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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その1 はじまり
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第12話 変な夢

 今日のホームルームは、校外学習の班決め。

 中学生になっても、こういうところは小学校の時とあまり変わらないね。

 由美と話していると、悠太郎がこっちにやって来た。


「悠太郎、一緒に班組む?」

「もちろん。で、俺以外の男子だけど、石塚と中野でどうだ?」


 石塚って石塚圭吾(いしづかけいご)君か。たしか、趣味が将棋の人だったね。

 中野君ってどんな人だっけ?


「ちょっと連れてくる」


 そう言って、悠太郎は二人を呼びに行った。

 男子はそれで良いとして、女子はあと一人か。


「瑠璃~、こっちおいで」

「どうした?」

「はい、これで女子は三人揃ったね」


 何か言いたげな瑠璃は無視して、悠太郎も二人を連れてきたので、これで私達の班は完成。


「俺、中野友一(なかのともかず)って言います。日高さん、明川さん……えっと……」

「この子は小柳瑠璃ね。自己紹介の途中で帰っちゃった事で有名でしょ?」

「ああ……。ともかくよろしく」


 隣で何やらワーワー言ってる瑠璃は置いておいて、このあと石塚君とも改めて自己紹介し合った。


「せっかく一緒の班になったんだし、仲良くしようね」


 由美の笑顔に顔を赤らめる男子二人。

 わかるよ、由美は可愛いもんね。私だって時々顔を赤らめたくなるくらいだよ。


「さて、次は班長と副班長を決めなきゃな」

「誰がやるんだ?」

「僕は、伊藤君がいいと思うよ」


 班長は男子達が話しあって、なんやかんやで悠太郎がする事に決まった。

 あとは副班長か……どうしようか。


「俺が班長するんだから、副班長は玲美がやってくれよ」


 とんだとばっちりだ。


***


 行先は隣町にあるハイキングコース。

 長距離歩行って、もう完全に遠足の強化バージョンじゃないか。


 副班長の仕事は主に班長の補佐みたいなものみたい。

 班長が悠太郎じゃ無かったら丸投げしてたんだけどね。


「瑠璃、校外学習の当日休んだりしないでね」

「ん? ああ、わかってるよ」


 石塚君と中野君も交えて色々と話しあい、うちの班は大体まとまった。

 初めは瑠璃を警戒していた彼らも、話しているうちにすっかり仲良くなっていた。


「それじゃあ委員長と副委員長、あとは任せたぞ」

「はい」


 山本君と川田さんが前に立ち、校外学習の注意などをまとめた。

 今日も山本君の七三分けは素晴らしい比率で分けられている。


 さすがに校外学習ともなると、おやつとかは無いみたいだね。

 今回はボケれないね、小岩井。


「校外学習のしおりの作成に当たって、表紙の絵のデザインを募集する事になりました。やってみたい班は、今週中に作成したデザイン案を私のところへ提出して下さい」


 表紙の絵のデザインね。

 めんどくさそうだし、うちはやらなくてもいいか。


「玲美、わたしデザインしてみたい!」


 ああ、うちの姫が反応してしまったよ……。

 しょうがないね……由美、こういうの好きだもんね。


***


 お昼休み。

 由美は早速しおりのデザインを始めていた。

 一生懸命何か円のようなものを描いている。


「これは何を描いてるの?」

「クマだよ」

「クマかぁ」


 円を一生懸命描いてたのはクマを描きたかったんだね。


「できた!」


 由美画伯の渾身の作品が完成した。

 一応耳らしいものと尻尾も付いている。

挿絵(By みてみん)


「ねえ由美、一つだけ聞いていい?」

「なぁに?」

「校外学習のしおりに何でクマなの?」

「わかんない」


 そっかぁ……そうだよね、うん。


「でもね、急にクマが描きたくなったの。そういう時ってあるでしょ?」

「無いよ?」


 そんな悲しそうな顔されても、無いものは無いよ。


「このクマはね、玲美なんだよ」

「そっか。私ってクマだったんだね」


 似たようなクマの絵をどんどん描いていく由美。

 どうやら、班のメンバー全員をクマにして描いているようだ。


「お、なんだこれ?」

「クマだよ~」


 瑠璃は、驚愕の表情で由美を二度見した。

 そして、困ったような顔で私の方をちらりと見た。


「これはね、小柳さん!」


 うん、そうだね。目付きがちょっと悪いね。

 でも何で、そんな『かかってこいやー』みたいな手付きしてるのかな?


「玲美……、あたしはどうしたらいいんだ……?」

「優しく接してあげて」

「お……おう……」


 私達はお昼休みの間、由美画伯を見守り続けた。


***


 放課後になり、私達は由美の描いた絵を川田さんのところへ持って行った。


「川田さん、しおりの絵持ってきたよ」

「あら、もう描いたの?」


 由美画伯の描いたクマの絵を受け取る川田さん。

 しばし流れる沈黙……。


「ええ……。わかったわ」


 誰にともなく、川田さんはそう呟いた。

 何がわかったというのだろうか。


「学年全体で選考するから、結果はもう少し待ってね」


 受け取ったイラストをクリアファイルに入れると、川田さんは立ち上がった。


「じゃあ、私は部活があるから」


 教室を出ていく川田さん。

 副委員長やってるのに、部活までやってるんだ。凄いなあ。


「じゃあ帰ろっか」

「うん」


 私達は恵利佳と合流し、帰宅する事にした。


***


「悠太郎、お疲れさま」


 部活を終えた悠太郎が、うちに自転車を取りに来ていた。


「今日は疲れたな。ひたすらレシーブさせられてさ」

「あら。手、大丈夫?」

「大丈夫だよ。今日は久しぶりに母さんも帰って来てるし、急いで帰らないと」

「そっか。じゃあ、また明日ね」

「うん、また明日」


 悠太郎は自転車に跨ると、颯爽と走って行った。

 なんだかんだで、悠太郎もお母さんが帰って来てると嬉しいんだね。

 急ぎ過ぎて事故に遭わないようにね。


「あら、悠太郎君もう帰っちゃったの?」

「今日はお母さんが帰って来てるんだって」

「そっか~。悠太郎君が食べてくと思って、カレー作り過ぎちゃったよ」

「サラダも多く作り過ぎちゃったかも……」


 お母さんは残念そうな顔で、カレーの入ったお鍋をおたまで回していた。

 私はサラダの入ったボールにラップを被せて冷蔵庫にしまった。

 残飯処理は任せたよ、お父さん。


***


 その日の夜中、なんだか変な夢を見て目が覚めた。


 誰かが差し迫ってくる夢で、とにかく私達は逃げてと叫んでいた気がする。

 でも、誰にそう言ってたんだろう……?

 忘れちゃいけない内容だったと思ったのに、気を落ち着ける為に水を飲んだ時にはあやふやな記憶になってしまっていた。


 こんな体験、小学生の時以来だ。

 もしかして、恵利佳にまた何か悪い事が……?

 ううん……そんな夢じゃ無かったと思う。

 それに、恵利佳に関しては小学校の時に全部終わったはずだし……。

 そもそも逃げてって、何から?


 寝る前に見ていたテレビの影響かな?

 それだったら、問題無いんだけど……。なんでだろう、何かが引っ掛かる気がする……。

お読みいただいて、ありがとうございました。

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