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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その3 わたしのなつやすみ
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第43話 水族館デート(3)

 水族館と言えば、ウミガメもいいけどやっぱりイルカショーだよね。

 私達は、イルカショーが行われるスタジアムに向かった。


 夏休みってこともあって、たくさんの人だ。

 最前列はもう空いてないみたいだけど、せっかくだからできるだけ近くでイルカを見たいな。


「前の方に行こうよ」

「おう。そういえば俺さ、実際にイルカを生で見るのは初めてなんだよ」

「私もだよ。トレーナーの掛け声でジャンプしたりするんでしょ? 賢いよね」


 悠太郎と話しているうちに、会場にアナウンスが響いた。

 いよいよイルカのショーが始まるみたい。


 鳴り響く軽快なリズム。

 それに合わせて、水面からイルカ達が飛び出してきた。


「すごーい! 跳んだよ、悠太郎!」

「あんな大きな体であんなに跳べるんだな」


 プールの中をトレーナーを乗せてクルクルと回るイルカ達。


「あれ! 私も乗ってみたい!」

「簡単そうに見えるけど、立ってる方も相当だと思うぞ」

「あ、今度はフラフープ回してるよ!」

「器用だな……っていうか、イルカにどうやってあんな芸仕込むんだ?」


 イルカって、魚みたいな姿してるけどめっちゃ賢いんだね。

 今度はなんと、プールサイドに上がってリズムに合わせて踊り始めた。

 可愛いけど、水から出ちゃって大丈夫なの? ちょっと心配になる。


「ねえ、人間だってよっぽど練習しないとあんなに動けないよね?」

「それ以前に人間はあんなにジャンプできないし、やっぱり体のつくりが違うんだろう」

「あ、鳴いてる! 可愛い声だね!」

「可愛過ぎて餌をやりたい気分だ」

「イルカって何食べるのかな?」

「たぶん魚だろうな」


 イルカが何か芸をするたびに会場の子供達の歓声が凄い。私達も子供だけど。

 近くで話さないと、悠太郎の声も私の声も聞こえないくらいだ。


「あ、イルカが近付いてきたよ。可愛い目をしてるね」

「おお、これだけ近くで見るとさすがにでかいな」


 間近でジャンプするイルカ達。

 迫力も凄いけど、飛んでくる水しぶきも凄い。

 最前列の人達は思いっきり水が掛かっちゃってるね。

 これもイルカショーの醍醐味みたいなものかな?


 最後にイルカ達の大ジャンプ。

 大盛況のまま、イルカショーは幕を閉じた。


「楽しかったね、悠太郎! また見に来ようね!」

「そうだな」


 悠太郎も楽しんでたみたい。大きな魚好きだって言ってたもんね。

 イルカって魚じゃないけど、魚みたいな姿してるもんね。

 ああ、私もイルカの背中に乗ってみたいな……。


***


 さて、一通り回ったことだし、気が付くと時間も昼をとっくに過ぎていた。


「なあ、そろそろ飯にするか?」

「そうだね。ちょっとお腹空いてきたかも」


 水族館を出た俺達は、すぐ近くにあった有名ファーストフード店に入った。

 Mマークで有名なあの店だ。


「いらっしゃいませー」


 ちょっとだけ混んでるけど、昼のピーク時間は過ぎていたおかげか思ったほどは混んでいなかった。

 ファーストフードというだけあって、客の流れは早い。

 すぐに俺達の順番が回ってきた。


「いらっしゃいませ、ご注文は何になさいますか?」

「何にしようかなー……じゃあ、チーズバーガーのセットで」

「俺は……てりやきバーガーのセットをお願いします」

「ありがとうございます。お飲み物は何になさいますか?」


 飲み物か……コーラがいいかな。


「私はじゃあ、アイスティーで」


 玲美はアイスティーを頼んだ。

 意外と大人なものを選ぶじゃないか……。


「悠太郎はどうする?」

「じゃあ、俺は……アイスコーヒーで!」

「かしこまりました。アイスティーとアイスコーヒーですね。お会計は別々ですか?」

「はい、別々で──」「一緒でお願いします。俺が奢る」


 ビックリした顔で玲美がこちらを見ている。


「……いいの?」

「ああ」


 デートで彼女の食事代を出す。

 割り勘はよくないって雑誌に書いてあったもんな。

 今日はデートだから、もちろん俺が奢る。


「ありがとう……でも、大丈夫?」

「大丈夫だ。問題無い」


 心配そうに見てくる玲美に、俺はどこかで聞いたようなセリフを返した。

 会計は920円。

 中学生の俺にはそこそこ痛い額だが、せっかくのデートなんだから、このくらい頑張らないとな。


「さ、二階に行こうか」

「うん」


 俺達はトレーを持って二階に上がった。

 窓際のテーブルが空いていたので、そこへ座る。


「じゃあ、ちょっと遅くなっちゃったけど食うか」

「うん。じゃあ、ありがとう。いただきまーす」


 俺の奢りだからか、玲美は俺を見ていただきますと言った。

 ポテトを一本一本取っては食べる玲美。

 まるで小動物だ。


「そういえば、玲美の頼んだセットは全部Sサイズなんだな」

「Mサイズは多いからね、これで丁度いいよ」


 もっと食べないと、大きくなれないぞ……いろいろと。

 ……こんな事言ったら殴られそうだ。


「水族館、楽しかったね」

「そうだな。やっぱり、イルカショーは凄かったな」

「可愛かったもんね」


 俺もとりあえずポテトを齧る。

 たまに食べると、ここのポテトってやたら美味いな。


「そういえば悠太郎、よくここに水族館があるって知ってたね」

「ああ、俺も琢也から聞くまでは知らなかったんだ」

「琢也?」

「琢也と朱音、ここにデートで来たことあるんだってさ」

「そうだったんだ」


 そう言って、チーズバーガーを頬張る玲美。

 まるでリスみたいだ。


「なんかさ、琢也って意外とまめっていうか、朱音の事すごく大事にしてるよね」

「正直な話、あいつの方が俺なんかより数段大人だと思ったよ……。俺達っていつも近所で済ませてデートらしいデートってあんまりしてこなかっただろ?」

「まあ、たしかにね……。別にそれで嫌だって思った事もなかったけど」

「お前はそう言ってくれるけど、琢也と話してたら、俺もこのままじゃ駄目だって思ってさ。だから、急だったけど今日がチャンスだと思って、デートに誘ってみたんだ」

「そうだったの。まあ……、たしかに急だったね」

「ごめんな。俺、計画性無くてさ……もっと琢也みたいに勉強しなくちゃいけないな」


 俺はつい、黙っていればいいような話まで玲美に話してしまった。

 一息ついて、かっこつける為に頼んだアイスコーヒーを飲んでみると酷く苦く、思わずむせそうになってしまった。


「悠太郎、ガムシロップとミルク入れないの?」

「……苦い方が好きなんだよ。大人だからな」


 そうか、やたら苦いと思ったら……うっかりそのまま飲んでたのか。


「悠太郎」

「ん?」

「無理しなくてもいいんだよ。私達、まだ中学生なんだから」

「無理なんてしてない……けど、せっかくだからガムシロップは入れておくか」


 しばらくして食事を終えた俺達は、某ファーストフードを出た。

 この辺は海が近いから、潮の香りが風に乗ってやってくる。


「どうする? 今日はもう帰る?」

「玲美はまだ時間いいのか?」

「私は大丈夫だよ」

「そうだな……じゃあ、海でも見に行くか」

「海って、この間の……?」


 謙輔達とボウリングに行った帰りに立ち寄った海だ。

 結構景色の良いところだったし、いつか玲美と二人で行きたいって思ってたんだよな。


 玲美も海に行くことは了承してくれたけど、なんとなくその表情が曇ったように見えた。

 俺の気のせいだろうか?

お読みいただいて、ありがとうございました。

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