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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その1 はじまり
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第1話 入学式

第1話です。

 あれから時は流れ……前世で救えなかった大切な人をを救うために過去へと転生した少女も、本日めでたく中学校への入学を迎える。


 少女の名前は日高玲美(ひだかれみ)

 前世の断片的な記憶を集め、仲間達と共についにその因果を打ち破ることに成功した。

 そして、平穏を取り戻したこの世界で、再び物語は動き出す────。 


……

…………

………………



「悠太郎も待ってるし、もう行くね!」


 私はお母さんにそう言うと、玄関を開け、家を飛び出した。

 いつも、うちに自転車を止めて行く彼は伊藤悠太郎(いとうゆうたろう)

 小学生の頃から付き合っている、大切な私の彼氏です。


***


「セーラー服だと、やっぱり少し雰囲気が変わるな」

「そう? 悠太郎も、ちょっと大人になった印象だわ」


 悠太郎と喋りながら、初めての通学路を歩く。

 セーラー服って、もともと水兵さんが着てた服なんだって。

 この襟ってなんなんだろうね。ひたすら大きな襟。

 立ててみて、エリマキトカゲーってやってたらお母さんに叱られてしまった。


「玲美のお母さん、今日は来るって?」

「もう少し後から来るみたいだよ。悠太郎のところは?」

「俺の母さんは今日も仕事。まあ、仕方ないさ」


 悠太郎は寂しいという感じでも無く、普通にさらっと答えた。

 両親とも共働きで、居ない事も結構あるから、もう慣れっこなんだって。

 そういえば、悠太郎の両親って、警察署で会った時以来ほとんど見てないような。

 家に遊びに行った時も、お母さんはたまにしか居ないもんね。

 弟君はよく見掛けるけど。


「寂しくない?」

「もう慣れたよ。それに今は、お前も居るし、別に寂しくは無いかな」

「なら良いけど。寂しくないように毎日騒いであげるよ」

「そういう意味じゃないんだけどな……」


 お喋りしながら歩いていたら、中学校が見えてきた。

 ここからいよいよ、私達の中学生活が始まるんだね。


 ん? あれは──。


「謙輔さん、ビシッと決めていきましょう!」

「もうそういうのやめようぜ、秀治……」


 校門のあたりで騒いでるのは謙輔達だ。

 リーダー格の渡辺謙輔(わたなべけんすけ)、その子分の坂本秀治(さかもとしゅうじ)

 そして──。


「おい、渡辺! 俺がやった短ランは着て来なかったのかよ!」

「着るわけないだろうが! 今日は入学式だぞ!」


 そこに居たのは、一年先輩の鬼崎吾朗(おにざきごろう)とかいう人。

 小学生の時、謙輔達と戦って負けて以来、ずっと彼を気にかけている。

 当の謙輔自身は迷惑がってるみたいだけど。


「おはよう、謙輔。坂本君もおはよう」

「お、玲美じゃないか! おはよう! ……うげ、伊藤も一緒かよ」

「俺が居たら悪いのか?」

「そういうわけじゃないんだけどよ……」


 その時、校門の前に高級そうな黒塗りの車が止まった。

 中から出てきたのは、厳格そうな立派な髭をたくわえた強面の男性。


「あ、親父」

「謙輔よ、恵利佳ちゃんを連れて来たぞ」


 謙輔のお父さんに連れられて一緒に降りて来たのは、長いストレートの黒髪をたなびかせた美少女、吉田恵利佳(よしだえりか)。私の大切な友達の一人。


「恵利佳、おはよう!」

「玲美、おはよう。朝から元気ね」


 恵利佳は朝が弱いみたいで、あまり元気が無い感じ。


「親父、吉田の母ちゃんは?」

「ちょっと遅れるそうだ。もう一度迎えに行って来る」


 そう言うと、謙輔のお父さんは再び車に乗って走って行った。


「うちのコーポの前に、あの高級車が止まるのよ……ミスマッチもいいところだわ」


 恵利佳は額を押さえながら言った。

 あの車だと、コーポの前の道幅もいっぱいいっぱいじゃないのかな。


「よし、受付に行ってクラス確認しようぜ!」


 謙輔はそう言って一番に駆け出して行った。

 クラスね……私の中学最初のクラスはどんな感じになってるのかな?


「全く……(せわ)しない奴だぜ」


 あきれ顔の鬼崎先輩は放置して、私達も受付へと向かった。


***


「私のクラスは……三組か」

「お、俺も三組だ」


 どうやら、私と悠太郎は無事同じクラスになれたらしい。


「俺は……四組かよ!」

「あらら。謙輔とはお別れだね」

「伊藤! お前、玲美に手を出すんじゃねえぞ!」


 私達、もう付き合ってるんだけど……言うとめんどくさい事になりそうだから、黙っていよう。


「私は、四組ね」

「そっか……恵利佳とも離れちゃったね」

「隣のクラスだもの。いつでも会えるわ。それに渡辺君も一緒みたいだし、大丈夫よ」


 恵利佳と離れるのは寂しいけど、三組と四組だったら、何かと一緒になる事があるかもね。

 さすがにもう、彼女がいじめられる心配は無いと思うけど、何かあっても隣のクラスだからすぐに行けるし。


「玲美! おはよう!」


 元気な声に振り向くと、そこには私の親友がいた。


「おはよう! 由美は何組だった?」


 明川由美(あけがわゆみ)

 私が小学校に入学した時からずっと友達で、私の一番の理解者です。


「わたしは三組だよ!」

「やった! 一緒だ!」

「「キャー!」」


 由美と同じクラスになるのは、小学四年生の頃以来だね。

 一緒のクラスになれて、すっごく嬉しい。

 小学校の時は、しばらくクラスが離れちゃってたけど、これで一年間ずっと由美と一緒だね。


「いよいよ入学式かぁ……」


 由美は感慨深そうに校庭を見つめた。

 満開の桜の木から散る花弁が、まるで私達の入学を歓迎しているみたい。

 ──なんていうのは言い過ぎかな?


***


 入学式も終わり、私達は早速教室へと移動した。

 中学校とはいっても、小学校の教室とあまり変わらない感じ?

 とりあえず、出席番号で指定された座席に着けばいいのかな。

 あとは、軽くホームルームをやったら今日は終わりか。


「日高! また一緒のクラスだな!」

「小岩井……、あんたと私の腐れ縁はどこまで続くんだ」


 こいつは、小岩井恭佑(こいわいきょうすけ)

 私の幼稚園の頃からの幼馴染。

 男子の列に、どこかで見たような奴が居るなーと思っていたら小岩井だった。

 これで、幼稚園の頃からずっと、こいつとは同じクラスか。

 もうここまで来たら、中学卒業まで同じクラスを目指さないといけないような気がしてきた。


「あんまり見ない顔も多いな」


 悠太郎がそう言いながら、前の席に腰を掛けた。

 そこ、私の前の番号の女の子の席なんだけど。


「イケメンが、私の席に……」


 迷惑がられるどころか、むしろ歓迎されているような気がする。

 あんた、またファンクラブ作る気か。


「この中学校には、二つの小学校から生徒が入学してきてるからね」


 一学年のクラス数は、全部で六クラスまで膨れ上がっていた。

 どちらの小学校卒業者も全員がこの中学校に入学したわけでは無く、私立に行った人や、ギリギリ学区を外れた人達もいる。


 それにしても、今までと比べたら全然クラス数も多いね。小学校の時は四クラスだったし。


「一学期の間に校外学習もあるんだって。楽しみだね」


 由美は、嬉しそうな顔でそう言った。校外学習って、ようするにただの遠足って感じらしい。

 遠足と言えば、やっぱり小学三年生の時の遠足が一番印象深いな……。


「琢也は残念ながら、隣の二組になっちゃったな」


 悠太郎にとっては、琢也こそが親友だもんね。

 親友とクラスが離れてしまう辛さは、私にもわかるよ。


「そろそろ先生や保護者達が来るな。俺は席に戻るよ」

「うん、また帰りにでも話そうね」


 悠太郎と由美は、決められた自分の席へと戻って行った。


***


 私達、一年三組の担任は美野先生という人。

 ちょっと肥満体形の、顔だけ見れば怖そうな感じの先生だ。


「じゃあ、せっかくだから、全員自己紹介を始めるか」


 中学に上がっても、最初にする事は結局それなんだ。

 この辺も小学校の時とあんまり変わらないな。


「言い出しっぺの俺から自己紹介するぞ。お前達の担任になった美野幸彦(みのゆきひこ)だ。趣味は模型作り。好きなタイプは目のぱっちりした美人さん。一年間よろしくな」


 先生め……余計な項目を早速二つも入れやがった。

 これじゃあ、趣味と好きなタイプ言わなきゃいけないじゃないか。


「じゃあ、男子の一番から、出身校も一応言っておけよ」


 出身校くらいならいいけど、これ以上項目を増やさないでください。


「東之小出身、阿部巧。趣味はサッカー。好きなタイプは優しい子」


 無難に決めて来た感じ。こういうのって、一番の人は大変だなっていつも思う。


「無難過ぎるだろう! もっと若さと元気出して行け!」


 保護者達から笑い声が聞こえる。今のどこか笑える要素あった?

 それにしても、余計なこと言うなよ、先生。


「西之小出身、石塚圭吾です! 趣味は将棋です! 好きなタイプは居ません!」

「嘘言うな! なんかあるだろ、ほら……巨乳とか!」


 いきなり何言ってんだ、この先生(ヒト)!?

 ほら……、保護者の人達も苦笑いじゃないか。

 どこからともなく聞こえる咳払い。先生も流石にそれに気付いて、気まずそうな表情を浮かべている。

 石塚君は顔を真っ赤にして座った。


「西之小出身、伊藤悠太郎。趣味はバレー。好きなタイプは一緒に居て飽きない子です」

「お前、モテそうだな! せいぜい楽しい学生生活を送ってくれ!」


 悠太郎は、適当に愛想笑いすると席に着いた。

 飽きない子……とにかく、飽きさせないように常にサプライズ的な行動を取ればいいのか。


 男子の自己紹介が続いて行く中、ついに問題児の番となった。


「西之小出身、小岩井恭佑! 趣味は野球観戦! 好きなタイプは巨乳ですッ!」

「よしっ!」


 よし、じゃねーよ! 言うと思ったけどさ。

 小岩井は、何かをやりきったような顔で席に座った。

 とりあえず、お前の好きなタイプから、私や由美が外れたという事がわかって良かったよ。


 問題児の番は過ぎたし、これであとは問題無く進んで行くでしょ。

 そう思っていた私は甘かったようだ。

 女子の番が回ってきて、つつがなく自己紹介が進んでいると思った時だった。


「……やってらんねえ」


 私の斜め前に座っていた人が、急にそう言って席を立った。

 よく見れば、長めのスカート、ぺったんこのカバン。漫画とかに出てくる典型的な不良ファッション?


「待て、小柳!」

「うっせえな。あたしゃ帰るからよ」


 そう言って、小柳と呼ばれた人は教室を出て行ってしまった。

 ざわつく室内。保護者の人達も、ひそひそと何か話している。


「えーっと……、ちょっとしたハプニングがありましたが、このまま自己紹介を続けます」


 さっきまでの雰囲気はどこへやら。

 美野先生も、気まずくなってしまったみたいで、急にとって付けたような敬語で自己紹介の進行を促した。


 中学生になると、ああいう不良もいるのか……。

 なるべく関わらないようにしとかないと。


 小学生の頃にさんざん苦労したんだし、中学生活くらいは平穏に過ごさせてください。

 私は密かに神様に祈った。

お読みいただいてありがとうございます!

よろしければ、第二話もどうぞ!


※2/15 一部おかしな文章などを改稿しました。内容に変更はありません。

※9/29 冒頭を修正しました。

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