表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その2 檻の中の少女
22/106

第21話 痣

 今日は生憎の雨。

 六月は梅雨の季節だから仕方ないね。


「瑠璃、まだジャージ羽織ってるの? さすがにもう暑くない?」

「前にも言ったけど、あたしは寒がりなんだよ。先生にも許可は貰ってるし」


 六月に入って、みんな一斉に衣替えをした。

 でも、自称寒がりの瑠璃は、いつもジャージの上着を羽織っていた。


 別にエアコンがあるわけでもないのに、そんなに寒いか?

 たしかに、雨の日は少し肌寒い時もあるけどさ。

 それにしても、先生からわざわざ許可を貰うなんて、不良のくせになんて律儀な奴。



「今日は水泳は無しかぁ……」


 由美は残念そうに呟いた。

 そういえば、雨の日の体育の授業って、何やるって言ってたっけ?


 とりあえず教室を移動しないとね。小岩井がまたフライングして着替え始めてるし。

 そういえば瑠璃って、いつも着替え終わってから、四組の教室に入って来てるような気がする。

 何でみんなの前で着替えないのかな?

 まあ、瑠璃には瑠璃の事情があるんだろうし、私がどうこう言う問題でもないか。


***


 着替え終わった私達は、体育館に集まった。


 瑠璃は今日もジャージ姿。

 冷え症気味の私でも、体育館の中はちょっと暑いって感じているのに、もしかして体のどこかが悪いんじゃないか?


「ねえ瑠璃、変な病気とかじゃないよね?」

「至って健康だから心配すんな」


 瑠璃と話していたら、南先生がやってきた。

 その手に持っているのは、ラジカセ?

 

「じゃあ皆さん、集まってください。今日は残念ながら雨なので、この先にする予定だった、ダンスの授業をしましょう」


 ダンスの授業? 運動会でやる出し物みたいな感じかな?


「まずは、基本ステップから覚えて行きましょう。音楽に合わせて、右足から動かして行きます」


 流れ出す軽快なリズム。まずは南先生がお手本を見せる。

 なんだかストリートダンスみたいな感じだね。


「ワン・ツー・ワン・ツー」


 南先生の手拍子と掛け声に合わせて、体を動かす。

 意外と難しいな、これ。

 そういえば、男子達は何をやってるんだろう?

 チラッと見ると、あちらは、ただひたすら走らされていた。


「ほら、日高さん、よそ見しない」

「あ、はーい」


 ダンスの練習は進み、足だけじゃ無くて腕も動かすようになっていた。

 これって結構いい運動になるね。

 体育館の中が蒸し暑い事もあって、結構汗かいちゃった。


「じゃあ、一度途中まで通しでやってみましょう」


 瑠璃をチラッと見ると、暑そうに汗を拭っていた。

 そんなに暑いんだったら、いい加減ジャージ脱いだらいいのに。


「日高さん、よそ見しない。これで二回目」

「はーい……」


 また注意されちゃったよ。

 女帝達め、クスクス笑ってやがる……。


***


 男子達のはしゃぐ声が聞こえる。

 何をしてるのか気になるけど、見たらまた注意されちゃうし、ここは我慢だ。

 あとで悠太郎に、何してたのか聞こう。


「じゃあ、最後にもう一度通しで踊って終わりましょう」


 先生がラジカセのボタンを押そうとした時だった。

 バタンと、大きな音が響いた。

 音がした方を振り返ると、瑠璃が倒れて────!?


「瑠璃!?」

「小柳さん!?」


 瑠璃に駆け寄ると、真っ青な顔で苦しそうな顔をしていた。

 大量の汗……?


 南先生は瑠璃を抱え、体育館の隅へと運んだ。


「瑠璃! 瑠璃!」

「日高さん、落ち着いて。おそらく熱中症ね……とにかく冷やさなきゃ。保健室へ運びましょう。手伝ってくれる?」

「はい!」


 瑠璃は、意識が朦朧としているみたいで、なんだか唸るような声を発していた。

 先生は上半身、私は下半身を持って瑠璃を運ぶ。

 寒いだなんて、やっぱり嘘だったんじゃないか。なんで、こんなになるまで瑠璃はジャージを脱がなかったんだ。


「もうすぐ授業も終わるから、みなさんはチャイムが鳴ったら終わってください。松崎先生、すみませんが女子達の方もお願いします」

「わかりました、南先生」

「それじゃ、慎重に運ぶわよ。日高さん」


 私と南先生は、体育館を出て保健室を目指した。

 瑠璃は、私よりも身長が高い。体重だって重いはず。

 それなのに、南先生が上半身を持っているとはいえ、とても軽く感じた。


***


 保健室に着いた。

 瑠璃をベッドに寝かせ、保健の先生は氷嚢の用意をし始めた。


「ジャージ、脱がせてあげましょうか」


 南先生は、瑠璃のジャージのファスナーを下ろした。

 そして、上着を脱がせにかかる。


「えっ……?」


 南先生の手が止まった。


「これは……」


 どうしたんだろうと覗き込むと、そこには目を疑うような光景が広がっていた。


「先生……、これって……」


 体操着の間から見える瑠璃の肌は、あちこちが赤黒く変色していた。


「どういう事なの……」


 南先生は両手で口元を覆いながら言った。

 そこへ、ちょうど保健の先生が氷嚢を持ってきた。


「有松先生……」

「……これは……、本人に直接聞いた方が良さそうね。まずは冷やす事から始めましょう」


 先生達は、瑠璃の脇と額に氷嚢を置いていった。


「このまま、しばらく寝かせておけば大丈夫でしょう。それよりも、問題は彼女の体に見られた複数の痣の方ね……」


 痣……。やっぱりあれは、痣だったんだ。

 瑠璃がジャージを羽織っているのも、体育は必ずジャージ姿だったのも、全部これを隠す為だったの?


「日高さん、ここで見た事は誰にも言わないようにね」


 南先生は、私に念を押してきた。

 私は、その言葉に何も返す事ができず、ただ頷いた。


 

「一つだけ確認させて」


 保健室を出ようとした私に、保健の先生が声を掛けてきた。


「彼女……苛めに遭ってたりはしない?」

「そんな事は……、無いと思います」

「そう……」


 保健の先生は難しそうな顔をしていた。

 南先生も、保健の先生と同じような表情を浮かべていた。


***


 その日、瑠璃が教室に戻ってくる事は無かった。

 美野先生の話だと、瑠璃はそのまま早退してしまったらしい。


 帰り道、私は考え事をしながら歩いていた。


 保健の先生が言った一言、瑠璃が苛めに……?

 今までそんな場面に遭遇した事は無いし、でも、そうするとあの痣は一体何……?


「小柳さん、大丈夫かしら……」

「え……? うん、大丈夫だと思うよ。ただの熱中症だって言ってたし」


 恵利佳は、瑠璃の事を心配していた。

 ただの熱中症。そう、倒れた原因は熱中症で間違いないんだ。


『ここで見た事は誰にも言わないようにね』


 南先生はそう言っていた。


 誰にも言わないように……?

 例えば、苛めによる暴力で痣ができていたんだったら、ここまで念を押すものだろうか?

 押すかもしれないけど……、それにしては、先生の言い方が何故か気にかかった。


 由美と恵利佳と別れた後、私はまっすぐ家に帰る気になれず、気が付くとサイクリングコースのある河川敷まで来てしまっていた。

 家に帰ったって聞いていたけど……もしかしたら瑠璃のことだから、この河川敷に来ているかも知れない。


 そう思いつつ橋の下に行ってみたけど、そこには誰もいなかった。

 瑠璃は本当に家に帰ったんだ。


「ん? 日高、何やってんだ? こんなところで」

「あ、村瀬先輩」


 振り向くと、村瀬先輩と、数人の不良達がいた。

 そうだ……もしかしたら、村瀬先輩達なら瑠璃の事を何か知っているかもしれない。


 私は苛めが嫌いだ。

 あの痣は、たしかに誰かに暴力を振るわれたような痣だった。

 もし瑠璃が、誰かに苛められてるって言うんなら、それは放っておけない。

お読みいただいて、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ