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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その1 はじまり
17/106

第16話 校外学習(4)

 展望台から見える景色。

 遠くまで広がる山々が、目の前にどこまでも続いていた。


「凄い綺麗! 写メ撮ろうよ、写メ!」


 由美は早速携帯電話を取りだした。

 あちこちから響くピロリロリーンという音。

 こんなに綺麗な景色、そうそう見られるものじゃないもんね。

 私も携帯電話を取り出し、そこから見える景色を写メで撮る事にした。


「なあ、ヤッホーって言ったら響くかな?」

「やってみたら?」

「あたし一人でか?」


 瑠璃は、恥ずかしそうに言いながら、少しだけ大きな声で『ヤッホー』と叫んだ。

 そのくらいの声では山彦は返ってきたりはしないみたい。


「駄目か……」

「私もしようか?」

「お、おう、頼む」


「「ヤッホーッ!!」」


 二人で叫んだヤッホーは、数回響いて返ってきた。

 満面の笑みの瑠璃。こういうの、したかったんだね。

 それにしても、ヤッホーってどういう意味なんだろう?

 意味もわからず叫んでたけど、考えれば考えるほどどういう意味なのかわからなくなってきた。


「石塚君、ヤッホーの意味って知ってる?」


 山男の石塚君に振ってみた。彼ならきっと、私達の求める答えを持っているに違いない。


「……山男は細かい事を気にしないのだ」


 知らないらしい。


「わたしが聞いた話だと、外国の挨拶の言葉とか、ある言葉が訛ってヤッホーになったとか、いろんな説があるみたいだよ」

「そうなんだ。由美、なんだか最近そういう雑学詳しいよね」

「うふふ……」


 なんだか含みのある顔で、由美は笑っていた。


***


 展望台を降りると、ちょうど謙輔と新崎君が戻って来たところだった。

 先に降りて行った謙輔達の班も、そこで私達を待っていてくれた。


「ねえ、景色綺麗だった?」

「写メ撮って来たよ」


 由美は新崎君に、展望台で撮った写メを見せていた。

 それを見て喜ぶ新崎君。よく見ると、彼は小学生で成長が止まってしまったかのような体型をしていた。


「新崎君、景色を見れなくて残念そうにしてたけど、明川さんのお蔭で喜んでくれたみたいで良かったわ」


 謙輔の班の女子達に可愛がられている新崎君を見ながら、恵利佳は呟いた。


「さて、これからどうしようか」

「そうだな……こうしたらどうだ?」


 悠太郎と謙輔が話し合って、残りの自由時間は一度解散、時間になったら広場の売店の前に集合する事に決まった。


「じゃあ、俺はちょっと琢也のところにでも行こうかな。玲美も一緒に来るか?」

「うん、そうする」

「じゃあ、わたしはお花畑見てくる!」

「あたしも!」

「僕はどうしようかな……」

「俺と一緒に更なる山頂を目指すか?」

「いや……それはちょっと……」

「中野君も石塚君も、一緒にお花畑行こうよ!」

「「はい!」」


 それぞれの行き先が決まったみたい。

 由美はよっぽどあのお花畑気に入ったんだね。


「少しの間だけど、二人きりになれるでしょ?」


 由美はボソッと私の耳元で呟いた。

 琢也に会いに付いて行くだけだし、そんなつもりも無かったんだけど、もしかして気を遣ってくれたの?


「それじゃ、また後でな。行こう、玲美」

「あ、うん。それじゃ、行ってくるね」


 由美は笑顔で手を振って、瑠璃達と一緒にお花畑の方へ向かって行った。


***


 悠太郎と一緒に、森の中の道を歩く。木々の隙間から射し込む陽の光が、なんだか幻想的。


「琢也がどこにいるかわかるの?」

「探すしかないな。まあ、見つからなかったら、それはそれで仕方ないか」


 暢気な事を言う悠太郎。

 森を進むと、やがて人気の少ない場所に出た。

 静まり返った森の中、特に会話も無いまま私達は進んだ。


「なあ、玲美……」

「ん?」


 私の方を見つめ、悠太郎は足を止めた。

 森の木々のざわつきだけが、妙に耳に響いてくる。


「キスしようか」

「なあ!?」


 静かだな思わず変な声が出た!

 いやいやいや、校外学習に来てするような事でも無いでしょ!?


「お前、あの日以来キスしてくれたこと無いもんな。しかも、ほっぺにだったもんな、あれ」

「あ、あの……、そんな急に言われても……」


 いつの間にか大きな木を背に押さえつけられ、目を瞑った悠太郎の顔がどんどん間近に迫って来ていた。

 これってもしかして“壁ドン”ってやつ……? いや、後ろは木だから“木ドン”!?

 こういうのって、雰囲気とか、そういうの作ってからするもんじゃないの!? そんな唐突に迫られても……!


 いろんな思考が渦巻く中、覚悟して、私も目を瞑る────。



「……冗談だよ」


 目を開けると、悠太郎がニヤニヤと笑っていた。

 ……こいつ! 私の覚悟を返せ!


「ぬうぅ……!」

「こんなところで何してんだ、お前ら?」


 呆れた顔で私達を見ている琢也。

 いつの間にここに?

 もしかして、さっきの一部始終見られてた?


「……悪い、邪魔しちゃったか?」

「いえ、全然!」

「玲美をからかって遊んでたんだよ」


 悠太郎はそう言いながら、ポンポンと私の頭を叩く。


「お前、どこ行ってたんだ?」

「ああ、俺ならそこの便所に行ってたところだ」


 琢也が親指でクイッと指した先には、古びた公衆トイレがあった。

 そんな場所だったなんて、ますますムードも何もあったもんじゃないよ。


「お前ら、班の奴らと一緒に居なくていいのか?」

「自由行動にしたんだ。時間になったら戻るさ。ちょうどお前を探してたところだったんだよ」

「俺を?」


 西田琢也(にしだたくや)

 小学校の頃からの私達の仲間で、悠太郎の親友。

 乱暴そうな見た目に反して、根は優しく面倒見の良い奴。

 私立の中学に進学してしまった、私達のもう一人の仲間、佐島朱音(さじまあかね)の彼氏でもある。


「元気そうで何よりだ。二組にはもう慣れたのか?」

「あー、まあボチボチだな。新しいダチもできたんだぜ」

「今度紹介しろよ」


 こういうの、男子トークって言うんだろうか。

 楽しそうに話す悠太郎と琢也。

 そういえば私、全然琢也に会ってなかったんだよな……。かと言って、二人の会話にはなかなか入って行けそうもないし。


「ほら、玲美。久しぶりに琢也に会って、何か話したい事は無いのか?」

「え? えーっと……」


 急に振られても、何を話したらいいんだろう……。


「ボウリング、行けなくて悪かったな。楽しかったか?」

「うん……まあ、楽しかったよ」

「そりゃ良かった」


 ボウリング……たぶん、琢也は朱音とデートだったんだろうし、来れなかったのは仕方ないよね。


「そういえば琢也、いつの間にか眼鏡かけてたんだね」

「ああ、これか。ゲームのやり過ぎで目が悪くなっちまったみたいだ。賢そうに見えるだろ?」

「えー? 全然そうは見えないんだけど」

「お前、そこはお世辞でも“たっちゃん知的~”とか言ってくれよ」

「言うわけないじゃん」


 何でもないような、くだらない事を三人で話していた。

 近くにベンチがあったので、私達はそこへ座った。


「そうそう、お前らに会ったら話そうと思ってた事があったんだ」


 琢也は急に真剣な顔になった。


「ここへ来る前、河村智沙(かわむらちさ)とすれ違った」


────────

────

──


「貴方、どこへ行っていたの?」

「あー、悪い。ちょっと懐かしい幼馴染(やつ)を見かけたもんでな。もう一人の幼馴染は何故か見つからなかったけど」

「一人で勝手に行動して、先生に怒られても知らないわよ」

「悪いなちーちゃん。そういえば、かっちゃんは?」

「その“ちーちゃん”っていうの、やめてくださる?」


 機嫌が悪そうに言いながらも、片目を瞑り、仕方ないわねと言った表情を浮かべる少女。

 相手の事を“ちゃん付け”で呼ぶのは、この石川哲司にとって友情の証でもあった。


「宇月君ならトイレに行って来るって、さっき走って行ったわ」

「そっかー。せっかくあいつにも、僕の幼馴染の事話してやろうと思ったのに」

「そんな事、彼に話しても仕方がないでしょう?」

「楽しい奴なんだぜ。幼稚園の頃の事とか、結構面白エピソードいっぱいなんだけど。そいつ、女なんだけどさ」

「女……? ま、まあ、いいわ。他の子達も先に集合場所に行ってしまったし、宇月君も直接向かうと言っていたわ。さ、私達も行く事にしましょう」

「ん? もしかして、ちーちゃん、僕の事待っていてくれた?」


 少女は、その言葉に顔を赤らめながらプイッと振り向くと、スタスタと足早に歩き始めた。

 そんな少女の後を、石川哲司は口笛を吹きながら付いて行く。

 少女は立ち止まりチラッと彼の方へ振り向くと、額を押えながらため息をつき、また歩き始めた。


***


「そろそろ、俺達も戻らないといけない時間だな。謙輔達の班もそこに居るんだ」

「もうそんな時間か。……ん? お前、いつの間に渡辺の事を謙輔って……」

「ああ、言って無かったか? この間のボウリングであいつに負けて、こう呼べって言われたんだよ」


 再び盛り上がる二人。

 もう、集合時間に遅れちゃうよー。


(…………。)


 ん? 何か聞こえた?

 声?のした方をパッと振り向くと、そこには誰も居なかった。

 気のせいかな?


 それにしても、河村さんもここへ来てたんだ。

 彼女とは転校してからそれっきり会ってなかったけど、琢也の話によると一緒にいた人達と楽しそうに話していたみたい。

 もし恵利佳と出会っても今更何かするって事もないだろうし、元気そうならそれはそれで良かったよ。


「ねえ琢也、班の人達のところに戻らなくていいの?」

「あっ……いけねえ! 俺、トイレ行ってくるって言ったまま出てきちゃってたんだ!」

「マジか。引きとめて悪かったな琢也。俺達もう行くから」

「おう、またな」


 集合場所に向け、私達は歩き出した。

 校外学習もこれで終わりか。景色は綺麗だったし、懐かしい幼馴染にも会えたし、それなりに楽しかったかな。


 集合場所に戻ると、みんな既に到着していた。

 恵利佳の様子を見る限り、河村さんとは会わなかったみたいだね。

 由美は早速、撮った写メを私に見せてきてご満悦の表情。

 中野君と石塚君も、由美達と一緒に楽しんでいた様子。


 帰りのバスは、いつの間にか広場のすぐ近くの駐車場に集まっていた。

 先生の指示で、私達は再びバスへと乗り込んだ。


「あれ? 先生、小岩井君が居ません」


 小岩井と同じ班の副班長、野々村さんの声に騒然となるバス内。

 まさかあいつ、戻ってきてないの?


 探しに出掛ける先生達。

 それから十数分後、アスレチックのネットの上で気持ち良さそうに寝ている小岩井の姿が発見された。

 先生達から大目玉をくらったのは言うまでもない。

お読みいただいて、ありがとうございました。

※大事な事でも無いのに二回言っていたセリフがあったので修正しました。

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