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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その3 わたしのなつやすみ
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第41話 水族館デート(1)

 時刻は夕方6時を回ったところ。

 弟の信次(しんじ)は、お気に入りのアニメを見てはしゃいでいる。

 玲美もそろそろ帰ってくるだろうし、今のうちに水族館デートがどんなものなのか勉強しておくか。

 俺は、コンビニで買ってきた情報誌を開いた。


 ふむ……なるほど。

 やはりイルカのショーが人気らしいな。女の子は可愛いものが好きらしいし、これは定番かもしれない。

 他にもペンギンとか、熱帯の綺麗な魚とかが人気みたいだな。

 スタッフによる写真撮影なんかもあるみたいだ。


 まさか、俺がこんな風にデートのプランを勉強する日が来るとはな……。

 こう言ってはなんだが、俺はこれまで何もしなくても女子からモテていた。

 だけど、自分から“付き合いたい”と思える相手に巡り会う事が無かったので、それまでだれとも付き合う事もなく生きてきた。

 つまり、モテてはいたが、付き合う事に関しては全くの素人だ。

 玲美と付き合うようになって、近所で一緒に遊ぶような事はあったが、デートと言える事はほとんどしてこなかった。

 それでも、あいつは喜んでいたし、俺も楽しかった。


 俺達はまだ子供なんだし、健全なお付き合いなんだからそれでいいと思ってたんだ。

 キスくらいはしたいけど……。

 この前のプールは、デートに近いものだったかもしれない。

 だけど……何か違った気がする。


 “あいつに喜んでもらう為に、雑誌読んだりして勉強してるんだよ”

 琢也のその言葉に衝撃が走った。

 このままじゃ駄目だ……。いくら玲美でも、このまま同じような日々が続いていたら、いつかは俺に飽きてしまうんじゃないだろうか。

 あいつはあんな感じだが、女の心変りは早いと聞くし、謙輔みたいな金持ちの方がいいとか突然言い出すかも知れない。

 そうならない為に、俺は努力をすると決めたんだ。


「すっげえ! オレも、あんな技出してみてえよ!」


 テレビのキャラに合わせて、手から何かを出す動きをする信次。

 ふっ……まだまだガキだな。

 その時、リビングの電話が鳴った。


「はいはーい!」


 信次が電話に出た。

 あいつの友達からだろうか? 何やら楽しそうに電話をしている。

 もう少ししたら玲美にもう一度電話をするのだから、大した用じゃないなら早めに終わってくれないだろうか。


「うん、うん……じゃあ、代わるね!」


 ん? 代わる?


「兄ちゃん、玲美姉ちゃんから電話!」

「え? あ、ああ」


 信次の友達かと思ったら玲美だったのか。

 てゆうか、それなら早く代わってくれよ。


「もしもし」

『ああ、悠太郎? ごめんね、ちょっと出掛けてたからさ。電話くれたんだって?』

「ま、まあな……」


 やばい……こっちから電話するつもりだったから、まさか掛かってくるとは思ってなくて……まだ、何をどう言うんだったかシミュレーションが完了していない。


『なにかあったの?』

「ああ、ええっと……その……お前、魚は好きか?」

『うん。刺身とか生で食べるのはあんまり好きじゃないけど、焼いたり煮たりしたのは好きだよ』

「違う、そうじゃない……!」

『え……え? 違うの?』

「あ、ごめん……そうじゃなくてさ、その……なんだっけ?」


 なんて言おうとしてたんだっけ……別に、彼女を水族館に誘うだけなんだが、何て言って誘えばいいんだ?


「えっとな……ほら、夏休みに入ったろ?」

『そうだね。でもさ、悠太郎は部活もあるから大変だよね』

「ああ……毎日じゃないからいいんだけどな……って、そうじゃなくて! 俺と……その、水族館に行ってください!」

『え……いいけど』


 あっさりOKを貰ってしまった。

 いや、そもそも俺の彼女なのに、なんでこんなに緊張してたんだ、俺……。


『でも、水族館っていつ行くの? 悠太郎、部活あるでしょ?』

「明日は無いんだ。だから、明日行かないか?」

『明日か……随分と急だね』


 しまった……相手の都合も考えず、俺だけの都合で決めてしまっては駄目じゃないか!


『特に用事もないからいいけどさ』

「本当か!? ……いや、すまん。お前の都合も聞いておくべきだったな」

『いいよいいよ。で、明日の何時にする?』

「じゃあ、朝の9時でいいか? お前の家まで迎えに行くから」

『うん。じゃあ準備しとくね』

「ところで……さっき、弟と何話してたんだ?」

『ん? 大したことじゃないよ。なんかね、部活でレギュラーになれたんだって。サッカー頑張ってるみたいだね』

「そうだったのか。あいつもバレーやればよかったのにな」

『信次君も同じ事言ってた。兄ちゃんもサッカーやればいいのにって。兄弟だねー』


 その後、玲美と他愛のない話をして電話を切った。

 ともかく明日、ついに水族館でデートだ。


 そうだ! デートが終わった後の事もいろいろ考えなくては!

 水族館だけで終わったら、デートというよりもただ遊びに行くだけになってしまう。

 琢也にも電話するか……参考になりそうな事を聞いてみよう。


***


 もうそろそろ悠太郎が来る時間かな?

 今日は、ちょっとだけオシャレをしようと、朝から服の組み合わせを必死で考えていた。

 悠太郎は言わなかったけど、たぶんこれってデートだもんね。

 普段と変わらない恰好だったら失礼だろうし、私ももう少し頑張ろう。

 髪型も変えて……と、これでいいかな?


「お、今日は気合入ってるじゃない」


 お母さんがニヤニヤと茶化すように言ってきた。


 そういえば、水族館って言ってたけどどこの水族館なんだろうね。

 悠太郎は、こういう肝心なところがいつも抜けてるような気がする。

 行動を起こす時も突発的だし、もう少しこっちの都合も考えてくれるようになるといいんだけど。

 イケメンって事でファンクラブができるほど女子からは人気だけど、実際付き合うとなると幻滅する人もいるんじゃないだろうか。

 私はそこまで気にしないからいいんだけどさ。


「玲美ー、悠太郎君来たわよ」

「はーい」


 玄関に行くと、悠太郎もなんだかいつもより気合の入った恰好をしていた。

 悠太郎の着ているボーダーシャツが、私のボーダーのワンピと被っていて、微妙にペアルックのようだ……。


「おお! 今日は全然違うな、その髪型も似合ってる!」

「由美ほど長くはないけどポニテっぽくしてみたんだよ」


 悠太郎は、こういうところはよく気が付いてくれる。

 うん、これは嬉しいし、彼の良いところだね。


「でさ、水族館ってどこの水族館に行くの?」

「あ……ごめん、言ってなかったな。この前、謙輔達と海に行ったろ? あの近くにあるんだよ」


 ああ、あっち方面ね。

 じゃあ、バスに乗らなきゃ行けないか。

 一応多めにお小遣い用意しておいてよかったよ。


「それじゃ、行くか」

「うん。お母さん、行ってくるね」

「二人とも、あまり遅くならないようにね」

「「はーい」」


 私と悠太郎は、歩いてバス停へと向かった。


***


 バスを降りると目の前には水族館。

 夏休みのせいか、たくさんの人が来てるみたい。


「すごい人だなー」

「あっちで入場券販売してるみたいだよ」


 窓口に行って、入場券を買う。

 私達は中学生だから子供料金だ。

 ちょうど大人料金の半額なんだね。


「どこから見て回る?」

「玲美は、何か見たいものあるか?」

「じゃあ……ウミガメが見たい。テレビで見た事はあるけど、実物ってどのくらい大きいのか気になるでしょ?」

「そう言われれば、そうだな。じゃあ、ウミガメのところに行こう」


 こうして、私と悠太郎の水族館デートが始まった。

お読みいただいて、ありがとうございました。

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