表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その4 転校生の少年と幼馴染達の恋事情
62/106

第61話 微生物の気持ち

 風邪が治って久しぶりの学校。

 ちょうど高山君の件と隆弘の件で頭の中ゴチャゴチャしてたところだったから、風邪ひいて休めてラッキーって思ってたんだけどね。


 “高山なんて無視しろよ”なんて隆弘は言ってたけど……そんなのとっくにしてるでしょ?

 でも、あんまり無視しても取り巻きの女子達に何か言われそうだし、挨拶くらいはしてもいいかなって思ってたら隆弘がそんなこと言うもんだから……。


 もう、どうしたらいいのかわからない。

 どうしたら取り巻きの女子達に嫌われずに済むんだろう……別に陰口とかは言われても平気だけど、進んで嫌われたいわけじゃないし、高山君にどう接していいのかすらわからない。

 あーあ、朝からなんだか憂鬱(ゆううつ)だ。


 そう考えながらドアを開けると、意外なことに教室は静かだった。


「二宮さん、おはよう。体調はもういいの?」


 何事かと思っていると、いきなり取り巻きの一人、松川さんに挨拶をされた。


「お、おはよう。うん、もう大丈夫……」


 高山君の周りに人が集まっていない……?

 私が休んでいるうちに何があったというの?


「今日は静かね……」

「ああ、高山君のこと? 正式にファンクラブが作られたからね。会長の許可無く勝手に騒ぐと怒られるんだ」

「へ……?」


 松川さんはそっとある人物を指さした。

 どうやらファンクラブは、石野さん達女帝(笑)軍団が取り仕切っているらしい。

 この数日の間にそんな事になっていたなんて……ちょっとビックリ。


 そういえば石野さんって、最初は伊藤君のファンクラブも作ろうとしてたもんね。

 日高さんと付き合ってる事がわかって、さすがにそれはやめたみたいだけど。

 思い返せば、小学校の時も誰だったか忘れたけどファンクラブ作ってたなぁ。

 そういうのを仕切るのが好きなのかも知れないね。


「あなたも、高山君のファンクラブに入る?」

「え? 私はいいよ。誰かのファンとか興味無いし」

「せっかく高山君に気に入られてるのにもったいないよ。他のクラスからもファンクラブに入る人も出てきてるんだよ」

「芸能人じゃあるまいし……」


 確かに、外国人とのハーフの転校生って珍しいけどさ……。

 私自身、誰かを好きになったり恋愛事には全然興味ないんだよね。


「悠希……来たのか」

「隆弘……」


 なんだかばつの悪そうな表情の隆弘。

 あんな事があったんだし、仕方ないか……。


「おはよう」

「ああ……おはよう」


 交わした言葉はこれだけ。

 隆弘はその後、何も言わずに席に着いた。


 昔はもっと気軽に話せていたような気がするんだけど、いつの間にかお互いにあまり話さなくなって、そのまま小学校卒業を迎えた。

 中学に上がって、久しぶりに同じクラスになったのは驚いたけど、それでもあまり会話らしい会話なんてしてこなかったのに……。


「愛しの君!」


 うわ……高山君に気付かれた。


「病気は大丈夫か? 僕はもう、心配で心配で……」

「た、ただの風邪だったから……」


 握られそうになった手を振り払う。

 悲しそうな顔をする高山君……やり過ぎたかも……?


「ご、ごめん、そういうつもりじゃないから……」

「君は……僕の事を嫌いなのかい?」

「嫌いとかじゃなくて……そうだ、その“愛しの君”って言うのやめて、恥ずかしいから!」

「じゃあ、なんて呼んだらいいんだ?」

「私には二宮悠希って名前があるの」

「……悠希……ごめんよ、悠希……」


 ……なぜ二度言った?


 とりあえず、変な呼び方されるのはこれで回避できたかな。

 トボトボと席へ戻る高山君。

 でも、なんで彼は私なんかをこんなに気に入ってるんだろう?


「高山君、ちょっと可哀想だったね」


 松川さんはヒソヒソとした声で私にそう言った。

 可哀想とは言ってもねぇ……私だって毎回あんな風に呼ばれるの嫌だし。


***


 今日の理科の実験は班ごとに別れて行われた。

 班とは言っても出席番号順に決められた班なんだけどね。


 私の班の、女子は野々村さんと日高さん。

 男子は……なんてこった、高山君がいる……。

 彼が転校してくるまでは、大人しい中野君が同じ班だったのに。


「悠希と同じ班になれて嬉しいよ!」

「そんな事大声で言わないで、恥ずかしいから!」


 まったく……彼は何でこんなに積極的なんだろう……その体を巡る外国人の血がそうさせてるのだろうか。


「ごめん、悠希……」


 シュンとさせてしまった……これじゃあ私が悪いみたいじゃないの。


「今日の実験って、アルコールランプ使うのかな?」


 日高さんは、なぜか実験というと毎回これを聞いてくる。

 彼女はアルコールランプが気になって仕方ないらしい。

 微生物の生態を調べるのに、なぜアルコールランプを使うと思うのだろう。


「ミジンコとか超キモいよね」


 野々村さんは微生物が苦手らしい。

 いや、私も別に好きではないけど……。


顕微鏡(けんびきょう)って高そうだよな。壊したらやばいことになりそうだ」


 微妙にフラグのようなものを立てるのはやめて、手塚君。

 あんなの壊したら、本当に洒落にならないからね。


 そうこうしているうちに、理科の担当の前澤先生がやって来た。


***


 実験はつつがなく進む。

 最初は気持ち悪がっていたりしていた人達も、楽しそうに顕微鏡を覗いていた。


「凄い、心臓が動いてるよ」


 ミジンコのセットされた顕微鏡を覗いて大喜びの日高さん。


「心臓だけじゃない、足だって動いてるんだぞ」

「本当だ、微生物やるなぁ……」


 微生物も生き物だからね。生きてるんだからね。

 男子と日高さんは喜んで見てるけど、野々村さんはパスらしい。

 高山君も、意外とおとなしくしている。


「二宮と高山は見ないのか?」

「僕は後でいいよ。こういうのはレディーファーストだ。悠希からどうぞ」


 すでにファーストではない気がするんだけど……高山君がおとなしかったのはそういうことだったのね。


「ヤバいよ、微生物マジでヤバい」


 まるで某リアクション芸人のようにヤバいを繰り返す日高さん。

 彼女にとってミジンコは相当ヤバかったらしい。


「じゃあ、見てみようかな……」


 顕微鏡を覗きこむと、そこにはプレパラートの上を元気に泳ぎ回るミジンコの姿があった。

 これは……この一生懸命生きてる感じが……ヤバい、ちょっとだけ可愛いかも……。


「ね? ヤバいでしょ?」

「うん……ヤバいね……」


 いつの間にかその言葉は、私にも感染していた。


「目が……目がぁああああ!!」


 実験室に響き渡る叫び声。

 そちらを見ると、小岩井君が両目を抑えて転げまわっていた。

 びっくりした……誰か滅びの言葉でも言ったのかと思った。


「いや……あまりにも押すなよって言うから、押さないといけない気がして……」


 加賀君が、気まずそうにそうぼやいていた。

 いやいや……小岩井君の目も心配だけど、顕微鏡が壊れたらどうするのよ。


 小岩井君の回復を待って、前澤先生のゲンコツが彼に落とされる。

 まあ、当然の結果だよね。

 みんな笑ってるけど、怪我も無くて顕微鏡も無事だったみたいでよかったよ。


「ミジンコも恋をするのかな……」


 顕微鏡を覗きこんで、なんだかロマンチックなことを言い出す高山君。

 節足動物で雌雄の区別があるんだから、恋とかそういう感情があるのかはわかんないけど、それに近い何かはあるんじゃない?


 そういえば、隆弘はちゃんと実験に参加してるのかな?

 ふと隆弘の方を見ると、一瞬目が合ったけどプイッと逸らされてしまった。

お読みいただいて、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ