第25話 病院にて
学校休むのって、いつ以来だろう。
体温計の音が鳴って、取り出すと38度7分。
そんなに熱あるように感じないけど……この体温計、壊れてるんじゃないか?
「体温計、見せなさい」
「はーい」
お母さんは、黙って体温計をじっと見つめる。
なんでだろう、高熱出した時って、なぜか怒られるんじゃないかってビクビクしちゃう。
体温下がれーって必死で祈ってたのに、結構熱あるし。
「病院に行きましょうか」
「えー……いいよ。風邪くらい寝とけば治るよ」
「だーめっ、こんなに熱だってあるし、食欲はあるの?」
「お昼になればお腹も空くよ……コホッコホッ」
「ほら、咳だって出てるし。あんたが小さい頃から通ってる病院でいいね」
「え!? あそこはやだよ! だって、熱があると、すぐ点滴とか座薬とか打ってくるじゃん!」
「その方が治りが早いでしょ。ほら、顔洗ってらっしゃい。お母さんが乗せてくから」
お母さんは、いそいそと準備を始めてしまった。
病院やだなー……。
「いま、空いてます? ……ええ、はい。娘が熱を出しまして……、はい、すぐ伺います」
お母さん、もう電話してる……。
それにしても、風邪ひいてる暇なんて無いのに、何やってんだろう。
瑠璃の事が気になる……。ちゃんと学校行ってるのかな。
「ちょっと混んでるそうだけど、診てくれるって」
「混んでるならいいよ。また今度で」
「駄目って言ったでしょ。準備できたら行くよ」
「わかったよ……もう……」
瑠璃の事は、悠太郎に聞こう。
自転車は置いていったみたいだから、帰りにうちに寄るだろうし。
病院に着くまでに熱下がらないかなぁ……。
***
病院の待合室。
みんな咳してる。風邪流行ってるのかな?
「風邪で来るのは久しぶりね」
「お母さん、マスクして無いと風邪うつるよ」
「どうせ、あんたが風邪ひいたら、お母さんもうつるわよ」
お母さんが風邪ひくと家の事とか大変になるから、なるべくうつしたくないんだけど。
「この体温計で熱を計っておいてください」
「わかりましたー……」
病院の体温計って、なぜか熱が高くなってる気がする。
もしかして、医療費高く取る為に、熱の水増ししてるんじゃないの?って思う
それに、なんか病院に来ると緊張しちゃう。
注射なんて大嫌いだし、点滴なんてされた日には、泣く自信だってあるよ。
「あ、音鳴った。ほら、見せて」
「家でも計ったじゃん。たぶん38度くらいだよ」
「あら……39度4分。家より上がってるじゃない……。本当に、ただの風邪かしら?」
「大丈夫だよ……ゴホゴホッ」
やっぱり病院の体温計は熱が上がるんだ。
39度なんて最悪……。こんな調子で明日学校行けるのかな……。
「ちょっと、お父さんに電話してくるから」
「え? うん……」
なんで、お父さんに電話?
ああ、お父さんに風邪うつしたらもっと大変だもんね。
“マスクして帰って来いよ”とか言うのかな?
「ゴーホッ、ゴホッ!!」
斜め正面に居る人、私より酷い咳だ。
私より少し年上くらいの人かな?
辛そうだし、こういう人は早めに診てあげたらいいのに。
「ゴーッホッ! ゴホッ!」
ほんと大丈夫なの?
そういえば、ポケットにのど飴入ってたっけ。
咳に効くみたいだし、迷惑じゃなければおすそ分けしようかな。
「あの、のど飴舐めます?」
「ゴホッ……!」
声を掛けると、その人はなぜか、私を見て驚いたような表情を浮かべていた。
もしかして、寝癖とかついてます? 直してきたはずなんだけど……。
「ああ、ごめん……ゴホッ! 少し、ボーっとしてたみたいだ……。貰ってもいいかな?」
「どうぞどうぞ。いくらでも」
「一個でいいよ……、ありがとう。 ゴホッ」
酷い咳をしていたけど、飴を舐めると少し止まったみたい。
私も舐めよう。ハチミツが入ってて、地味に美味しいよね、これ。
「混んでますねー……」
「もう、かれこれ1時間くらい待ってるよ……」
「そうなんですか……。咳酷いし、早く診てもらえたらいいのに」
「仕方ないよ。咳だけで熱が高いってわけじゃないし」
「マジですか。何度でした?」
「37度4分かな。君は?」
「私、39度もあったんですよ……。きっと病院の体温計って、何か細工してるんです」
「それは……、さすがに無いと思うけど……」
「あら、玲美。お友達?」
「あ、お母さん」
その人と話していると、お母さんが戻ってきた。
「咳が酷かったから、持ってた飴をあげたの」
「あら、そう。娘が迷惑掛けてごめんなさいね」
「いえ……咳が止まらなかったので助かりました」
「しっかりしてるわね。うちの娘とは大違い。あなた、中学生?」
「ええ……、今年入学しました」
「あら、うちの子と同じじゃない」
マジっスか!
少し年上かと思って敬語使ってたのに、おない歳だった……。
「今日は一人で来たの? 偉いわねぇ」
「家が近所なもので……」
「私だって、家が近かったら一人で来るよ! ここ、車で20分かかるじゃん! ゴホゴホッ……ックシュンッ!」
「大きな声出すから……、もう。咳か、くしゃみか、どっちかにしなさい」
「無理だよ!」
「アハハ……。僕も、家が遠かったら母に連れて来てもらってますよ。 ゴホッ!」
何という大人な対応。
本当にこの人、私とおない歳か?
「宇月さーん、宇月一哉さーん!」
「……じゃあ、お先に」
「宇月君っていうんだ。順番来てよかったね。早く風邪、治るといいね」
「君もね……ゴホゴホッ!」
宇月君は咳をしながら、診察室前に歩いて行った。
咳って、止まったと思っても動いたらまた出るよね。
なんなんだろうね、この現象。
***
「日高さん、お入りください」
待つ事、1時間とちょっと。診察室前に来てからも20分くらい待った気がする。
ようやく私の名前が呼ばれた。
「こんにちは、玲美ちゃん」
「……こんにちは」
先生の妙に優しい笑顔が、今の私には悪魔の笑顔に見える。
「去年、おっぱい痛いって来て以来かな?」
恥ずかしい事を思い出させやがる。
あの時は、本当に変な病気だと思ったんだよ。
やっぱり悪魔だこの人……。
「今日は風邪かな? 喉見せてね」
「あー……」
この棒、どう見てもアイスの棒にしか見えないんだけど。
当たりとかはずれとか、実は書いてあったりするんじゃないだろうか。
「じゃあ、音を聞かせてね」
そして、このなんだっけ。聴くやつ。
風邪ひいて寒気してるのに、冷たいのを胸に当てるのは勘弁してほしい。
「うん。ちょっと検査しようか」
「な、なんの検査っスか!?」
「熱が高いから、一応インフルエンザの検査をね。じっとしててね……」
え、ちょ……その棒、何スか!?
先生、私の鼻に何を入れようとしてんスか!?
……。
「いだあああああ!!」
「じゃあ、診察室の前で待っててね。すぐに結果が出るからね」
最悪だ……。鼻にあんなの入れるなんて、最悪だ……クスン。
***
「インフルエンザじゃなくて良かったわね」
「こんな時期にかかるわけないし、ただの風邪だってわかってたもん……ゴホゴホッ」
「帰ったらちゃんと、先生の出してくれた薬飲みなさいよ。あと、熱が下がっても大人しく寝てなさい」
「わかってるよ……」
最悪だ……。やっぱり、あの病院は最悪だ。
二度と行くもんか。なんかもう、いろいろと最悪だ。
「帰ったら、お粥作ってあげるからね」
でも、ほんと……、早く風邪治さなきゃ。
瑠璃の事が心配で、こんな事してる場合じゃないっていうのに……。
家に帰ったら、もうお昼過ぎ。
お母さんの作ったお粥を食べて、早速病院で出た薬を飲んだ。
悠太郎、早く帰って来ないかな。
瑠璃の事、聞かなきゃ。
ちゃんと来てたのかとか、元気だったのかとか、いろいろ……。
そんな事を考えていたら、飲んだ薬のせいか、私はいつの間にか眠ってしまっていた。
目が覚めたら、もう夜8時過ぎ。悠太郎も、既に帰った後だった。
お読みいただいて、ありがとうございました。




