第46話 神社にて(6)
戻ってきました┏(<:) ペコチョン♪
皆さん、お祭りを楽しんでいるでしょうか?
僕は今、由美と一緒にお祭りを楽しんでいます。
大好きな彼女とこうしてお祭りを楽しめている僕は幸せものです。
「あーあ、もう網が破れちゃったよ」
「残念だったね。由美の分も僕が頑張るよ」
金魚掬いの網は、水に濡らすとすぐ破れてしまうように思われがちですが、実はそうではありません。
むしろ、少し水に濡らしておいた方が破れにくくなるのです。
由美は出目金と小さめの金魚を合計3匹掬ったところで終了となってしまいました。
おそらく、外れの網を受け取ってしまったのでしょう。
僕は運よく当たりの網を受け取ることができたようです。
噂ですが、網には当たりと外れがあり、それぞれで耐久度も違うのだとか。
現在5匹の金魚を掬ったところで、まだ僕の網は余裕が有ります。
「ちなみに、この金魚掬いの網だけどね、正式には網じゃ無くてポイって言うんだよ」
「おー、さすが順! 物知りだね!」
由美が尊敬の眼差しで僕を見てきます。
ああ……なんと可愛いのでしょう。
思い切って告白して良かった。まさか、こんなに可愛い子が僕の彼女になってくれるなんて、今でも夢みたいです。
「今度、玲美にも教えてあげなくちゃ」
僕が教えた知識を玲美さんに教えるのが、今の彼女のマイブームだそうで。
何にしても、喜んでくれているようでなによりです。
さて、どの金魚を狙いましょうね。
「由美、たぶん僕のポイも次で破れる。最後だから君の好きな金魚を狙ってあげるよ」
「本当に? ね、どれでもいいの?」
「うん、どれでも言ってごらん」
考え込む彼女。水槽の中の金魚を吟味しているようです。
さあ、遠慮なくどんな獲物でも言ってごらん。
「じゃあね……あれがいい!」
「え……?」
由美の指差した獲物を見て、僕は驚愕しました。
なんで……なんで、こんなものが金魚掬いにいるんだ……!?
「あれは……ドジョウじゃないか……」
ニヤリと笑う店主。
期待の目で見つめる彼女。
「ね、掬って! わたしドジョウ飼った事無いの!」
「え……」
どうやら由美はドジョウを飼いたいみたいです。
明らかにポイよりも大きな獲物……あれは……ポイを破壊する為に入れられたイレギュラーとも言える存在。
うーん……困った。
掬うにしても、肝心のドジョウは水槽の深くに佇んでいます。
これでは、普通に狙っただけではポイを沈めただけで破れてしまう。
「由美、少し待ってもらっていいかな?」
「うん。ねえ、あれ取れそう?」
「やってみなくてはわかりません……」
そう、やってみなくてはわからない……彼女の期待に応えるために、ここで弱気になっているわけにはいかない。
「兄ちゃんよ、男には度胸も必要だぜ」
急かすように店主から声を掛けられる。
一筋の汗が僕の頬を伝いました。
僕は、ただ待ちます。
ドジョウが水面へ上がってくるのを、ひたすら待ちます。
その時、獲物が水面向かってへ上昇を始めました。
────今だっ!!
「クッ……!!」
斜めに水に入れた瞬間、ポイの端が破れてしまった。
勢いは殺したはずだったのに、どうやら僕のポイも思った以上に限界が近かったようです。
「順……がんばれ!」
「由美……」
諦めるわけには……いかない!
まだだ……たかが、右端をやられただけだ!
左端に集中して……水槽の端へ追い込み獲物を狙う作戦に切り替える。
「順……わたしやっぱり、ランチュウが良いかも」
「え……?」
……なんてこった。
たしかに、女心は変わりやすいと言いますが……。
いえ、いつ何時でも彼女の期待に応えるのが彼氏の役目です。
きっとそうなのです。
泳いでいたランチュウを端に追い込み、僕は破れていない部分を使って掬いあげた。
役目を終えたポイは、ランチュウをお椀に掬いあげてすぐ破れた。
「順、凄い! やったねー!」
「由美が応援してくれたおかげだよ」
「やるな、兄ちゃん」
そう言うと店主は、僕が掬いあげた合計6匹の中にそっと、ドジョウも混ぜてくれました。
「これはサービスだ」
「店主……ありがとうございます!」
「え……もう、ドジョウいらないんだけど……」
由美のその発言を聞いて、僕も店主も心の中でそっと泣いた。
*─*─*─
境内に来ると、みんなもう集まっていた。
ちょっといろいろ買ってたから遅くなっちゃったかな?
綿菓子も買ったし、お母さんに頼まれてたシュガーパイプも買った。
「玲美、見て! 金魚いっぱいだよ!」
由美は、よっぽど嬉しかったのか金魚のたくさん入った袋を私に見せてきた。
その中に、明らかに金魚じゃない生き物がいるような……なにこれ……ドジョウ?
「遅かったな」
そう言って腕組みをしている謙輔の顔には、某特撮ヒーローのお面が装備されていた。
「玲美、お祭りは楽しかった?」
恵利佳はヨーヨー釣りをやっていたみたいだ。
右手で水風船がポンポンと跳ねていた。
「その模様、綺麗だね」
水色の中に絵の具を溶かしたような模様の入った水風船。
なんとなく恵利佳の少し大人な雰囲気と似合っている気がする。
「そういえば、恵利佳は誰と回っていたの?」
恵利佳と瑠璃に、一緒に回ろうって言ったのに恵利佳に『二人で行ってらっしゃい』と気を遣われてしまった。
「私も小柳さんも、渡辺君達と一緒に回っていたのよ」
「そうだったんだ……気を遣わせちゃってごめんね」
恵利佳はううんと首を振った。
「私にとっては、こうしてお祭りを楽しめるようになっただけでも幸せな事だし、嬉しい事なの。それもこれも、あなたが私を悪夢から救ってくれたから……」
「恵利佳……」
この境内は、私と恵利佳にとって思い出の場所だった。
恵利佳と初めて出会った場所でもあって、初めて友達になった場所でもある。
「あの日、この場所で泣いていた私を、あなたが助けに来てくれた時の光景、今でも鮮明に思い出せるわ……」
「玲美、この焼きそば美味いぞ」
なんとなくしんみりした空気になっていたところに瑠璃のこの発言。
まあ、瑠璃らしくていいんだけどね。
「あたしも玲美に助けてもらったんだ」
割り箸を片手にニコッと笑う瑠璃。
うーん……結果的には私が助けたわけじゃないと思うんだけど……。
「小柳さん、よっぽど嬉しかったのね。ずっと私達にその話をしてたのよ」
「そうなの?」
「ええ……。聞いていて、ちょっとだけ妬けちゃったわ……」
妬けちゃったって……どういうことっスか、恵利佳さん?
それを聞いて、思わずドキドキする私。
「俺の彼女だからな」
そんな恵利佳と瑠璃に、対抗意識を燃やす悠太郎。
「せっかく祭りに来たんだし、俺達も踊りに行こうぜ!」
謙輔はやぐらに向けて駆け出して行った。
私達もその後に続いた。
この地域に伝わる伝統的な音頭らしい曲に合わせて、見よう見真似で踊ってみた。
踊り方はめちゃくちゃだったけど、みんなで踊って楽しかった。
お祭りも楽しいけど、こうしてまたみんなで集まって、それが私にとっては一番楽しかったのかもしれない。
楽しい夜はあっという間に過ぎて行く。
来年も再来年もまた、こうしてみんなで集まろうね。
そう言って、私達は解散した。
来年も、再来年もずっと、こうしてみんなで────。
***
気が付いたら腕とか足とか、あちこち蚊に刺されていた。
虫よけスプレーかけておいたのに、あまり効かなかったみたい。
「お母さん、シュガーパイプ買ってきたよ」
「あら、ありがとう。お父さん、玲美が買ってきてくれたわよ」
「おお、これだこれだ」
お父さんもお母さんもシュガーパイプに大喜び。
なんでもこのお菓子、二人の思い出のお菓子らしいよ。
一体どんな思い出があるんだろうね?
「お祭りは楽しかった?」
「うん、みんなで踊ったんだよ」
私は、お母さんにお祭りの中であった出来事を話した。
ひとしきり話し終えて、部屋に戻った私は、悠太郎が取ってくれた貯金箱を早速飾った。
可愛い三毛猫の描かれた貯金箱。
私の部屋に、また宝物が増えた瞬間だった。
お読みいただいて、ありがとうございました。




