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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その1 はじまり
21/106

第20話 プール開き

 今日は待ちに待ったプール開き。


 でも今は、まだ一時間目の英語。

 体育の授業は三時間目だ。


 教科書の中では、マイコーとジャネットが出会って、お互いの趣味を英語で語り合っている。

 彼は、レッスン1で口説いた、日本人ヒロインのヤマダさんというものがありながら、転校生のジャネットにも目移りしている様子。

 しまいには、ジャネットがどこから来たのか聞き出そうとするマイコー。

 ジャネットは語る。オーストラリアから来たのだと。

 あれ? オーストラリアって英語なの?

 オーストラリア語だと思ってた。ユーカリとかカンガルーとか。


 英語の授業は、ヤマダさんの幼馴染のヨシオが出てきたところで終わってしまった。

 さすがにレッスン4ともなると、内容が違うね。

 これからも、マイコーとヤマダさんの恋の行方からは目が離せないね。


「今日の英語は、ドキドキの展開だったねー」


 そう語る由美も、私同様、英語の教科書内で繰り広げられる恋愛ストーリーに夢中になっていた。


「ヨシオ、いい奴っぽいし、このままじゃ浮気性のマイコーは勝ち目は無さそうだね」

「あたし、先の展開知ってるぜ」


 突然話に割り込んでくる瑠璃。

 先の展開は気になるけど、あえて読まないのが私と由美の間で決められた暗黙のルールだ。

 そこへネタバレをしようなんて、さすがは不良、なんて不届きな奴。


「私達は、リアルタイムに展開を楽しんでるの。邪魔しないで」

「予習しただけなんだが……」


 不良のくせに予習してくるなんて、なんて奴だ。

 不良の風上にも置けない。それじゃ、ただの優等生じゃないか。スカート長いくせに。


「そういえば玲美、今日から水泳の授業だけど、大丈夫なの?」

「ふふん、去年までの私と思わない方がいいよ」


 話が聞こえていたのか、小岩井がこっちを見てニヤニヤしてる。

 見てろよ小岩井、去年までの私と違うところを見せてやる。


***


 やっと二時間目の社会の授業が終わった。

 しっかりと睡眠もできたところで、今の私のコンディションは最高と言ってもいい。


 小岩井は、早速教壇の上に乗って、なにやらストリップショーまがいな事を始めた。

 女子達の悲鳴が上がる中、私はスタスタと着替えの入ったバッグを持って四組へと向かった。


 バスタオルのモコモコだらけの教室内。

 私も、すっぽりと被れるバスタオルを用意する。

 これさえあれば、どれだけ貧相でも絶対に見られる事は無い。


 ふと恵利佳の方を見ると、バスタオルで恥ずかしそうに前を隠しつつ、その豊かに育った肉体をチラつかせながら水着に着替えていた。


「玲美、あなたさっきから何で私を見てるの……?」

「え? だって、あまりにも綺麗だったから見なくちゃって思って」

「あなたには伊藤君がいるでしょう? 前世の影響かしら、全くもう……」

「でも、ほんと吉田さんって綺麗だよね。スタイルもいいし、玲美が見とれるのもわかるような気がするよ」

「明川さんまで……!?」


 私と由美は、モコモコを被ったまま、しばらく恵利佳の魅力に酔いしれていた。

 そして、二人そろって、着替え終わった恵利佳に説教を受けることになった。


***


 瑠璃は、今日の体育は見学するみたい。

 水泳だって言うのに、いつも通りのジャージ姿だったから、そうじゃないかなと思ってたけど。


「よう、日高。ついに水泳の授業が始まっちまったようだな」

「出たな、小岩井」


 第1コースの飛び込み台の上に乗って、偉そうに腕を組んでいる小岩井。

 そんな所に乗ってると、先生に怒られるぞ。


「逃げずによく来たな」

「逃げたら、サボりになっちゃうじゃないか」

「今年もお前の沈みっぷりを、高みから見物させてもらうぞ」

「小岩井君? 降りようか」


 小岩井の耳を引っ張って、飛び込み台から引きずり降ろしたのは、南君子(みなみきみこ)先生。

 私達、女子の体育の先生です。


「日高さん、もしかして、泳げないの?」


 南先生は、心配そうに私に聞いてきた。


「大丈夫です。私はもう、去年までの私とは違うんです」

「去年までのあなたを知らないんだけど……」


***


 まずは、シャワーを浴びてきます。

 そして、プールサイドに集まったら準備体操。


「何だか、視線を感じるわ……」


 不安げに呟く恵利佳。

 たしかに、男子の何人かは恵利佳を見ている気がする。


「恵利佳も見てやったら? ほら、謙輔とか」

「そういう事じゃないと思うんだけど……」


 謙輔は、こっちに気付いて手を振ってきた。

 そして、男子の体育の先生に頭を叩かれてた。

 そんな謙輔を、冷たい視線で見つめる悠太郎。


 体操が終わったら、まずは、全員で水に馴れる為にプール内を回る。

 小岩井が、ダルマ浮きの変化技?で、クルクル器用に回っていた。

 もちろん無視。



「それじゃあ、今日は最初の授業と言う事で、泳力を計ろうと思います。自由な泳ぎ方でいいから、好きなように泳いでみてください。泳げない人は無理しちゃ駄目よ」


 1コースから3コースは男子、4コースから6コースを女子が使う。

 いよいよ、悠太郎コーチの特訓の成果を見せる時が来た。


「日高さん、あなたの泳力見せてもらうわよ」

「出たな、女帝」


 体育座りのまま、睨み合う私達。

 よほど自信があるのだろうか。でも、私だって一生懸命練習してきたんだ。


「じゃあ、明川さん、石野さん、内田さん、コースに入って」


 泳ぐのはクラスごとの出席番号順。なので、私はもう少し後。

 男子の方は悠太郎と、将棋大好き山男の石塚君がスタンバイしていた。


 先生の笛の音で一斉にスタートした。


 まず飛び出したのは、悠太郎。

 綺麗なフォームでどんどん水を掻いて行く。

 山男は5メートルほどで浮上した。

 山が好きなだけあって、泳ぎは苦手らしい。


 女子の方は……ん?

 由美は、小学校の頃見た通り平泳ぎだけど、女帝のあの泳ぎは何なんだろう?

 顔だけ出して、少しずつ進んでる。


「ねえ、恵利佳。女帝の人、初めて見る泳ぎ方だけど、あれって何?」

「……犬掻きよ」


 犬掻き……?

 悠太郎コーチが言っていた……犬掻きって、あれか!


「石野さん、がんばれー!」

「目指せ、15メートル!」


 女帝の取り巻き達が、必死に応援をし始めた。

 由美がもうすぐ25メートルに辿り着くというのに、彼女はまだ10メートル付近をゆっくりと進んでいる。

 そして、力尽きたのか、10メートルを超えて少し進んだところで止まってしまった。


「……ふう。記録、更新できたかしら?」


 やりきった爽やかな顔でプールから上がる女帝。

 その記録は、13メートルだった。


「やりましたね、石野さん! タイ記録ですよ!」

「ざっとこんなものね」


 女帝はもういいや。


 男子の方は、小岩井がスタンバイしていた。

 あいつの泳ぎは凄い事はわかってるし、別に見なくてもいいか。


 それからしばらくして、いよいよ私の番が回ってきた。

 ちょっと緊張するけど、練習通りにやれば大丈夫。


「玲美、気を付けてね。無理しちゃ駄目だよ」

「大丈夫だよ、由美。安心して見てて」


 まずは、25メートル。

 耳に水が入ったら、片足でピョンピョン。


 先生の笛の音が聞こえて、いよいよスタート。

 壁を蹴って少し距離を稼ごう。

 よし、いい感じ。


 目を開けてるから、5メートルの線も見えるね。

 これで、私の今までの記録は塗り替えた。

 息継ぎ息継ぎ、鼻から吐いて、口から吸う。

 鼻に少し入ったけど気にしない。


 これは、まだ10メートルくらいのところかな?

 思ったより、距離が遠く感じる。

 15メートル付近は注意しなくちゃ、あそこ、私の鼻のあたりくらいまで深いから、そこは越えておきたい。


 結構進んだ気がするけど、よくわかんなくなってきた。

 この線は……あれ? そろそろ20メートルくらいの線が見えてくるんじゃ……うげっ!?


「プハッ! あいたたた……!」


 目の前には壁。

 25メートルに達してたんだ。ちゃんと見てたはずなのに、うっかりしてたよ。

 また少し、鼻に水入っちゃった。


「玲美、大丈夫?」

「頭と鼻が痛い……。でも、25メートル泳げたよ!」

「うん、びっくりしちゃった! 練習、がんばったんだね!」


 目標の25メートル泳ぐ事ができた。

 女帝にも勝てたし、これならもうカナヅチって馬鹿にされる事も無いね。


 その後、残り時間は自由に泳いでいいという事になった。

 去年までは、こういう自由な時間でもつまらなかったな。

 早く授業終わんないかなって、そんな事ばかり考えてた。

 でも、悠太郎に泳ぎを教わったおかげで、水泳の時間がこんなにも楽しいものになった。

 ほんと、悠太郎には感謝してもし足りないね。


「まだまだだな」


 小岩井は、私に捨て台詞を残すと、土下座の姿勢で浮き上がっていた。

 こいつなりの謝罪なんだろうか。それにしても器用な奴。


 残った時間で由美に平泳ぎを教えてもらっていると、自由時間の終わりの笛の音が響いた。

 今日の水泳の授業は楽しかったな。

 次は、瑠璃も一緒に泳げたらいいね。





 瑠璃の家の事情を何も知らなかった私は、この時まで、暢気にそんな事を考えていた。

お読みいただいて、ありがとうございました。

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