第52話 お母さんとお出掛け
福井での生活も、だんだん馴れてきた。
でも、やっぱり、遊びに行くところが少ないというのは少し退屈な感じ。
スイカを食べながら、縁側で過ごす。
涼しい風が、汗ばんだ頬を撫でて行く。
「玲美ー、暇なら釣りでも行くか?」
ゲームをやめた明憲兄ちゃんが、私に声を掛けてきた。
釣りかぁ……悪くないけど一昨日やったばっかだし、今日はもっと別のことしたい。
「うーん……今日はパス」
「そうか。兄ちゃんも出掛けてるし、退屈やなぁ……」
「源一兄ちゃん、どこ行ってるの?」
「明日やる祭りの準備手伝いに行ってる」
祭り?
へー。こっちでも、お祭りがあるんだ。
「暇やなぁ……」
「そんなに暇なら、宿題やったらどうや?」
「んげっ!? おとん……!」
「お前、ほとんど終わっとらんのやろ。もうあと二週間もないんやで。玲美ちゃんはもうほとんど終わっとるそうやないか」
「あんなもん、夏休み終わってからでも間に合うっちゅうねん!」
夏休み終わった時点で間にあってないと思うんだけど。
なんだかんだ言いながら、伯父さんに怒られて宿題をやり始める明憲兄ちゃん。
こんなことなら、私も宿題残しておけばよかったな。
「玲美、退屈ならお母さんと出掛けない?」
「あ、お母さん」
「いいところに連れてってあげる」
「本当!?」
「叔母さん、俺も行く!」
「お前は宿題があるやろ!」
後ろの方でゴツンと音が聞こえたけど、気にしないでおこう。
お母さんとお出かけかぁ。どこに連れてってくれるんだろうね。
「じゃあ、準備して行きましょう」
「うん!」
お母さんと私は、二階に上がって行った。
***
「たまにはこうやって、女だけで出掛けるのもいいでしょ」
「そうだねー」
お母さんの運転する車に乗るのって、風邪ひいた時以来かな。
普段はお父さんが運転してるもんね。
「まったく……お父さんったらタバコばっかり吸うから、エアコン付けるとタバコ臭いわ」
「タバコやめればいいのにね。健康にもよくないのに、なんでお父さん吸ってるんだろう?」
「何度もやめさせようとしたんだけどね……」
「ヘビースモーカーってやつだね」
車は山道を抜けて広い道に出た。
この前商店街に行った時とは違う道かな? お母さんも結構道知ってるんだね。
「お父さんと付き合ってた頃は、私が地図見ながらナビゲーターをしてたのよ」
「お母さん、地図見れるんだ。凄いね」
「ああ見えて、お父さん方向音痴なの。地元には強いんだけどね」
私の方向音痴は父譲りか。
「この先に、大きなデパートがあるのよ。なにか欲しいものがあったら、お母さんが買ってあげる」
「ほんとに? いいの?」
「その代わり、お母さんも買うけどね。お父さんには内緒よ。わかった?」
「うん、絶対に言わないよ」
前に見えてきた大きな建物が、そのデパートみたい。
めっちゃ広い建物だね。
駐車場だけで近所のデパート5個くらい入っちゃうんじゃないの?
***
お店の中に入ると、ひんやりした空気が流れ込んできた。
福井にも、こんなに大きくて広いデパートがあったんだね。
「今日は、お父さんに遠慮しないでゆっくりお買い物ができるわね」
「お父さん、すぐ帰りたがるもんね」
「さあ、まずは服を見に行きましょう」
「うん。行こう」
二階も凄く広い。
これだけ広いと、回ってるだけで一日過ぎちゃいそう。
「見て玲美、このキュロット可愛くない? 買ってあげようか?」
「うーん……それよりも、こっちのワンピースがいい」
「あんた、ワンピース好きだねえ」
「あまり考えずに着れるから楽じゃん」
「若いうちからそんなんじゃ駄目よ。もっとファッションを楽しまないと」
お母さんはなんだかんだ言いながら、私に着せる服ばかり選んでいる。
自分のは選ばなくていいのかな。
「まずはあんたの服からね。でも、絶対これから大きくなるから少し大きめ選ばないと」
「おー、私も大きくなれるの?」
「当たり前でしょ。あんたの成長の仕方、私と良く似てるもの。もう少ししたら一気に伸びるわよ」
「ねえ、胸も大きくなるかな?」
「それは……お母さんを見て察しなさい」
二階の服屋さんを、お母さんとあちこち回った。
こうやって試着してるだけでも楽しいね。
お母さんと私のファッションショー。
結局私は、最初に見て気に入ったワンピースを買ってもらった。
お母さんは、少し落ち着いた感じの色の花柄のスカートを買っていた。
「やっぱり、家計のことを考えると無駄遣いはできないねぇ」
「でも、いろんな服が見れて楽しかったね」
「そうね」
その後、一階のフードコートで美味しいクレープを食べて、お父さん達へのお土産に焼きたてのパンをいくつか買った。
中にチョコレートが入ってるパンは美味しそうだね。
「じゃあ、次行きましょうか」
「ん? まだどこか行くの?」
「せっかく娘と二人で水入らずなんだもの。もうちょっと楽しんで行きましょう」
デパートを出て車に乗り込む。
今度はどこに連れてってくれるのかな?
***
しばらく走ると、車は海沿いに出た。
福井にも海があったんだ。
少し傾いてきた太陽が、水面に反射して輝いている。
「お父さんとお母さん、ここでよくデートしたのよ」
「おー、思い出の場所なんだね」
「ちょっと寄って行きましょうか」
駐車場に車を止めて、お母さんと二人で海沿いをお散歩。
「玲美がまだ三歳の頃、ここに連れてきたことがあるのよ。覚えてる?」
「ううん」
「そう……あの頃のあなた、急に甘えんぼさんになってね。まるで、これが最期かのようにお父さんや私にべったりだったわ」
それを聞いて、私はふとあの洋菓子の箱の中にあった似顔絵を思い出した。
三歳……本当に最期だったんだ……。
私という新しい人格が生まれ、前世の私としての記憶は消えて行くところだったはず。
だから、もしかしたら前世の私はお父さんやお母さんと過ごした思い出を残そうと必死だったのかもしれない。
「そろそろ帰って、おばあちゃんのお手伝いしなきゃね。男共だけじゃ何もしやしないんだから」
「そうだね。 ……ねえ、お母さん。私も、お父さんとお母さんのこと大好きだよ」
「ん? どうしたの、急に」
「なんとなく、そう言いたくなっただけ。さ、帰ろうよ」
「変な子……でも、お父さんもお母さんも、玲美のことは大好きよ」
お母さんはそう言って私の頭を撫でた。
***
おばあちゃんの家に帰ると、明憲兄ちゃんの宿題を源一兄ちゃんが見ているところだった。
「おお、玲美……もう、俺は駄目や……」
「宿題するだけでそんな大げさな……てゆうか、まだやってたんだ」
「こんなペースじゃ夏休み中に終わらんぞ」
「じゃあ、兄ちゃん代わりにやってくれや」
「俺がやったら字でばれるだろ」
お父さんと、伯父さんは居間で時代劇を見ていた。
台所の方から包丁を叩く音が聞こえる。
「おばあちゃん、手伝うよ」
「ありがとよ、玲美」
お母さんもやってきて、三人で料理を作る。
とは言っても、私は野菜の皮をむいたり洗い物がメインだけどね。
やがて食卓に料理が並び、みんなで楽しい晩ご飯。
虫達の音を聴きながら、福井の静かな夜は今日も更けて行く。
お読みいただいて、ありがとうございました。




