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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その3 わたしのなつやすみ
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第48話 F県へGo!(2)

 遠かった……。

 お父さんは遠いと言っていたけど、あれから更に二時間かかるとは思っていなかったよ。


 林道を抜けて、橋を越えてようやく車は止まった。

 ここが、おばあちゃんの家? 思っていたよりもずいぶんと大きな家だ。


「よく来たねえ」


 玄関が開くとピロピロと音が聞こえ、白髪交じりの女性が出てきた。

 この人が私のおばあちゃんなんだ。

 なんとなく、見覚えがある感じがする……幼かった私は前世の私だったけど、前世の私もなんて言ったらいいのかわかんないけど、たしかに私だったんだね。


「玲美ちゃんかい? 大きくなったねえ」

「おばあちゃん、えっと……ご無沙汰してました?」

「そんなに気を遣わなくてええんよ。こうして来てくれただけで私は嬉しいんだから」


 おばあちゃんの話し方は、どこか懐かしい感じがする。

 どことなく優しい感じの言葉だった。


「おかん、先に荷物置かせてもらうで」

「ああ、長旅ご苦労やったな」


 あれ? お父さん、口調変わってない?


「お父さんね、実家に帰ってくると方言が完全に戻るのよ」

「なんだか変な感じだね」


 私達の泊まる部屋は二階にあるみたい。

 まずは荷物を運ばなきゃね。

 おばあちゃんも、私達の荷物を運ぶのを手伝ってくれてる。


「おばあちゃん、大丈夫?」

「なぁに、このくらい平気平気」


 結構急な階段なんだけど、本当に大丈夫なのかなぁ。


「おかん、手摺り付けたんやな」

「あんたと大作がうるさかったからな」


 これだけ急な階段なのに、手摺り無かったんだ。

 お父さんが心配してたのもわかるなぁ。


「これで全部か?」

「はい、ありがとうございます、お義母さん」

「なんてことないさ」


 その後、お母さんと私は荷物を整理してから下の階に向かった。

 伯父さんと従兄弟のお兄ちゃん達に挨拶するんだって。

 どんな人達なんだろうね?


***


「大きくなったな、玲美ちゃん!」


 私は今、お父さんとは真逆の感じのどこか荒くれな感じのする伯父にひたすら頭を撫でられている。


「前に会った時は、こんなに小さかったのにな」


 そう言って少しかがむと、膝の高さくらいに手をかざす伯父。

 私ってそんなに小さかったの?


「俺の事は覚えとらんやろな」

「ごめんなさい……」

「謝らんでええよ。ほら、お前もゲームばっかやっとらんで玲美ちゃんに挨拶せんか」

「ちょっと待って、もう終わる」


 何やらテレビゲームに夢中っぽい従兄弟のお兄ちゃん。

 二人いるって聞いてたけど、今は一人だけみたいだね。


「待たせたな。俺は明憲、よろしくな」


 どこかスポーティーな感じのお兄ちゃん。

 私より一つ上って事は、中学二年生なんだ。


「よろしくね、明憲兄ちゃん」

「お、おう! 聞いたかおとん、俺お兄ちゃんやで!」

「お前、妹が欲しいって言っとったもんな。玲美ちゃん、存分にこいつに甘えてやってくれ」


 大きな笑い声を上げながらそう言う伯父。

 悠太郎や由美を見て兄弟って良いなあって思ってたから、私もお兄ちゃんができたみたいで嬉しいよ。


「兄さん、晶子(あきこ)義姉さんは来なかったのかい?」

「腰痛が悪化してな、今回は家で待っとるってよ」

「それは残念やったな」


 晶子さんっていうのは、伯父さんの奥さんの事みたい。

 つまり、私にとっては伯母さんだね。

 お母さんも会えなくて残念って言ってた。


「なあ玲美ちゃん、せっかくだからこのド田舎を見て回ってきたらどうや? S岡じゃこんな風景滅多に見れんやろ?」

「そうですね……ちょっと見てこようかな」

「おう、敬語はええで。俺らは親戚なんやからな」


 そうは言っても、大作伯父さんはなんだか迫力があるから……つい敬語になってしまう。


「明憲、お前玲美ちゃんを案内してやれ」

「任せとけ。なんせ俺はお兄ちゃんやからな」


 得意げに胸を張る明憲兄ちゃん。

 そうだね。私一人で外を見てきてもいいけど、やっぱり誰かと一緒に行った方がいいのかもしれない。


「なあ玲美、お前釣りはするか?」

「釣り? 魚釣りの事?」

「そうそう、この辺はな、川も綺麗やから是非連れて行ってやりたいんや」

「面白そうだね。うん、川に行きたい」


 明憲兄ちゃんは、手馴れた感じで釣り竿を用意し始めた。

 私も何か準備した方がいいのかな?


「お前はこれかぶっとけ」

「麦わら帽子?」

「外の日差しは厳しいからな。熱中症で倒れでもしたら、俺が怒られてしまう」

「そっか……ありがとう、明憲兄ちゃん」


 ちょっと大きめの麦わら帽子。

 S県よりだいぶ涼しい土地みたいだけど、それでも今は夏だもんね。

 明憲兄ちゃんは、野球チームの帽子をかぶっていた。


「じゃあ、行ってくるで」

「気を付けてな」

「夕飯までには帰ってくるのよ」


 お母さんの話だと、ここでの夕飯の時間は夕方5時みたい。

 いつもうちは7時頃食べてたから、めっちゃ早いって感じるけど、こっちじゃそれが普通なんだろうね。


 玄関を出て、さっき車で越えてきた橋の方に向かう。

 私も持つって言ったのに、荷物は全部明憲兄ちゃんが持っていた。

 釣り竿と網と、いろいろ入ったバッグ。

 明憲兄ちゃんは力持ちらしい。


「あんたら、日高さんとこの孫かい?」


 突然知らないおばあさんに話し掛けられる私達。


「はい、そうですけど」

「そうかそうか、やっぱりな。どことなく大作君や幸治君に似とったからな」


 私達って、どっちもお父さん似らしい。

 明憲兄ちゃんも、たしかに雰囲気とか伯父さんに似てるかも。

 このおばあさんは、うちのおばあちゃんの幼馴染らしい。

 目の前にある酒屋さんの人なんだって。


 F県探索は一時中断して、私達はしばらく酒屋のおばあさんと話していた。


「玲美ちゃんはずいぶん遠くから来たんやなあ。ほら、ジュースやるから持っていきな」

「あ……ありがとうございます」


 オレンジジュース貰っちゃった……お店の商品なのに、いいのかな?

 ついでにお菓子も幾つか貰った私達。


「おおきにな」

「ありがとうございます」

「二人とも、気を付けて行っといでな」


 酒屋のおばあさんに別れを告げ、私達はF県探索を再開した。


***


 川辺に降りられる場所を探して、山道を歩く。

 なんとなくだけど、S県よりも空気が美味しい感じがするね。


「お、フキがいっぱい生えてるな」

「フキ?」


 明憲兄ちゃんの指差す方を見ると、小さな葉っぱをつけた植物がいっぱい生えていた。

 フキって、あのフキだよね? あれってもっと大きく無かった?


「自然に生えてるフキってのは、こんなに小さいんやで」

「へー。じゃあ、これって食べられるの?」

「もちろん。少し採ってくか」


 明憲兄ちゃんはフキの中でも大きめのものを選んで摘んでいく。

 私も真似していくつか採取してみた。

 折った先から、たしかにフキのにおいがするね。


「こんな風に生えてるの初めて見たよ」

「やっぱり都会の子やな、玲美は」


 うちってそんなに都会なんだろうか?

 ああ、でもこんなに自然は残って無いから、ここから見たら都会なんだろうね。


「いよいよ川に降りられるな」

「おー、やった」


 明憲兄ちゃんの後を付いていくと、竹で作られた梯子のかかった場所に出た。

 おお、結構高さがあるね。


「女の子には厳しいか? なんなら別の場所を探すけど」

「別に平気だよ」

「そ、そうなのか?」

 

 まず、明憲兄ちゃんが梯子を降りて行く。あんなに荷物持ってるのに、大丈夫なのかな?


「大丈夫?」

「おう、このくらい平気や」


 片手でスイスイと降りていき、明憲兄ちゃんはあっという間に下に着いていた。

 さすが、中学二年生にもなると違うね。


「俺は少し離れとくからな。安心してええで」


 そう言うと、荷物を持って離れる明憲兄ちゃん。

 あれ? 下で待っていてくれないの?


「お前、スカートやん。下に俺がおったら丸見えや」


 おおう、忘れてた……。


***


 川辺に出ると、綺麗な景色が広がっていた。

 大きな樹木が影を作り、S県では見た事もないような透き通る水が流れている。

 この水、下手すると飲めるんじゃないの?


「どや? この川、綺麗やろ」

「ほんと、綺麗……」


 川の水に手を触れると、夏なのにひんやりしていて冷たい。

 足を入れてみると、その冷たさに思わず身震いしてしまうくらい。


「奥の方は流れが速いから気を付けろよ」

「うん」


 周囲からは川の流れる音以外にも、鳥達のさえずる声が聞こえてくる。

 何だろう、この癒やされる感じ……。


「じゃあ、俺は釣りの準備するか」


 明憲兄ちゃんは釣り竿を組み立て始めた。

 私も岸に戻ろっと。

 その時、川の岩に何か蝶みたいなものが止まるのが見えた。


「おお、トンボだ」

「それ、カワトンボちゅうやつやな」


 カワトンボ……S県にも川はあるけど、こんな綺麗なトンボいないよ。

 羽根が茶色で、緑色っぽく光る細い体。


「綺麗な川にしか棲まないんやで」

「たしかに、ここってすごく綺麗な川だもんね」


 そっと近付いたつもりだったけど、逃げられちゃった。

 悠太郎や琢也が見たら、絶対捕まえようとするんだろうなぁ。


「ほら玲美、釣ってみるか?」

「いいの?」


 明憲兄ちゃんに釣り竿を渡されて、言われた通りに投げてみた。

 こんなに透き通ってる水なのに、魚の姿は見えないような……本当に、これで釣れるのかな?


「魚が食いついたらビクッと来るから、慎重に引くんやで」

「う、うん……」


 初めての魚釣り。

 どんな風に魚が釣れるんだろうね。

 しばらくじっとしていると、なんかブルっとした感じが伝わってきた。


「明憲兄ちゃん、なんかブルっとした」

「お、釣れたか? 慎重にあげるんや」

「うん、がんばる……」


 慎重に、慎重に……ちょっと重い気がするし、引くたびに手に伝わる感触がビクビクってしてる。


「わ、魚だ!」


 上げてみると、糸の先には魚がいた。

 ビクビクって跳ねて……すごい、生きてる。


「やったな。これは……ウグイや」

「ウグイ? 鳥みたいな名前だね」

「それはウグイスな。綺麗な魚やろ」

「ねえ、これって食べれるの?」

「あんまり食わん魚なんちゃう?」


 綺麗な川の魚だから食べられるかと思ったら、これは食べられないみたい。

 それにしても、こんな綺麗な魚がいるんだね。

 初めての魚釣りで、魚が釣れたことに思わずちょっと興奮しちゃった。


「イワナなら食えるけど、それが釣れるのはもっと奥の方やで」

「イワナ?」

「明日、行ってみるか?」

「うん」


 その後、私と明憲兄ちゃんは、魚釣りを楽しんだり辺りを散歩したりして、夕方頃に家に戻った。

 漂ってくる美味しそうなご飯の香り。

 いっぱい歩いたから、いつもより早い時間なのにお腹が空いちゃったみたい。


 美味しいご飯も食べ終わり、F県の一日目の夜は更けて行く────。

お読みいただいて、ありがとうございました。

もらったお菓子は、夕食後みんなで食べました。

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