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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その1 はじまり
14/106

第13話 校外学習(1)

 校外学習当日。

 窓の外の眺めると、天気は快晴。


「玲美ー、早く起きなさい」

「はーい……」


 今日はセーラー服じゃなくて、私服での登校。

 私服って言ってもハイキング向けの恰好だから、動きやすそうなジーンズと防寒対策にフード付きパーカーを着ていこう。

 顔を洗って寝癖を直し、リビングに行くと、珍しくお父さんが朝ご飯を食べていた。


「お父さん、おはよう」

「うん、おはよう」


 新聞を広げ、コーヒーを飲んでいるお父さん。

 部屋中にコーヒーの香りが漂っている。


「今日はハイキングだったな」

「そうだよ。隣町にあるハイキングコースを歩くんだって。そんなに高い山じゃなくて、近所の人達も歩くようなところらしいよ」

「そうか。まあ、気を付けていきなさい」


 お父さんはそう言うと、テレビのチャンネルを変えてしまった。

 いつもこの時間は、再放送のよくわからないアニメ見てたのに……。

 私が生まれる前のアニメらしいけど、何気に続き気になってたのになぁ。

 マーガリンと蜂蜜を塗ったパンを頬張り、私も仕方無く報道番組を見ていた。


「それにしても、お父さんがこんな時間までいるなんて珍しいね」

「今日は取引先に直行だからな。たまにはこうして娘ととる朝食も悪くない」

「お父さん、コーヒーって美味しいの?」

「特別美味しい事は無いが、まあ……習慣みたいなものだな」


 お父さんとの他愛も無い会話。

 アニメは見れなかったけど、たまにはこういうのも悪く無いかもね。


「さて、そろそろ行くか。じゃあ気を付けて行ってきなさい」

「はーい。お父さんも気を付けてね」

「ああ。それじゃ母さん、行って来るよ」

「いってらっしゃい」


 お父さんが仕事に向かったので、私はすかさずチャンネルを変えた。


***


「じゃあ行ってくるね」

「気を付けていくのよ。悠太郎くん、ちゃんとうちの子を見ていてあげてね。玲美、怪我だけは気を付けなさい」

「わかってるよー、もう」

「大丈夫ですよ。班も一緒だしちゃんと見てます」


 お母さんってば心配性だなあと思いつつ、小学生の頃の遠足で怪我をして、散々心配を掛けた事を思い出した。

 あれ以来、遠足やキャンプ、修学旅行の時でもお母さんは心配そうに言っていたっけ。

 めんどくさそうに返事してしまった事をちょっとだけ後悔しつつ、私達は学校へ向かった。


「そういえば、今日は髪縛ってないんだな」

「そんなに伸びてないし、今日はいいかなって思ってさ」

「遠足の時とか縛ってたろ?」

「そういえばそうだったね。歩く時邪魔になったら縛ろうかな」


 中学校に続く坂道。

 いつもと違って、今日はみんな私服だからちょっと不思議な感じ。

 坂を下ったところにバスが数台停まっている。あのバスに乗って隣町に向かうんだね。


「晴れて良かったよな」

「そうだね」


 私達は下駄箱で靴を履き替えて教室に向かった。


***


「玲美、おはよう」

「おはよー、由美」


 由美は、ワンピースに膝までのスパッツという可愛らしい姿。

 そういえば、クラスのみんなの私服姿を見るのは初めてだね。


「ごきげんよう、日高さん」


 どこの貴婦人かと思ったら女帝さんでしたか。

 あんた、白い帽子とワンピースって、軽井沢にでも旅行に行くつもりか。


「伊藤様の私服姿が見られるなんて! 私、もう死んでもいいです!」


 鈴木さんは悠太郎を見て大はしゃぎ。そしてキャーキャー騒ぎだす女帝達。

 そんな彼女達をジト目で見ている悠太郎。


「よう、伊藤! 今日はよろしく頼むぜ」


 そこに現れた思いっきり山男の恰好をした石塚君。

 ジーンズとTシャツ姿に上から長袖シャツを羽織ってるだけの悠太郎と比べ、彼のハイキングに対する真剣さが伝わってくる。


「随分重装備だな、お前」

「馬鹿野郎、山をなめるんじゃねえよ」


 山って言っても、近隣の住民も来るような公園みたいなところだって聞いてたけど……。

 悠太郎と石塚君が話していると、遅れて中野君がやって来た。


「おはようございます、皆さん。本日は良いお日柄で」


 硬い。硬いよ、中野君。

 順も最初はそうだったけど、彼も負けず劣らず、中学生とは思えないほど硬すぎるよ。

 そして、チノパンにポロシャツIN。休日のお父さんだこれ。


「小柳さんはまだ来ていないのですか?」

「そういえば来てないね。休まないでって言っておいたんだけどね」


 そろそろ先生が来る時間だ。

 最近はちゃんと学校に来ていたし、もしかして本当に体調不良なのだろうか?


「ちょっと小耳に挟んだ情報なんだけど、他の中学の奴らも同じ場所でハイキングするらしいぞ」


 他校の生徒も来るのか。

 知ってる人もそうそう居ないだろうし、正直どうでもいい情報だけど、石塚君ってどこでそんな情報掴んできたんだろう。


「小柳さん、遅いね」

「どうしたんだろう」


 由美と話していると、廊下を走る音が聞こえた。

 そして、勢いよく開く教室のドア。


「ま、間に合った……」


 肩で息をしながら銀色のジャージ姿で現れた瑠璃。

 そして、鳴り響くチャイム。


「悪ぃ、ちょっと家出る時揉めちゃって……」


 私達のところへフラフラと歩いてきて一言言うと、おぼつかない足取りで自分の席へ向かって行った。

 さっき、家を出る時揉めたって言ってた? 何かあったのかな。


「よーし、お前ら! 出席を取るぞ!」


 教室に入って来た美野先生の着ているTシャツのロゴは、元のロゴが何なのかわからないくらい伸びきっていた。


***


 一度校庭で集合し、坂の下に停まっていたバスに向かって行く。

 目的地までバスで行けるっていうのは楽でいいね。


「座席は……班ごとだな。俺達は右側の前方だ」


 座席票を確認する悠太郎。

 それぞれの班の前の座席には、班長と副班長が座る事になっているみたい。


「体調が悪くなったりしたら言ってね」


 後ろに座る班のメンバーに声を掛け、副班長の仕事はひとまず終わり。

 心なしか、瑠璃の体調がちょっと悪そうに見えるんだけど、走って来たからかな?


「瑠璃、体調が悪かったら我慢しないでね」

「ああ、大丈夫。ちょっと寝るわ……」


 そう言うと、瑠璃は腕を組んだまま目を瞑ってしまった。

 隣に座る中野君は、突然デイパックから国語の教科書を取り出し読み始めた。

 彼は勉強熱心な人なんだろうか?

 今は止まってるからいいけど、バスが動き出した時もそんなのずっと読んでたら酔っちゃうよ?


「ねえ玲美、ハイキング楽しみだね」

「由美はずっと楽しみにしてたもんね」

「みんなと一緒に行くっていうのが楽しいんだよ」


 由美はしおりを持ってニコニコ顔。

 そうこうしているうちに、バスは静かに動き出した。

 前方の車窓から見える景色は、普段の私の視点よりも数段高い。

 こんな大きな車を運転できるなんて、バスの運転手さんって凄いんだね。


────────

────

──


「最初は、途中にある広場を目指すんだな」

「山って言うより公園って感じだよね」

「ここにもアスレチックとかあるみたいだな……雲梯もあるようだ」

「勝負しないからね?」


 悠太郎とお喋りしていると、突然後ろの方から呻くような声が聞こえてきた。


「き……気持ち悪い……です……」


 予想通り、中野君は酔ってしまったらしい。

 バスの中で教科書なんて読むからだよ。

 私は中野君に酔い止めを渡した。


「そういえば、由美」

「ん?」

「さっきからずっとしおりばかり見てるけど、大丈夫? 酔ったりしてない?」

「全然大丈夫だよ」


 笑顔で返す彼女の持つしおりの表紙には、例のクマ達の絵が描かれていた。

お読みいただいて、ありがとうございました。

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