえず全教科、赤点は逃れたよ?」


 国語85点 社会36点 数学91点 英語75点 理科32点

 さすがにこんな点数で見せ合いっこなんてしたくない。

 社会の平均点、65点って嘘でしょ?

 私一人で平均点下げちゃったんじゃないの?


「中学の授業は流石に難しいね」

「ねー」


 私と由美が話していると、そこに瑠璃がやってきた。


「この間の失礼な不良!」


 身構える由美。

 そんな由美を見て、ニタニタと笑う瑠璃。

 そして、手に持っていたテストの答案用紙を私達の前に広げた。


 国語83点 社会82点 数学74点 英語89点 理科85点

 それを見た私達は固まった。

 こいつ……学校さぼりまくってる不良のくせに……。


「玲美、お前も見せろ」

「こんなの見た後に見せられるわけないだろ!」

「な、何怒ってんだよ! 友達同士って、テストの見せ合いっこしたりとか、そういう事するんじゃないのか!?」

「しないよバカ! あっち行け不良!」

「そんな言い方、あんまりだろうが!」


 私達を由美がポカーンとした顔で見ている。

 あ、そっか、由美には事情を説明して無かったわ。


 ともあれ、私達に新しい仲間が増えました。

お読みいただいて、ありがとうございます。

シュークリーム買ってきて食べました。

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