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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その4 転校生の少年と幼馴染達の恋事情
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第60話 公園にて

 さて、部活も終わったし、玲美ん家に自転車を取りに行くか。


「じゃあな、伊藤」

「おう、おつかれ」


 校門を出てまだ明るさの残る夕焼けの中、俺は歩いていた。

 そういえば、小学生の頃からだ。

 あいつの家に自転車を置いて、一緒に学校に行くのが日課になっていた。

 すっかりこの道も慣れてしまったな。

 最近は朝練が多くてなかなか一緒に登校できないけど、落ち着いたらまた一緒に……。


 そんなことを考えていると、近くの公園に見知った顔があった。

 学生服のまま、ベンチに腰掛けているあいつは……宮下か?

 なんだかモゾモゾ動いてるけど、こんな時間に何やってんだ?


 陰からそっとのぞき込むと、宮下の手元には猫が横たわっていた。

 動物虐待か……と思ったが、猫から鳴き声が聞こえたので、どうやらそうではないらしい。


「……誰だ」


 気付かれた……?

 そんなに身を乗り出していたわけでもないんだが、なんという勘のいい奴。

 まあ、バレてることだし……コソコソしてても仕方ないか。


「よお、宮下」

「ん……なんだ、伊藤か」


 宮下は、俺をチラッと見ると、また視線を下にいる猫に戻した。

 こっそり見ていたことを怒っているわけではないようだ。


「それ、お前の猫か?」

「そんなわけねーだろ。野良だよ、野良」


 宮下は、そう言いながらも、野良猫の体を優しく撫でていた。

 見ると結構老猫のように見える。

 最近やたら気性の荒い場面ばっか見てきたけど、案外こいつって優しい奴なんだろうか。


「こんな時間に制服でうろついてるなんて、お前も部活の帰りか?」

「いや、家に帰ったら鍵が閉まっててよ……母さんは出かけてたみたいだし、鍵も持ってないからここで時間潰してたんだ。そろそろ帰ろうと思ったんだが、こいつがな……」

「俺も昔、そういうことあったな。弟も俺も、玄関の前で腹空かせて待ってたりしたもんだ」

「お前も大変だったんだな……」


 こいつとはあんまり話したことなかったんだけど、別に普通な感じだな。


「そういえば、お前やたらと高山に突っかかってるけど、何があったんだ?」


 ついでに、気になってたことを聞いてみることにした。

 すると、宮下は突然真っ赤な顔をして視線を下に落とした。


「あいつは……悠希に……キスをしやがった……」

「悠希って、二宮の事か? ああ、たしかに転校初日にいきなりはっちゃけてたよな。それで、なんでお前が……もしかして、二宮ってお前の彼女か?」

「ち、違う! ただの幼馴染だ! だけど……あいつが悠希の手にキスをしたとき、何とも言えない嫌な気持になったんだ……」


 それって……宮下の奴、二宮の事を好きってことなんじゃないのか?


「高山が悠希に話しかけるたび、なぜかもの凄くイライラして……村沢には本当に悪いことをしたと思う」

「ああ……村沢にはちゃんと謝ろうな」


 幼馴染か……要するに、宮下のこれまでの奇行は二宮に対する照れ隠しだったってわけだ。

 なんとなく好きになっていた子に、突然積極的にアタックをする奴が現れたりしたもんだから、焦って横暴な態度に出ちゃったんだろうな。


「まあ、間違いなくお前は二宮の事が好きなんだと思うよ」

「……俺が?」

「だって、高山が二宮にちょっかい出すのが嫌なんだろ?」

「それは……確かに……」

「だったら、お前もちゃんと二宮に好きだって伝えなきゃ駄目だろ」


 俺がそう言うと、宮下は何か考えるように一点を見つめていた。

 その下で、野良猫をモフモフする手は止まっていない。


「俺、あいつに言ったんだ……高山なんて無視しろって。そしたら、あいつは“そんな事はしたくない”って言ったんだよ。わけわかんねえ……もしかしたら、あいつも高山の事が好きなんじゃないか?」

「って、俺に言われてもな……」

「だよな……」


 モフモフする速度が速まり、ついに野良猫は仰向けに寝転がった。


「まあ、悩むより当たって砕けろだ。お前が二宮の事を好きなら、それだけでもしっかり伝えろ」

「あいつの事……好き……なのか、俺は……」

「じゃあ、俺はそろそろ行くよ。また学校でな」

「……ああ、またな」


 宮下に別れを告げ、俺は公園を出た。

 思ったより長居しちゃったな……早く帰ろう。


******


「へー。宮下君と二宮さんって幼馴染だったんだ」

「ああ、詳しくは聞かなかったけど、そう言ってた」


 悠太郎は、当たり前のように我が家のお手製ハンバーグを食べながらそう言った。


「あとは二人……高山を入れると三人の問題だし、俺達がとやかく言うことじゃないと思う」

「そうだね」

「雄太郎君、ご飯お代わりいる?」

「恐縮です」


 悠太郎の茶碗に、二杯目のご飯が盛られた。

 さすが、部活もしてきて育ち盛りの男子はよく食べるね。


 私も育つために、もっと食べた方がいいんだろうか……いや、これ以上はもう入りそうもないんだけど。


「お母さん、お父さんの分は大丈夫?」

「四合炊いておいたから、全然大丈夫よ」


 お母さんも慣れたものだ。

 さっきだって、悠太郎が食べていくと聞いて、すぐに悠太郎の家に電話を入れてたし。


***


 ご飯を食べ終わると、私と悠太郎は食器を片付ける当番に早変わり。

 私が洗った食器を悠太郎が布巾で拭いて……この流れもすっかり慣れてしまった感じ。


 片付けが終わったら、玄関まで悠太郎を見送りに行く。


「じゃあ、また明日、学校でな」

「うん。またね」

「そういえば、一つ聞きたいんだけど」

「なあに?」


 悠太郎は、自転車を止めて振り返った。


「幼馴染ってさ、お互いの事を好きになったりするもんか? お前も、幼馴染がいたよな、二人ほど……」

「ああ、小岩井と哲ちゃんね……そういうのは無いかな。お互い小さな頃から知り過ぎてるし、好きになるなんてないよ。あっちもそう思ってるんじゃない?」

「そうか……じゃあ、宮下も違うのかな?」

「どうかなぁ……私のケースが全部に当てはまるわけじゃないし、宮下君は少なくとも高山君に対して嫉妬してるんでしょ? じゃあ、やっぱり好きなんじゃない?」

「うーん……よくわからなくなってきた。もしかして、無責任なこと言っちゃったのかな、俺……」

「さっき、自分でも言ってたでしょ? あとは三人の問題だよ」

「そうだな」


 悠太郎は自転車に乗り帰って行った。

 彼が無事、家に着きますようにと祈って……さ、私もお風呂入って寝よっと。


 幼馴染同士で恋ね……小岩井に哲ちゃん……。

 うーん……やっぱりどう考えてもないね。

 でも、あの時見た壁ドンはやっぱり……そういうことなのかな。

 

***


 その日の晩、私は久しぶりに怖い夢を見て目が覚めた。

 それは、前に見た怖い夢に似ているんだけど、またちょっと違う内容の夢。


 やっぱり、どんな夢だったのかははっきりと思い出せない。

 でも、なんて言ったらいいのかわかんないんだけど……忘れちゃいけない内容だったような気がする……。

読んでいただいて、ありがとうございました。

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