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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その1 はじまり
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第2話 女帝登場

第2話です。

 初日からちょっとした波乱のあった中学校生活。

 そして、我が家の食卓に当たり前のように座っている悠太郎。


「悠太郎くん、うちの玲美があんな不良に関わらないように見張っていてあげてね」

「任せてください、お母さん」


 いつの間にか、我が家には悠太郎専用のコップと箸まで用意されている。

 お母さん、そろそろ食費取った方が良いと思うよ?


「玲美は、不良になんかなっちゃ駄目よ?」

「わかってるって。私が不良になんてなるわけないでしょ」


 大好きな里芋の煮物を頬張る。

 今日は入学式と言う事で、特別にお母さんが私のリクエストに応えてくれた。

 大根も、煮汁が染みていて凄く美味しい。


「おかわりいいっスか?」

「どんどん食べて! うちの人、煮物嫌いみたいで全然食べないんだから!」


 煮物はいいけど、ご飯の量大丈夫? 悠太郎の食べる量も半端無い量なんだけど。


「それにしてもさあ、由美と悠太郎以外とはクラス離れちゃったよね」

「しょうがないさ。六クラスもあるんだもんな」

「中には不良もいるみたいだし、恵利佳大丈夫かなぁ」

「大丈夫だろ。そんな事があったら、なんだかんだで、渡辺のやつが黙ってないさ」

「そういう面では、謙輔達って頼りになるね」


 よくよく考えたら、謙輔達も不良だったんだよね。不良がより怖く見えるのも、制服の効果なのかも。

 お味噌汁を少しずつ飲みながら、悠太郎と話をした。


***


「ごちそうさまでした! やっぱりお母さんの料理は最高です!」

「またいつでもいらっしゃい。そうそう、悠太郎くん、これ」


 そう言ってお母さんは、今日校門の前でみんなで撮った写真を悠太郎に渡した。


「男前に撮れてるでしょ」

「いやいや、そんな事無いっス! 玲美も可愛く撮れてますね!」

「お世辞でも嬉しいわ」

「お母さん、それだと私が可愛くないみたいじゃんか。親なんだから、そこはちゃんとフォローしてよ」


 自転車のところまで、悠太郎を見送りに行く。


「じゃあね、悠太郎。気を付けて帰ってね」

「ああ、また明日な」


 片手を上げて自転車で走っていく悠太郎。

 私は彼を見送る時、帰りに事故に遭いませんようにと、必ずお祈りする事にしている。


 部屋に戻って机を見上げると、そこには懐かしいあの箱があった。

 蓋を開けると、小学校最後の修学旅行で買ったキーホルダーや思い出の品々が入っていた。

 ……修学旅行、楽しかったな。

 目を瞑ると、謙輔や森山さん、そして恵利佳と一緒に楽しんだ風景が蘇ってきた。


 そんな事を考えていたら、いつの間にか少し寝てしまっていた。

 お母さんに叩き起こされてから、急いでお風呂に入って、ふわふわした感覚のままベッドに潜った。


***


 翌日、昨日とは打って変わって、朝から雨だった。


 さすがに雨の日は、悠太郎も自転車でここまで来ない。

 まだ馴れないセーラー服に着替え、私は中学校へと向かった。

 雨が降ると、少し肌寒いね。真冬じゃないけど、カーデ着てくれば良かったな。


 教室に入ると、みんなまだ馴れてないせいか、静かに席に座っている人が多かった。

 その点、私は、由美や悠太郎が居るから気が楽と言えば楽なんだけど。

 ……二人はまだ来ていない。

 ちょっと眠いから、席に座って寝ていよう。


………………

…………

……


「おーい、玲美」

「……ん?」

「起きたか? そろそろ先生来るぞ」


 悠太郎はそう言って私を起こすと、席に戻って行った。

 時計を見れば、もう始業前。うっかり寝過ぎて由美や悠太郎と話す時間が無くなってしまった。

 昨日途中で帰ってしまったあの不良の子は、二日目から早速来ていないようだ。


***


「じゃあ、今日はクラス委員を決めようと思う」


 美野先生のその発言にざわつく教室内。

 クラス委員か……私は絶対にやりたくないわ。


「やりたい奴いるか?」


 ピタッと静かになる教室内。当然、やりたがる人なんていないよね。

 そう思っていたら、一人の男子生徒が手を上げた。

 山本純太郎(やまもとじゅんたろう)くん。東之小出身の人だ。綺麗に七三に分かれたその髪型が、彼の真面目さを物語っている。


「他には居ないな? じゃあ、委員長は山本な。女子の立候補は無いか?」


 女子は誰も手を上げない。

 そりゃそうだ。だってクラス委員なんて面倒じゃん。


「誰も手を上げないなら、適当に先生が決めちゃうぞ」


 美野先生は、教室内を歩きだした。

 どうか私に当たりませんように……それだけ祈って、机の変な模様の一点だけを見つめた。

 よく見ると、本当に変な模様だ。タコのような模様に見える。足の本数がちょっと足りないか。

 そんな事を考えていたら、先生が横を通り過ぎて行った。……助かったの?


「先生、私がやります」


 手を上げたのは、川田志保(かわだしほ)さん。この人もたしか、東之小出身だ。

 眼鏡に三つ編みと、典型的な優等生タイプ。このスタイルって、なんだか少し河村さんに似てる。


「よし、じゃあ川田、お前がこのクラスの副委員長だ」


 先生の拍手に続いて、クラス中から拍手が鳴り響いた。

 クラス委員二人を称えるというよりは、安堵の拍手だと思う。


 こうして、一年三組のクラス委員(いけにえ)は決まった。


***


 放課後になった。

 午前中にあれだけ降っていた雨も、すっかり上がっていた。

 今日は帰って、再放送のドラマでも見ようかな。


「玲美、これから暇か?」


 悠太郎が私に話しかけてきた。

 用事って言っても……ドラマの再放送見るだけだから別にいいけど、あの看護師のドラマ、何度見ても面白いんだよね。

 でも、せっかくの彼氏からのお誘いだし、ドラマは諦めるか……。


「うん、大丈夫」

「バレーのシューズ買いに行きたいんだけど、付き合ってくれないか?」

「いいよ。行こっか」


 そっか、部活動を始めるんだね。

 私も中学に上がった事だし、何か部活に入ろうかな……。

 でも、そうするとテレビが見れなくなっちゃうし……。


「じゃあ、一度帰ったら、お前ん家行くから」


 悠太郎はそう言うと、急いで駆け出して行った。

 私も帰ろう。そう思ってカバンを取ろうとした時だった。


「日高さん」


 なんとなく嫌な予感がして顔を上げると、そこには怖い顔をした女子が立っていた。

 軽くウェーブのかかった髪に、切れ長で吊りあがった瞳。

 えっと……誰だっけ?


「な、なんスか……?」

「なんスかじゃ無いでしょ……。あなた、伊藤君の何?」


 何って言われても……どうしようか。


「小学校からの友達だけど」

「ふーん。じゃあ、私にもチャンスはあるってわけだ」


 無いからね?

 こういうのって、ちゃんと言った方がいいのかな。


「当然知っているでしょうけど、私は石野麻衣子(いしのまいこ)。東之小では女帝と持て囃されて来たわ」


 それってたぶん、遠回しに馬鹿にされてますよ。


「鈴木さん、前田さんと共に、伊藤ファンクラブを設立しようと思うの」


 ほら来た。やっぱり来たよ。もういいよ、そういうの。


「伊藤ファンクラブナンバー2、鈴木匡子(すずききょうこ)!」

「伊藤ファンクラブナンバー3、前田(まえだ)しのぶ!」


 石野さんの両隣りに女子達が出現した。

 どうでもいいけど、あんた達、既にナンバー1でも何でもないからね?

 小学生の時、同じファンクラブ名で、会員がたしか三十人以上居たんだからさ。


「今なら、日高さんもナンバー4になれるわ! さあ、会員になるなら今しかない!」

「コードネームはフォーでいいかしら」

「よろしくね、フォー」


 何言ってんの、この人達。

 関わらない方が良さそうな予感がびんびんするわ……。


「なにアホな事言ってんの。悠太郎君のファンクラブなんて、作らせるわけないでしょ?」


 わさわさポニーテールを揺らして、そこへ親友が登場した。


「ア、アホですって!? 伊藤君を侮辱する気!?」

「悠太郎君じゃなくて、あんた達を侮辱してるの」


 由美……めっちゃかっこいい!

 そして、そんな由美の発言にうろたえる三人組。


「急に出てきて、あなたは何なの!? 伊藤君の……し、下の名前で馴れなれしく呼ぶなんて!」

「何って言われたら、そりゃあ、わたしは悠太郎君の小学時代からの友達だよ!」


 一歩も引かない由美に対して、三人組は地団太を踏む。


「玲美、言ってやんなよ」


 指をクイッと動かす由美。そっか……そうだね。

 これ以上、面倒な事になる前にきちんと言っておかなきゃ。


「悠太郎は私の彼氏だから、ファンクラブなんて作らないで」


 固まる三人組。そして、そう言った後ちょっと照れてしまう私。


「「「勝ったと思わないでよ!!」」」


 よくわかんないけど、これで良かったのかな?

 周りから何だかざわざわと聞こえる。他にもファンクラブ予備軍がいたか。


「さ、玲美、一緒に帰ろ」

「うん」


 気にせず帰ろう。陰口とか言われたって、そのくらいでへこむ事も無いし。

 恵利佳とも合流して、私達は仲良く三人で帰った。

 それにしても、私と悠太郎が付き合ってるなんて、仲間達にもちゃんと言った事無いのに何で由美は知っていたんだろう?


 親友って凄い。私は改めてそう思った。

お読みいただいて、ありがとうございました!

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