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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その3 わたしのなつやすみ
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第45話 神社にて(5)

 神社の鳥居の前。

 いつもは静かなこの神社も、今日は夏祭りということでたくさんの人で賑わっていた。


 集まったメンバーは、私も含めてなんと10人。

 私と悠太郎、由美と順と琢也と朱音と、あとは謙輔、森山さん、恵利佳と瑠璃。

 お祭りの中を動き回るには、この人数はちょっと多過ぎたかもね。


「それにしても、大所帯になったなぁ」


 謙輔が呆れたような顔で言った。

 その陰で、すっかり大人びた雰囲気の森山さん。


「森山さん、久し振り! 元気だった?」

「ええ、元気よ。それより日高さん、渡辺君から聞いたんだけど相変わらずなんですって?」

「え……? ええっと……謙輔? 何言ったんだ、あんた……」

「いや……ハハハ……」


 苦笑いの謙輔。

 あれ? そういえば、森山さんって謙輔の事、たしか“渡辺様”って言ってなかったっけ?

 きっと、そう呼ぶのはもうやめたんだね。


「それにしても沢木、お前本当に変わったな。最初見た時どちら様かと思ったぜ」

「渡辺君まで……。そんなに変わりましたか? 僕……」


 みんな、あれから背が伸びたり髪型が変わったりはしてるけど、単純に見た目だけならたぶん順が一番変わったと思うよ。


「いや、良い意味でだ。やっぱり恋をすると人って変わるもんなんだな」

「きょ、恐縮です……」


 浴衣姿の由美をチラッと見て頬を染める順。


「えっと、沢木……君だっけ? なんか、玲美や由美と一緒にあたしの為に動いていてくれたんだって? ありがとな!」

「いえいえ、ご無事で何よりです」


 瑠璃の痣はまだ完全には癒えていない。

 顔の痣はほとんど目立たなくなってきたんだけど、まだ少し残っている。


「玲美達から聞いたんだけど、お前大変だったらしいな」

「まぁ、大変だったというか……もう過ぎた事だよ」


 瑠璃と謙輔がこうやって話してるのはなんだか新鮮な感じだ。


「悠太郎、水族館はどうだったんだ?」

「楽しかったよ。またどこかいい場所があったら教えてくれ」


 悠太郎は、琢也と楽しそうに話していた。


***


 さすがに大所帯過ぎるということで、しばらくの間それぞれが好きなようにお祭りを回って、八時頃になったら境内に集合ということになった。


「悠太郎、どこか回りたいところある?」

「そうだな……射的がしてみたいな」

「じゃあ、そこ行ってみようか」


 悠太郎のリクエストに答え、射的の屋台を探す。

 射的って、銃で景品を狙って落とすやつだったよね。


「悠太郎って射的上手いの?」

「そこそこ自信はあるよ。玲美が欲しいものがあったら、俺が取ってやるよ」

「マジで? じゃあ、私は欲しい景品をがんばって選ぶよ」

「おう、がんばれ」


 しばらく歩くと、なんだかどこかで見たような屋台を見つけた。

 美味しそうな焦げた醤油の香りが私を誘う。


「やっぱり……」

「どうした? 玲美」

「毎度! 焼きたてのタコ焼きだよ!」


 このおっさん……あの時の。


「今ならお得な二個増量中!」

「マジですか!?」

「玲美、あっちに焼きトウモロコシが売ってるぞ」

「トウモロコシ!?」


 悠太郎の指差す対面には焼きトウモロコシの屋台が……こっちはこっちで、また別の焦げた醤油の香りが食欲をそそる。


「ど……どうしたらいいんだ……」

「なんだ玲美? 腹減ってるのか?」

「とれたて新鮮! 焼きトウモロコシだよ!」


 タコ焼きも捨て難いけど……焼きトウモロコシってお祭りくらいでしか見掛けないよね。

 やっぱりここは焼きトウモロコシにしようかな。


「おっと、手が滑っちまった。タコが二個ずつ入っちゃったよ」

「マジッすか!?」

「こりゃあもう、このまま次買いに来た子に売るしかないわな……お値段そのままで!」

「タコ焼きのタコってそんなに美味しいか?」


 タコ焼きのおっさんのうっかりっぷりに、思わず財布に手が伸びそうになった時だった。


「うちの醤油は秘伝の醤油でね……他じゃ食べられないんだよなぁ」

「秘伝ですって!?」

「それはまた、美味しそうだな」


 ただでさえレアな焼きトウモロコシなのに、秘伝の醤油だなんて……。

 これには冷静に状況を見守っていた悠太郎も反応を示した。


「今回は、うっかり青のりを増量しちゃうかもわからんね」


 タコ焼きのおっさん、また自分を制御できなくなってる!?

 てゆうか、おっさん……“今回は”って、あなた私のこと絶対覚えてるよね!?


「どうしよう……」

「じゃあ、俺は焼きトウモロコシ買うから、お前はタコ焼き買ったらどうだ? 半分こしたらいいだろ?」

「あ、そっか」


 こうして私はタコ焼き、悠太郎は焼きトウモロコシを買うことにした。

 どっちも美味しそうだね。ベンチに行って、さっそく食べましょうね。


「どうする? トウモロコシ、半分に割るか?」

「割れる?」

「割れるけど、手がベトベトになる」

「じゃあ、悠太郎が先に食べて。余ったの貰うから」


 あのお買いものの日、ついに買う事は無かったあのタコ焼きが目の前にある。

 おっさんは結局、カツオブシも増量してくれた。

 というか多過ぎてタコ焼きが見えない。


「いただきまーす」


 一口食べると、外はサクサク、中はじゅわっと出汁の効いたさっぱりした醤油味が口の中に広がった。

 これは……美味しい!

 タコもほどよい触感で硬すぎず柔らかすぎずって感じ。


「悠太郎、このタコ焼きめっちゃ美味いよ!」

「そうか。じゃあ、俺にも分けてくれ」


 口を開ける悠太郎。

 うん。放り込んであげるけど、あーんは言わないからね?


「これは……たしかに美味いな」

「でしょー?」

「じゃあ玲美も、こっち口付けてないからトウモロコシ食べてみろ」

「うん。いただきまーす……おお! 美味しいね!」

「だろ? 歯に挟まらないように気を付けろよ」


 こうして、私と悠太郎はしばらくタコ焼きと焼きトウモロコシに舌鼓を打った。

 お祭りの屋台で買ったものって、なぜか普段より美味しく感じるね。


***


 ついに見つけた射的の屋台。

 私は今、景品と睨めっこしています。


「欲しいのあったか?」

「あれ! あの猫の貯金箱がいい!」


 可愛い猫のキャラの描かれた貯金箱。

 三毛猫の絵が可愛らしい。

 たぶん、あの貯金箱があれば、私はたくさんの貯金できると思う。


「よし、任せとけ!」

「がんばって、悠太郎!」


 真剣に銃を構える悠太郎。

 その表情は、あのボウリングの最終フレームの時に見た表情に似た何かを感じる。


 パシュッと音が聞こえ、悠太郎の放ったコルクの弾は見事に貯金箱を捉えた。

 衝撃に揺れる貯金箱……でも、まだ落ちない。


「惜しかったな、兄ちゃん」

「次は落とす」

「がんばって、悠太郎!」


 再び構える悠太郎。

 周りはこんなに騒がしいのに、一瞬静寂が辺りを包んだような気がした。


 そして、再び響く発射音。今度は少し上の方に弾が当たった。

 揺れ動く貯金箱……でも、落ちない。


 すると、悠太郎は最後の弾をすぐに詰めて、再び貯金箱目がけ放った。

 正確な射撃は、さっきと同じ場所に命中。まだ揺れていた貯金箱は大きく揺れて……ついに落ちた。


「やったー! 凄いね、悠太郎!」

「やるな……兄ちゃん。ほれ、もってけ」


 屋台のお兄さんから貯金箱を受け取る悠太郎。

 その額には汗が滲んでいた。

 きっと、彼の中ではもの凄い戦いが繰り広げられていたに違いない。


「ほら、玲美にやるよ」

「ありがとう! これでがんばって貯金するね!」

「おう、がんばれ」


 悠太郎が取ってくれたこの貯金箱、大事にするよ。

 さあ、次はどこに行こうね?

お読みいただいて、ありがとうございました。

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